そう来たかSF『囚われた国家』感想文

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《推定睡眠時間:冒頭3分》

アメリカは囚われた。侵略され植民地となった。だが誰に? 『囚われた国家』のユニークなところは侵略エイリアン、全然マジ全然出てこない。出てくるのは植民地アメリカの暴動待ったなしな棄民どもと彼ら彼女ら同胞を監視する秘密警察、そして侵略者と手を結んで甘い汁を吸うエスタブリッシュメントに憎悪を燃やす地下組織ばかり。

都市の中心部に下層民立ち入り禁止の隔離区域を設けて自分たちはその地下で優雅に暮らしながら(『宇宙戦争』で地上は危ないと学んだのだ!)超テクノロジーで資源を吸い尽くそうとするエイリアンにとってアメリカ人など蚊のようなもの。まさしく蚊帳の外でアメリカは準紛争状態に入った。憎むべきはアメリカ人、倒すべきはアメリカ人、監視すべきはアメリカ人、手を組むべきもアメリカ人…裏切るのももちろんアメリカ人だ。

デイヴィッド・I・マッスンという(知らない)SF作家の書いた『旅人の憩い』という短編がある。近い将来だかなんだかよくわからないがものすごい戦争が大勃発。この戦争がものすごいのはどうやら時間をねじ曲げてしまう作用がある。見えない「敵」からの絶えざる攻撃と防衛・応酬が続く最前線では時間が超速で流れていく。最前線で過ごす10分は後方の1時間だ、後方の1時間は銃後の1年だ、というわけで1日も最前線で戦ってりゃ故郷で待ってる配偶者は死に子供は老い見慣れたはずの街の姿はすっかり変わり果てている。

『旅人の憩い』というタイトルはそんな過酷戦争の最前線に配属された兵士の束の間の休暇と帰郷帰郷を指しているのだが、それにしてもこの戦争はいったいなんなのだろうか、人々はいったい誰と戦っているのだろうか。戦地に近づくにつれて加速する時間、その極点からの、人類軍のそれと奇妙なほどによく似た攻撃…もしや、我々の敵は我々自身なのではないか? 我々は我々と戦っていたのではないか? と、そこで物語は終わる。

いろいろと頭の中でハイパーリンクが形成される思考促進型の映画なのだが『囚われた国家』を観て俺が第一に思い出したのはこの短編だった。ドローンで棄民どもを監視し反体制派は容赦なく弾圧し被支配者に序列をつけることで内紛を誘発しつつ自分たちは見えないところで資源掘削に勤しむエイリアンとは何者だろうか。それはたとえば近年アフリカを資源調達拠点としてチャイナ・マネーを武器に進出を図っている中国のメタファーかもしれない。シリア紛争に介入することでヘゲモニーの拡大を狙うロシアのメタファーかもしれない。あのエイリアンにはそうしたアメリカの「外」の敵のイメージがべったりと張り付いている。

が、けれども、その現代帝国主義的行動計画のテンプレを作ったのは他ならぬアメリカではなかっただろうか。石油利権を求めて中東に火種をばらまいたアメリカこそあの残忍な侵略エイリアンではなかったのか…そう観るとラストシーンの意味合いも随分と変わってくるのだが、ま、そのへんはまだ観てない人のために触れないでおこう。とにかくわかってもらいたいのはこれはそういう類いの渋くて客を選ぶ映画で、平たく言えば特進クラスの生徒が課題で作ったインテリ版『インデペンデンス・デイ』です。

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あとエイリアンちょっと出てくる版の『ブラック・サンデー』っぽくもありますよ。侵略SFなのに気分は『ブラック・サンデー』! どんな映画だと思うがそもそも時代設定すらよくわからずジョン・グッドマン演じる秘密警察はオープンリールなんか使ってるしグッドマンが監視する反政府地下組織は新聞広告でメッセージのやりとりをするぐらいなのであった。そのくせSDカードとか普通に出てくる。諸々、謎。

しかしこの謎感が味で、エイリアンの監視ドローン以外は何から何までオールドな朽ちた未来都市像はたぶんソ連のイメージが下地になっているであろうからアメリカの抱える恐怖が悪夢的に混淆して現われたもの、といった感じ。その恐怖は共産主義的な色彩を帯びてもいれば資本主義の完成形のようなところもある。

大規模テロを画策する地下組織VS秘密警察がお話のメインということで描かれる事柄は手垢まみれで泥臭いのにそんなわけでどこかシュルレアリスティックな印象あり。現実らしく見えれば見えるほど逆に設定とのギャップで作りものっぽく見えてしまうこのなんとも言えぬ居心地の悪さ。エイリアンSFにそれ求める人いるかね、とも思うがユニークで面白い趣向だった。海岸線に配置されたモビルスーツ的な何かを眺める少年のショットなんか現実と虚構が地続きになった実に素晴らしいSF的風景でしたな(ただしこのモビルスーツは一歩も動いてくれない)

で、『ブラック・サンデー』っぽいというのは(別にぽいということもないのだが…)ハードボイルド的に硬派な映画なので説明とかはあまりしない。地下組織の会話は仄めかしとアイコンタクト。感情や思考なんか表に出さずただひたすら行動あるのみ。その非人間的(に見える)様態を見ているといったいどちらがエイリアンか、と思えてくる捻れがまた面白いところだが、各地に散らばった反乱分子が一つの目的で次々と連結され巨大な力を形成していく過程はサスペンスフルでかつ不気味、かつ、アナーキーな高揚感に満ちていて…これがアツイ。

とりあえず『ブラック・サンデー』を引き合いに出しましたが秘密警察との暗闘は『ジャッカルの日』を思わせたりもするし、荒んだリアリズムは『フレンチ・コネクション』みたいでもあるので70年代サスペンスの香りがぷんぷん。イイっすねぇ。エイリアンと思わせて! 70年代サスペンス! そしてエイリアンの侵略と見せかけて! シュールな現代アメリカ批判! この意外性に乗れるか乗れないか。乗れたらかなり面白い映画だとおもいます。さて『旅人の憩い』で誰も見つけられなかった終わりなき自己戦争終結の方策をジョン・グッドマンたちは見つけることができたのだろうか(できたと思っているからそう書くのだが)

【ママー!これ買ってー!】


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こんなところでフランケンハイマーの遺伝子を感じるとは思わなかったよな。

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