バトルフェミ映画『REVENGE リベンジ』の感想(ネタバレおおめ)

《推定睡眠時間:15分》

最近は映画を観るときの寝落ちが異様に早いのでこれなんか最初も最初、ハンティングのためヘリで荒野の別荘に降りたった主人公一行が邸内に足を踏み入れたその瞬間にもう入眠ですからね。のび太かよって思いますよ自分で。
俺にとっては恒例ですが目が覚めるのはやはり大きな音などを伴う緊迫した場面。いかにも嘘くさいが実際そうなのだからしょうがないのだが主人公のマチルダ・ルッツが強姦される場面だ。

もしかするとそこに至るまでが退屈だったのかもしれないが俺の映画スタート地点はそこですからね。玄関開けたら五分でレ…それはさすがに品がなさ過ぎる気がしたので自己検閲いたしましたが目を開けたら即ドン底、それからマチルダ・ルッツの怒濤の血みどろ復讐劇が幕を開けるわけで、俺からしたらもう面白要素しかない。
面白かったですよ『REVENGE リベンジ』。これはですねこの監督コラリー・ファルジャという人はみんな絶対覚えておいた方がいいですよ。登場人物たった4人の画的にも展開的にも予算的にも貧相な殺し合いをこーんな盛り上げられるのはちょっと才能。フレンチ・スプラッター業界にまたすごいやつ来たなって興奮気味ですよ今。

物語。もう単純も単純。上と重複するが3人の男と1人の女が外界から隔絶された荒野の別荘に来る。ハンティング3人組のリーダーがケヴィン・ヤンセンスという人。紅一点のマチルダ・ルッツはこの人のエロい不倫相手。
寝ていたから詳細がわからないがー、どうもヤンセンスはルッツをほかの二人に見せびらかしたかったっぽい。このほかの二人というのはヤバそうな目つきをしたヴァンサン・コロンブ、気弱風デブのギヨーム・ブシェード。

人里離れた別荘内。外は糞みたいに暑い。ハンティングで気分は野蛮方向にスイッチ。ほかにやることも特にない。そのうえヤンセンスのエロい愛人自慢とくる。
やがて、ついに何かがキレてしまったコロンブがルッツを強姦。ブシェードはその光景を目撃していたが見なかったことにする。
既にドン底っているルッツだったが金で事件をもみ消そうとするヤンセンスの申し出を断ったことからドン底の更にまたドン底へ。完全に自分の言いなりな頭の悪い性奴隷だと思っていた愛人の突然の反抗にこれまたキレてしまったヤンセンスによって、崖から突き落とされてついでに崖下の木が腹に直撃して串刺しになるのだった。

曲がりなりにも(?)ヤンセンスを愛していた風のルッツであるからこのスーパーな裏切り行為に堪忍袋が爆発した。
ふつうモズのはやにえ状態になったら生を諦めると思うがそこまでされたら生きないわけにはいかないし殺らないわけにもいかない。
たとえそれが生理学的ルールをちょい逸脱しているような気がしても知ったことか。ゾンビの如く蘇ったルッツはランボー(一作目)のように洞窟に身を潜め、そして復讐の荒野に足を踏み出すのであった。

それにしてもモズのはやにえから生き延びるなんて恨み人間の執念すごい。いやぁ腹にぶっとい穴開いた状態で戦闘とか無理っしょーと思いながら気弱風デブのブシェードに夜襲をかける場面を見ていたのですが後々になって気付くのはこのときルッツはまだ腹に木棒が刺さったままなのだった。
嘘でしょ! 確かに下手に抜いて血ぃブシャーってなるよりは刺したままの方がいいかもしれませんがそれで肉弾戦に持ち込んでデブ殺すとか嘘でしょ。超こわいじゃん恨み人間の執念。四谷怪談だなもうこれ。

まんまやんけのツッコミを受けそうで言いにくいが木棒というのはやっぱでも肉棒のメタファーでしょ。現実にあり得るかあり得ないかとかそういう話じゃないよねそしたら。
俺はそのへんの大部分寝ていたわけですがー、どうもルッツというのはわりと男に依存するタイプの自立志向の薄い人。だから抜くよね。今まではヤンセンスの棒を甘んじて抜いてたんですけど、こんな仕打ちを受けたらさすがにもう男依存じゃいかんわってなって自分の腹に刺さった棒を抜くんですよ。

レイプリベンジものの強豪国といえばイタリアであるからそれを意識してかマカロニ的ゴア描写が半端ない。フレンチ・スプラッターの系譜でもあるんだろうという感じだから見た目には即物的だけれども、しかしこれは寓意と象徴に満ち満ちたひとつの神話として見た方がたぶんよいんだろう。
ということが明らかになるのは件のランボー(一作目)的な木の棒抜き抜き場面で、いやもうこれがめちゃくちゃ痛くて見ていられないのだが、おもしろいのは素面だと痛すぎて抜けないから幻覚系のドラッグを使って抜く。

これネイティブアメリカンのビジョンクエストみたいな感じですよね。人里離れた洞窟入って幻覚剤やって、そのイニシエーションを通して子どもの自分を脱皮して大人になるっていう。
抜いたら当然ながら血ぃがブシャブシャ出る。うー痛い。痛いけどこの痛みから逃げたら死んでしまう。ビールだかエナジードリンクだかの空き缶を焼きゴテにしてルッツは止血する。

気絶するように眠り込んだその夜はドラッギーな悪夢を見た。走馬灯のように浮かぶかつての自分と自分を食い物にした男ども。ヤンセンス。
目を覚まして腹を見ると焼きゴテにした空き缶の文様が転写されてしまっていた。なんていうのか知らないがなんか翼を広げた鳥である。
もうキャンデーとテンコを舐めて男に媚びる私ではない。その姿は大人になった部族の戦士であった。

ここからもうフルスロットルだったよな。いや面白れぇのよ。広い荒野に殺しのターゲットたった三人でしょ。ビジョンクエスト的棒抜き儀式の前に一人は殺してるからあと二人だ。
大丈夫かよって思うじゃん。こんな何もない場所であと二人ダラダラ殺してもなぁみたいな。でも杞憂超杞憂。この殺し合いが素晴らしく…実に見事な西部劇的アクション設計だと思ったな。

間の取り方とか距離の詰め方が絶妙なんですよ。ジラしとハズしの緩急とかね。ちょっとサスペンス的なというかホラー的な趣向があってですね、どっから襲ってくるんだろうどっから襲ってくるんだろうっていう緊張感があって…からの、突然の襲撃とマカロニ的人体損壊!
ルチオ・フルチの西部劇っぽいかもって思いましたね。フルチもこういうネチっこいアクションを好んでやるし、それに『ビヨンド』の配管工腐乱ゾンビみたいなデブのグロ溺死体とか、あと足をですね足の裏を鋭利なガラスで…これはもうめちゃくちゃ痛いんですけどこういうところもフルチっぽい。

フルチはさておきガラスで裂く、男に裂け目を作るというのもストレートに棒で身体を貫かれることに対応する神話的復讐だ。
俺がこの映画を推したいのはそのメタファーがアート映画の文脈でなしに完全に下世話なジャンル映画の文脈で為されていることで、そんなものあろうとなかろうとルッツVSヤンセンスの別荘決戦には激アガったりしている(なんとこれが小さな回廊をぐるぐる回って追いかけっこをしているだけなのだがメチャクチャ編集と撮影と音楽が巧いんである)ので単純にサスペンス・アクションとして面白いというのが素晴らしい。

だってもう限界じゃん。出演四人でロケ地が荒野って限界を感じるじゃん色々、おもに予算的な面で。その枠内でこんだけ面白くアクションやってるのはやっぱすごいよ。不意に飛び出すブラックユーモアも気が利いてるしね。強姦後コロンブのヘタレっぷりには大笑い。切創で(※銃創だったかもしれない)はみ出す腸をサランラップのサラシで押さえるとか最高じゃん。
それに蟻を小便で溺死させようとするとか、したたる血に溺れそうになる蟻とか、ちょい奇妙な不穏ショットのさり気ない挿入というのもたいへんよい。とくに後者なんて蟻を超接写の超スローで撮っててなんかすごいんだよ。

すごいの連呼。しょせん俺の語彙力なんてそんなものですからまぁ各自適当な褒め言葉に読み替えたらいいが、すごいものはすごいとしか言えないからしょうがないんだ。
低予算ゆえの映画的に厳しそうな部分は神話的ベールに包んでむしろ逆利用、よくできた使い捨て系ジャンル映画に読みの次元とマジカルを導入する、というのは簡単にできることではないんだよ。

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