社会勉強映画『ギャングース』の感想

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脇目も振らずに最初から脇道に逸れるがこれ観た翌日に『新幹線大爆破』でお馴染みな佐藤純弥監督の初期作『陸軍残虐物語』と『廓育ち』っていうの名画座でやってたんで観に行ったんですが、びっくりしたよねそこで描かれる日本式組織の体質とか地方搾取の社会構造とか弱者が弱者を食うことの醜さ哀しさとか『ギャングース』とまるで変わらないじゃないですか…。

『陸軍残虐物語』は1963年で『廓育ち』は翌1964年の作ですよ。なにもぼくはそこで描かれるものが完璧にリアルなのだとは毛頭思ってないんですが、そうした組織の在り方や搾取の構造が今でも日本社会の病弊として描かれて、これはあくまで個人の感想ではありますがアクチュアリティを持っているというのはなんというかまぁ、とりあえず嘆息っすよね。

『廓育ち』は廓に貰われた女(三田佳子)の半生を描いた激辛メロドラマですが、その中にもし金を自由に使えたら何が欲しいか尋ねられた三田が「大きな家と…豪華な服と…」とか言いながら声を震わせ表情を曇らせていく場面がある。
金もなければ教育を受ける機会もなかった三田はそれ以外の金の使い道を想像することさえできない。そんな自分に三田は打ちのめされるが『ギャングース』にもあったよなそういう、想像力とか知識の貧困ていうの。

チンケな犯罪グループのアガリを命知らずにもぶんどって日銭を稼ぐサイケ、カズキ、タケオ(それぞれ高杉真宙、加藤諒、渡辺大知)の三人は最終学歴小卒ぐらいの年少上がり、完全に一般世間的なやつと繋がりが切れてしまっているので金の使い方といったら牛丼を食うとかラーメンを食うとかぐらいしか思い浮かばない(あと家を買うとか借りるとか)

少しだけ金に余裕ができたのでサイケとカズキで初めてキャバクラというものに行ってみたら押しの強い嬢が大塚愛の『さくらんぼ』を勝手に歌い出してデュエット要求。「え、知ってるでしょ? 中学ですごい流行ったよ?」
そんなの知らないし中学行ってないので世間の冷たさには慣れたものとはいえサイケとカズキ地味に大ショック。こういう無邪気な「当たり前」の押しつけは時として悪意ある差別よりも人を傷つけるので勘弁していただきたい。

『廓育ち』の三田佳子も幾度もそんな苦しみを味わってきたが、なんといっても一番響いたのは自分の口からまさにそんな言葉が出てきた時だった。
勇猛果敢で上昇志向の塊みたいな三人のリーダー的存在のサイケだったが、チンケな犯罪グループなんか叩いてないでその元締め・安達(MIYAVI)から金ぶんどってやろうぜ計画をカズキとタケオが提案すると反射的に猛反発してしまう。できるわけねぇだろ! 俺たちなんかにそんなことできるわけねぇだろ!

あんまりやる気がないカズキとタケオの首根っこを掴んででも犯罪グループ相手の強盗をやってきたはずのサイケがそう口にしてしまう。
貧困がもたらす最大の悪というのは貧困を生む環境とか組織とか社会というものを否定的に絶対視して、自分がその最底辺に置かれることを自ら肯定してしまう、そのように思考を馴致してしまうことなんだなぁと『陸軍残虐物語』『廓育ち』『ギャングース』と三本見てしみじみ思うのだった。

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金の使い方を知らないという意味ではラスボス・安達も実は同じでこの人、多重債務者の女の人を何十人もパンツ一丁にして床に寝かせて餌の付いた釣り針を高台からその顔に垂らすとかいうとんでもない上に意味がわからない遊びを全然楽しくなさそうにやっていたりする狂気っぷりだったが、暇があればそんなことをついやってしまうぐらいに金を増やす術は知っているがその金でなにをしていいのかは全然わからない人だったんである。

この映画に出てくる犯罪関係の人はほぼほぼ全員そんな感じで、とにかく金、金、金、と言ってるわりには得られた大金で具体的にどうしたいかの話がリアリティを伴って現れない。
振り込め詐欺グループの番頭(オーナーから金もらって実働部隊を統括するポジションらしい)金子ノブアキが振り込め詐欺の新人プレイヤー(実際に電話して小芝居をする人をそう呼ぶんだとか)に熱弁を振るう場面がある。

こーの日本の貧困率はこんなに高いんでぇす! 一人親世帯になるとなんと50%近くぅ! じゃあその金はどこへ行ったんだぁ!この国から金は消えちまったのかぁ!? あるんだよ!! 高齢者が溜め込んでるんだよ!!! 奴らの平均貯蓄額は1000万もあるんだよ!!!! つまり俺たちはその金を代わりに使ってやることで経済を回してやってるんだよわかったかコラァ!!!!!

あまりにも感動的だったので宴会芸用に覚えたい名演説。まったくその通りだとおもう。その怒りに関してはその通りだとおもう。詐欺グループの構成員もあんま恵まれてるとは言えない境遇の人ばかりだったが、この人ら稼いだ金でなにをしたいとかではなくて金を稼ぐことで自分たちを追い込んだ社会とか親世代に復讐してんである。
貧困の連鎖は復讐の連鎖。というわけで三人組がいかにして犯罪グループから金をぶんどるかのお話はいかにして復讐の連鎖を断つかの話にシフトしていくのだった。

ダークな展開でどぎつい場面も多かったが最終的には爽やかな映画だったなぁ。高杉真宙、加藤諒、渡辺大知のキュートもよかった、ギリギリのところで暗くならなくて。
あと『孤高の遠吠』のウメモトジンギが端役で出ていたのがちょっとうれしい(俳優になってたのか)。労働者の心意気と連帯で大いに泣かせてくれるトラック運転手役の勝矢という人は照明の当たり具合で東浩紀に見える。そこは、どうでもいいか…。

【ママー!これ買ってー!】


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主演が三國連太郎なんですが三國連太郎めっちゃでかい。熊。

↓原作らしいが未読


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