田舎めっちゃ厭映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

さいきんはなんだか韓国映画の新作観たい欲があまりなくなってしまった。現代韓国映画のクオリティには目を瞠るものがありぶっちゃけミドルバジェットのアクションとかSFならもうハリウッド映画なんかより全然おもしろいだろう。ジャンル映画の王道を画と音と演技の力で見せきる演出力にしても、漫画的な奇抜な発想をそれ一本で押し切るのではなく社会問題や世代の問題を絡めたドラマに昇華する脚本力にしても見事なもので、確かに巷間でよく言われるように「上澄みだけ輸入されている」面もなくはないだろうが、いや上澄みだけ掬ってこのレベルとこの内容の振れ幅なら逆にその下にどんだけオモシロ映画が未輸入のまま眠ってるんだよって感じである。

ひとまずジャンル映画を例としたが非ジャンル映画、すなわちヒューマンドラマや実話系にしてもマジで例外なくすべてが面白いので充実どころの話ではない。ポン・ジュノの『パラサイト』がアカデミー賞作品賞の栄誉を授かったのは記憶に新しいところだが、『パラサイト』で貧困親父を演じたソン・ガンホが庶民派タクシードライバーを演じた(映画のポイントはそこではないが)『タクシー運転手』も話題を呼んだし、これらに比べれば上映館が少なくミニシアター系と言ってもよさそうな『国家が破産する日』とか『工作 黒金星と呼ばれた男』も、完成度だけ取ればそこらのシネコンでやってる大作映画なんか比較にならないだろう。またNetflix配信のオリジナル作品なんかも非常に完成度が高い。

韓国映画史を知っているわけではないので安易にほざくなと言われれば返す言葉は一言もないのだがこんなに年がら年中おもしろい映画ばかりやってるんだから今や韓国映画黄金期と言っても差し支えなかろう。あったらごめんなさいすいません先に謝っておきます。まともかく、どれが飛び抜けてという話ではなく、規格化されているというか、すべての映画が一定以上のオモシロ水準には達していて、後はそこにどうオリジナリティを加味できるかとか、俺主観で言えば今やそういう次元に韓国映画はある。あるのである。

いやぁ面白いなぁ韓国映画。あぁ面白い。面白い面白い…面白すぎて、もうどれを観ても面白いのが分かっているので皮肉にも韓国映画自体への興味が「いつものハリウッド映画」ぐらいな程度にまで下がってしまった。観る前からある程度は確実に面白いと分かっている映画ならもう正直なところ観てもしょうがないんじゃないかと思うところもあるわけで、これは俺の逆張りメンタルのせいもあるかもしれないが…現代韓国映画は成熟の代償に鮮度を失った、という面は少なからずあるのではないかと思うのである。ポン・ジュノの映画にしたって『パラサイト』と『吠える犬は噛まない』を比較するなら、完成度が高いのは前者でも、役者も作劇も新鮮で映画の醍醐味を感じるのは後者なんである。まぁ俺の場合はということですが。

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ほんでそんな状況の中で公開された『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』は『親切なクムジャさん』を最後に映画には出ていなかったイ・ヨンエのなんと14年ぶりの映画復帰作だそうで、いやぁ、感慨深いものがありますね。だって映画の作りもまるで14年前みたい。荒削りで、理不尽で、残酷で、神話的で…明らかにご都合主義的でバランスも欠いているが、まぁそういうものかと納得させてしまう力がこの映画にはある。

最近の韓国映画になんとなく興味が持てなくなっていた理由はこれなのかなと思った。そうだよこういう力が無くなったよなー韓国映画なー。ま無くなったとまでは言わないまでも、鮮度が落ちるっていうのはこういう力を捨てるっていうことだと思うので、業界全体でオモシロが規格化されてレベルが上がってきちゃうと野放図な力が見つかりにくくなるのも事実(ハリウッド映画がそうであるように)

今の韓国映画を観るときには面白いことが分かりきっているものだからどう面白いのかその技芸を堪能するという態度にどうしてもなってしまって、実際に予想外の一撃を食らうことなんかほぼないし、作り手の方もおそらくそんな観客心理がよくわかっているからいかに非の打ち所なく作るかっていうのが映画作りの主な関心事になっているわけです。マ・ドンソクなんかその最たるもので、あれは観客に「ヨッ! 待ってました!」って思わせたりあるいは逆に「そうきたか!」って思わせることもあるでしょうけど、みんながマ・ドンソクを知っているっていう前提でそのキャラをこの映画ではどう見せるかっていう、ハイコンテクストな遊びですよね。で、その観客の期待を裏切る使い方を今の韓国映画業界はしないわけですよ。

だからですねぇ…最近の面白い韓国映画とはちょっとベクトルの違う面白さっていうか、久々に韓国映画を観ていてガツンと衝撃を受けた感じがしましたね。いやよくあるやつなんですよお話は。よくあるってこともないでしょうけど…コリアン・ノワールだと都会には人情がなくて田舎には人権がないのが当たり前なので、子供が行方不明になった都会人のイ・ヨンエが都会で薄情を食らって田舎では犯罪を食らってみたいなお話で、そこは定番といえば定番ですごい捻りがあったりするわけじゃないんです。

ですけどそこを臭気を感じさせるほどの俳優の演技とか圧倒的な風景とかそれらを捉えることに専念するカメラで正面突破しようとする力業にヤラれてしまうし、あぁ映画これだけあれば面白いじゃんみたいな、逆にあまり洗練されていない古くさい作りの映画だからこその新鮮さを感じたりもする、たとえ非情で弱者に無関心な世界でも希望を失うなっていうどこまでもシンプルなメッセージもこういうざっくりした映画の方が巧い映画よりも響いたりだってするんです。

いいじゃないですか、痛ましくて恐ろしくて優しくも儚くて。ミステリー、バイオレンス、格差社会、警察腐敗、児童虐待、都会人の偽善、田舎人の卑屈、そしてリベンジ…これだけあれば映画できるんですよと書き出してみたら要素テンコ盛りだったというあたりが実にコリアン・ノワールだが! それを勢いや情感を潰してまで巧くまとめようとしないところがすごく誠実でよかったというお話。イ・ヨンエの静かに鬼気迫る芝居も見事でございました。あと子供をいじめて喜ぶ田舎のヤバい兄ちゃんがリアルで怖すぎ。

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田舎の人はめっちゃ怖いという映画。田舎ギャングを演じるジーン・ハックマンの「カンザスに警察はねぇ!」みたいなの名台詞でした。

4 Comments
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さるこ
2020年9月30日 3:31 PM

爪に爪なし、瓜に爪あり。
こんにちは。
見る前からお腹が痛くて、絶対辛い映画だと予想できるのに見てしまいました。ベタでもきっちり観客をどこかへ連れ去る、ほんとに良くできてますね。
『吠える犬は噛まない』、よかったですね。瑞々しくて。風刺のきいたフランス映画みたいだったな。でも切り干し大根やら地下室やら、ほほう、と思う所もあり。
最近見た韓国映画、『色男ホ・セク』はどうもアイドル映画だったみたいなんですが(観客層から察するに)、きっちり、映画としての仕事をしてましたよ。
長文失礼しました。

さるこ
Reply to  さわだ
2020年10月1日 5:16 PM

ご返信ありがとうございます。
ホン・サンス作品は『自由が丘で』『それから』を見ました。手足の長いキレイな女の子が可愛かったな。そしてやたらと酒を飲む。儒教思想の深い韓国で、大丈夫?と心配。
監督は違いますが、『はちどり』や『サマリア』の描く若年層の女の子もヒリヒリして好きです。