最高B級サイバーパンク映画『ブラッドショット』感想文

《推定睡眠時間:20分》

アラブ諸国っぽいところに派兵されたヴィン・ディーゼルはいかにもなテロリスト風を手際よくぶっ殺して米国帰国、エロいが爬虫類型の顔面類型なのでなんとなく美人と言うには抵抗のあるカミさんと即一発ヤって戦地に行くたびに増える背中の傷でピロートーク。「この傷は嫌い…あなたの戦いを語りかけてくるから…」「ああ、だがその結末はいつも同じ。君のところに戻ってきてメデタシメデタシ、さ」常に股間がヴィンヴィンなディーゼルは再びベッドの上の戦場に潜り込むのであった。

だが筋肉系B級アクションで何度観たかわからないこの後絶対カミさん死ぬじゃんみたいな濡れ場の翌朝、なんとディーゼルは謎の男たちに拉致られカミさんもろとも殺されてしまう。目覚めたのは謎のハイテク研究所。死んだはずのディーゼルであったが何故か身体はヴィンヴィンしてる。これはいったいどういうことか? 博士らしき人物の話によればなんでもディーゼルの死体は超科学ナノマシン「ナナイト」の実験台になったのだという。このナナイトはすごい。血中を循環し肉体が損傷すると損傷箇所を即修復、エネルギー注入さえ欠かさなければ疑似的な不死が実現できるのだという。なんだか『デッドプール』のような話だ(これもアメコミ原作らしい)

さて生き返ったはいいがディーゼルには一つ問題があった。一回死んじゃったからか記憶があやふや、そして妻と自分をぶっ殺した奴をぶっ殺さないと気が済まない。問題は二つであった。というわけでディーゼルは復讐行脚に赴く。なんだやっぱ『デッドプール』じゃないか。ここらへんで俺は仮眠に入ったのでディーゼルの記憶欠落と呼応するかのように鑑賞記憶も抜けているが、目が覚めた矢先に衝撃の事実判明。それは! …それは! それは…まぁ…書かないでおこうか!

まとにかく、その衝撃の事実(でもないかもしれないが…)が明らかになるまではよくある普通におもしろいけど普通でしかないB級アクションですなぁと思ってそれはそれで愉しんでいたのだが、このへんからの急展開がねぇ~ニクイんですよ実にね~。ありがちB級アクションからユニークB級サイバーパンク・アクションに変貌! 物語のギアも一気に上がってその二段構え、更には三段構えの構成が見事。

最近のオモシロSF映画といえばリー・ワネルの『アップグレード』が外せないが、まぁシナリオ的にも重なるところがあるし、2020年上半期オモシロSF映画ランキングを作るなら間違いなく『アップグレード』の対抗馬。俺は『アップグレード』より面白いと思いましたよ、『ブラッドショット』。数多ある『ロボコップ』フォロワー映画の中でも屈指の傑作と言いたいぐらいに。

実際よくできてるなぁと感心させられることしきりでディーゼル、不死身になったとはいえそれ以外の特殊能力とかはないので基本的にはゼロ年代以降のセガール映画みたいに力任せに殴るぐらいのアクションしかしない芸のないサイボーグなんですが、その芸のなさをうまいことオモシロに転化していたりするんですよね。っていうのも一山いくらの雑魚キャラはいっぱい出てきますけどマトモに戦う敵なんか二人ぐらいしか出てこなくてしかもそいつらが研究所の警備班みたいなポジション。なんてしみったれた! でも芸のないサイボーグだから研究所の警備班で充分なんだなこれが。

かっこいいんですよ警備班バトル。野に放たれたディーゼルを捕縛するためミニミニ市街戦を展開するところなんかすごかったね。ブレードランナーっていう超速義足がありますけれどもあれの進化形みたいの着けた警備班の片割れがパルクール的にガコンガコン家とか壁とかぶっ壊しながら狭い街路を駆け抜けて(それをアクションカムで追うからめっちゃ臨場感あるのだ!)鈍足ディーゼルを追う、一方リーダー格の方はバイクで公道を爆走しディーゼルの先回りをしながら飛ばした偵察ドローン情報にアクセスしてディーゼルの行方をブレードランナーとリアルタイムで共有! こ、こ、このコンビネーション・バトル! サイバーパンク感覚とリアルな現代戦の融合!

こういうの、ディーゼルがキャプテン・アメリカぐらい強かったら成立しないからな。人をぶん殴るぐらいしかスキルは持たないがただ不死身なので普通には倒せないという微妙さが、たかが警備班相手のバトルをサスペンスフルなものにしているのだ。
っていうかむしろこのディーゼルは強みよりも弱点の方が多いぐらいで充電しないと死ぬしナナイトは外部制御なので通信のできない場に入っても死ぬ。ってことでどうディーゼルを無力化させるか…ハッキングという手もあるしEMP兵器を使う手もあるが…というのが対ディーゼル戦の基本になってくる。

自然、映画は様々な属性のキャラクターが入り乱れる形になってやがてはディーゼルを巡るちょっとした群像劇の様相を呈してくるってわけでディーゼルが近づく人間をゴリラみたいになぎ倒していくその背後でサイコ系バカのインド人システムエンジニアVS中華テイクアウトが大好きでいつもグフグフ言ってるオタク系黒人システムエンジニアの遠隔コーディング/ハッキング戦が勃発したり、研究所の反乱分子がハイテク爆弾を手に暴れ回ったりする! もちろんディーゼルの方のバトルも疎かというわけではなくガジェット特性と上下移動をフルに活かしたエレベーターバトルは白眉、いやいやこれはもうね、体感的にはトム・ホランド版『スパイダーマン』二作のバトルシーンに匹敵する超人バトルだったね!

一人一人のキャラを丁寧に立てていく姿勢も立派。ディーゼルの妻殺しの犯人が殺人の場にもビーチサンダルで赴く怪人、さぁ殺すぞという時にはトーキング・ヘッズの『サイコキラー』を流してレッツダンス! なんだお前はふざけているのか! ニヤニヤしてしまいますなぁ、こういうのは。色々と気の利いた映画だからこんな設定にもちょっとした仕掛けがあって、観ているとまた別のニヤニヤも出る。

あと警備班の二人ね。出勤する時にロッカールームでサイバーパンク的デバイスを装着するところが超イイ。あいつらも普段は一般人生活送ってるんですよね。で、仕事に行くときだけサイバーパンカーになる。このリアリティ、ハードボイルドの香り。ほんのちょっとしたシーンだけれどもそこから仕事のためなら命も捨てるプロの矜持も近未来社会の在りようも見えてきて堪らないところです。

わりと激しいカットバックと台詞の応酬が続く映画なので(まぁ寝ていたからというのもあるのだが)状況に追いつけないままただ「何かが起こっている」のを眺めるようなところもあるのだが、そもそもサイバーパンクは速度を称揚する文学ジャンルでもあったわけだからこの早さもサイバーパンク映画としてそのムードの醸成に一役買っている。次々に新しい変キャラが出てきて、次々にSFガジェットが投下されて、次々に状況が覆って、ろくすっぽ説明もなく次々に局地戦が勃発することの快楽!

果たして何が真実かということよりも大事なのはそこで現に起こっていることとそこに確かに存在するということだ。この映画には決して見てくれだけではないサイバーパンク・ジャンルの興趣がある。ファストでフューリアスでワイルドなヴィン・ディーゼルが主演というのは最初は世界観と合わない気がしたし最後まで観てもやっぱり合わない気がしたが、合わないからディーゼルで良かったとも思う。意識をハックされたディーゼルが無の空間で「クリエイター」と対話をしているうちに世界がレンダリングされやがて現実そのものとなっていく…なぁんて場面は空想や仮想とは無縁の肉体派男優ヴィン・ディーゼルだからこそ、劇的な効果を生むんである。

【ママー!これ買ってー!】


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『アップグレード』と『ブラッドショット』は在りし日の新橋文化劇場なら二本立てでやってたかもなぁっていう映画なんですよ。あぁ、新橋文化で観たかった…。

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