【ネッフリ】『狩りの時間』感想文

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《推定ながら見時間:15分》

一言で言えば近未来韓国版『GONIN』のような映画なのだがいやもうこれが滅法面白い。近未来といってもSF的な設定やガジェットはあまりなく現在の荒廃した姿といった感じで、そのペシミスティックな未来予想図の中で繰り広げられるのが金なし親なし未来なしな底辺ヤングメンズの闇カジノ強盗、そして闇カジノを運営している韓国ヤクザの依頼を受けた謎の殺し屋による「狩り」というわけで…現代でもできるだろ!

いや、その現代でできることしか所詮できやしない未来というのが逆に効いているわけですよ。新しいものなんて何もない。あるのかもしれないがどうせ底辺には関係のないことだ。恐ろしくイマジネーションを欠いた近未来像は、そのイマジネーションの欠如によって想像力を刺激する。それに変わる何かが提示されるわけでもなくただ単に廃墟と化した商店やビルを切り取っていくカメラは、だからこそ現在の先にある近未来を印象づける。そういうわけでちっともSFらしくないのに実に見事な近未来ディストピアSFになってるわけです。

さて舞台は近未来ですがお話としては奇をてらったところのない王道クライム・サスペンス。ムショ帰りの主人公イ・ジェフンと彼を迎えた二人の幼なじみ(片方はインパルス堤下みたいな)は近未来韓国の未来のなさに大絶望、台湾の小島への脱出を夢見てこちらも一山当てたい闇カジノのバイト従業員と共に闇カジノ叩きを画策する。このへんちょっとだけ『ギャングース』みたいですな。

知り合いの闇銃器屋から武器を仕入れて闇カジノの図面から計画を練って保安要員のギャング詰め所からカジノまでの距離と到達時間を調べで準備万端。さぁ、叩くぞ! と、ここまででだいたい上映開始30分。非常にスピーディな展開で結構なことだがトータル140分弱の長尺でそんな早くに闇カジノ叩きの場面に入ってしまって大丈夫なのだろうかと一旦引いた目で見てしまう。

その懸念が更に強まったのは闇カジノ叩きがびっくりするほど首尾良く成功してしまった時だった。物騒にもアサルトライフルなんかで武装していたとはいえ強盗素人の底辺ヤングメンズがそんな簡単にギャング経営の闇カジノを叩けるとは! だったら叩かない方が損じゃないか! どうせ奴ら非合法的に荒稼ぎしてるわけだし!

だが、である。この時点で上映開始約45分ほど。ということは残り90分がむしろ本番、闇カジノ叩きはほんの序章に過ぎず、ここからが「狩りの時間」だ。面子を潰された上にヤングメンズがそうと気付かぬうちに盗み出したハードドライブにマネーロンダリングの記録が入っていたとあって、ギャングもいよいよ本気出す。ヤングメンズのサーチ&デストロイのために正体不明のやべぇ殺し屋(パク・ヘス)がギャングに雇われ、ヤングメンズの地獄の逃避行が始まるのであった。

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まぁそれにしてもこの狩りが怖いこと怖いこと。殺し屋なんだけれども幽霊みたいなんですよパク・ヘス。神出鬼没だし、だいたい逆光で表情が読み取れないし、暗闇の中にボーッと突っ立ってたり、そこから急に撃ってくるし。絶対に逃げられない感じが超恐怖。正確で規則的な射撃に伴う生気を欠いた銃声すらめっちゃ怖い。もはやサスペンスを超えてホラーの域。

実際、闇カジノ襲撃以降は夜霧に包まれた無人の町や誰もいない深夜の病院を主な舞台としたり、地下駐車場の照明がパン…パン…と順々に消されていく(伝わりますかねこの雑表現で)などきわめてホラー映画的な舞台設定・撮影・音響・演出で撮られていて、行きはよいよい帰りは怖いってなもんで殺し屋パク・ヘスは自分のしでかしたやばすぎるお仕事に怯える主人公イ・ジェフンの恐怖と罪悪感を投影した怪物としての側面が出てくる。

駐車場の暗がりを見てはジェフンはそこに殺し屋ヘスを見出す。無言電話がかかってきてもそこに殺し屋ヘスを感じる。どこまでも追ってくる幽霊、決して死なない怪物としてパク・ヘスが描かれるのはそれがイ・ジェフンの心の中に存在するからなんですな、象徴の次元では。だからお話は次第にジェフン自身がヘスに仮託された自分の心の弱さ、絶望しかない現実から目を逸らしてひたすら逃げることしかできなかった自分をどう克服するかっていう方向にシフトしていく。闇カジノ叩きから始まるくせに案外着地点は感動的である。

ところで近未来韓国版『GONIN』と書いたのは大まかな展開が似ているからでもありますが(『GONIN』の殺し屋、ビートたけしも幽霊のようであった)、この近未来韓国は財政破綻してウォンが紙切れになったという設定で、バブル崩壊で人生を狂わされた男たちの物語であった『GONIN』とは未来の見えない時代の空気を共有していたからでもある。

設定としては近未来でも『狩りの時間』が参照しているのは最近『国家が破産する日』のタイトルで映画にもなった1997年の韓国通貨危機で、今のデジタル&キャッシュレス社会韓国もその際に救済を行ったIMFの要求が遠因になっているらしいが、こうして国としては財政破綻を回避できたものの大規模な緊縮によって経営合理化は進み同時に中小企業は大打撃、労働者は路頭に迷う事態になってしまった。

都市部は栄える一方で郊外の商店街なんかは『ブレードランナー2049』に出てくるラスベガスばりの廃墟と化した『狩りの時間』は韓国がかつて経験した風景の拡大版というわけで、ジェフンの抱える個人的な恐怖には韓国の国家的なトラウマも重ねられているのだ。

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まぁそういう風にはたぶんあまり受け取られていなかったと思うのですが、やっぱり石井隆の『GONIN』もそんな映画でしたよね。崩れゆく時代になんとかして突破口を開けたてやりたい。たとえもう終わっていたとしてもこのまますごすごとフェードアウトなんかしたくない。

廃墟の作家・石井隆は今や忘れられようとしているかつてあったものに寄り添ってその生の不可能な再生を試みる。あらかじめ失敗の宿命付けられたその悪あがきが石井隆のノワールやメロドラマの基調であるし、そこがジャンル映画の枠を超えた…と石井隆の話になってしまったのでそれはまぁ、いいとして。

ともかく、『狩りの時間』にはそのような時代と闘う姿勢があって、それがたまらないという話。今の韓国がいかに過酷な格差社会かというのは『パラサイト 半地下の家族』を観た人ならなんとなく想像できるんじゃないだろうか。それに対する抵抗が『狩りの時間』という映画の根幹にある。

人間を捨てた殺し屋ヘスの機械的な死の銃撃に格差社会の底辺からなんとか這い上がろうとするジェフンは闇雲な生の銃撃で応答する。銃声でドラマを表現するなんてニクいねぇ~。色々ご都合主義的だったりざっくりしていたりする映画ですが、低温のアクションや弛みなく張り詰めたサスペンス、粘性のホラー演出の素晴らしさであるとか、韓国現代史を参照しつつ韓国の未来と現在をひとりの闇カジノ強盗に託す象徴化の巧みさ、時代とリンクした負け犬の爆発的な感情の発露には抗えない魅力がある。

『GONIN』とか、『ブレードランナー』とか、『ブレードランナー2049』とか、カルト・クラシック『狩人の夜』(これも大恐慌時代の貧困キッズが変態殺人鬼と闘う話だ)とか、あとまぁ『ターミネーター2』とか…を彷彿とさせる、このままじゃ終われねぇよ精神の名作群に連なる傑作、とまで言い切ってしまうと大げさに言い過ぎなような気もするのでとにかくおもしろいていへんコリアン・ノワールなのでみんなみてくださいね、ぐらいに留めておこう。

※あと出番は少ないですが闇銃器屋の店長が良いキャラでした。

2020/4/28 追記:主人公チェ・ウシクって書いてたんですが顔と俳優名の不一致による間違いだったのでイ・ジェフンに直しました。

【ママー!これ買ってー!】


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石井隆の映画は大好きなのだが実は『GONIN』はそこまで面白かった印象がなく、今回『狩りの時間』を観てあれこれ比較しながら前に観た時には気付かなかった面白さを発見できたのは大変よかった。もっかい観よう。

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