透明ってレベルじゃねぇだろ映画『透明人間』(2020)感想文

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《推定睡眠時間:0分》

世紀末鬼畜作家の村崎百郎は高校の同窓生だった京極夏彦の小説を幽霊は脳が作り出したものだとはっきり書いて精神病患者の妄想を助長しないから良い(大意)と評したそうだがその意味で言えば新『透明人間』は空想科学ホラーのくせになまじリアル寄せなアプローチを取っているものだからそこそこ危険な映画である。

主人公のエリザベス・モスはヒッチコックの『北北西に進路を取れ』に出てきたのと同じ屋敷かあるいは似たような作りの屋敷に住む天才陰湿科学者と同棲していたが同棲とは名ばかり、その実態は軟禁状態で天才陰湿科学者から精神的虐待とマインドコントロールを受ける日々であった。こんなんやってけるかいなと意を決して逃走するモス。だが決死の逃走劇から一年、思わぬニュースが義理の兄の家に身を寄せる彼女に飛び込んでくる。モスの逃走で生きがいを失った天才陰湿科学者がなんと自殺を遂げたというのだ。そんなバカなことがあるだろうか。あの陰湿人間がおめおめと自殺するわけがないし、それに、今だってそこにヤツの息遣いが…。

モスがいったいどんな虐待を受けていたのかは具体的に説明されないが相手は天才陰湿科学者だから察するに陰湿テクノロジーを駆使した監視と懲罰と共同責任(愛犬の首には電気首輪がはめられていた)のシステムでモスを縛っていたのだろう。オウム真理教とか北九州監禁殺人とかでお馴染みのアレの最新アップデート版だ。その傷跡は深く天才陰湿科学者から逃れて一年経った段階でもモスはまだ外にちゃんと出ることができない。いつでもどこでも天才陰湿科学者に監視されているような気がして、そしてその先に苛烈な報復的懲罰が待っているような気がして恐ろしいのである。

とまぁそういうわけでそれからモスの身の回りで妙なことが起こるようになる。送ったはずがないメールが送られていたりとか、鞄にちゃんと入れたはずの書類がなくなってるとか、閉めたはずのカーテンが勝手に開いてるとか。それ気のせいじゃないの? 精神科医に診て貰えば? と周囲の人間は言うがモスは疑念を募らせるばかり。詳しくは知らないがどうも超高性能ステルス迷彩を天才陰湿科学者が作っていたらしいことを一応同棲していたのでモスは知っていた。身の回りの怪事は自殺を偽装してステルス迷彩を着込んだ天才陰湿科学者の仕業ではないか…疑念はほどなくして確信に変わるが、それは周囲の人間には妄想と映る。

どうせ予告編観ればわかっちゃうので言ってしまうがモスの予想したとおり(?)透明人間ちゃんといるんである。ちゃんといるので、被害を訴える方には本当に申し訳がないですが基本的に俺は信じていない集団ストーカーなるものを主張する人なんかが、この映画を観て、「ほらやっぱり!」ってなってしまうと本人的にも周囲のサポーター的にも色々大変なんじゃないかな~みたいな、なんかそういうところで冷や汗、出たよね。

いやはやよくできた映画というのも考えものだ。ま、最終的に『プレデター』みたいなバトル展開になるので集団ストーカー派の人を怯えさせてそれで終わりではなく「血が出るなら殺せる!」とエンパワメントしてくれるからいいですけどね。よくないだろ!

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それにしても終盤の『プレデター』展開ちょっと予想の斜め上から来たよな。中盤までがあくまで透明人間が実在するのか妄想なのかわからない(わかりますが…)心理サスペンス調だったものだから余計になのだがあの透明人間ステルス迷彩着てるだけなのに強すぎだろ素手で何人殺してんだよ。プレデターでさえ武器が無いときは潔く退却するのにこいつときたら刺されても撃たれても怯むことなく素手でこっち向かってくるからな。ヤバすぎ! ヤバすぎだがお前そんなに強かったら別にステルス迷彩いらないだろ。

それと関連して『シャイニング』問題というのもあったな。スティーヴン・キングの原作版『シャイニング』は酒で荒れることもあるがなんとかして良い父親になろうとする男がホテルの魔力で徐々にぶっ壊れていくお話だったが、スタンリー・キューブリックによる映画版『シャイニング』ではこのへんの人情話がバッサリ切られた上に父親役を演じたのが怪優ジャック・ニコルソンだったのでホテルに行くまでもなく最初からこいつヤバい奴じゃねぇか感が(意図的に)出てしまった。

これは一応ユニバーサル・クラシック『透明人間』のリブートというか現代版みたいな位置付けらしいのだが、モンスターもしくはSFネタとしての〈透明人間〉といえば元は犯罪なんか縁の無いような人間でも透明になると暴力的になったり犯罪に躊躇がなくなっていく…というのがやはり定番。人間の本性を映し出す装置として多く描写されてきたが、この新『透明人間』でモスが怯えているのは元から異常度の高い天才陰湿科学者なので、元からヤバい人がステルス迷彩でもっとヤバくなっただけじゃねぇかみたいなところがあるんである。

まぁ、元からヤバい人がステルス迷彩を手に入れたらそれはもう何されるかわからないので確かに超怖いのだが、諺で言うところの「シュワにロケラン」みたいな身も蓋もなさも感じ…だからつまりやっぱり、『プレデター』だねこれ。新『透明人間』、最終的に『プレデター』でした。シュワにロケランは『コマンドー』だが…。

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とふざけて書いてはみたものの医療刑務所内でのモスVS透明人間バトルはモスが妄想人間扱いされているところも含めてなんだかとても『ターミネーター2』感があったので、案外『プレデター』だってかなり意識してるんじゃないかという気もしてきた。考えてみれば『プレデター』に出てきたプレデターも凶悪兵器で武装してるくせにステルス迷彩に身を隠して脅かしばっかやってくる陰湿なエイリアンだった。もしあのプレデターが地球の女に惚れたりしたらあいつコミュニケーションとか取れなさそうだしこの映画みたいな感じになるだろう。

それに比べたら武器を持った奴しか狙わず女子供はちゃんと逃がす『プレデター2』のプレデターは本当に紳士だよな…やはり透明装置は人間の器を写し出す鏡だ。プレデターは人間じゃないだろとかそういうのはいいんだ。怪物みたいな人間と怪物だけど紳士な奴だったら後者の方が友達になりたいし交際するのもそっちの方が断然いいでしょうが!

まそんなことはいいとして…面白かったすねジリジリ追い詰められる怖さがあって捻りの効いたアクションもあってどんでんどんでんどんでん返しもあって。それ持ってけばいいじゃんとかそこでそうなったら監視カメラに写るだろとかそんだけダメージ与えたらステルス迷彩機能しないだろ無敵かよとか中盤までは繊細サスペンスだったシナリオは『プレデター』編に入ってからはツッコミの嵐となりますが細かいことはいいんだ。そんな文句をいちいち言う奴に『プレデター』を観る資格はありません。

監督はリー・ワネルということでなんだかんだ言ってBなケレンがたっぷり。敵の姿が見えない都合、微細な音響でその存在を仄めかしたりするのは上手いところだし、ワネルの前作『アップグレード』を発展させたようなアクションシーンのカメラワークもキレてましたなぁ。まんまやんけ的なヒッチコック映画オマージュはワネルお前そっち系の趣味あったんか的なプチサプライズだ。

ヒッチコックに限らず女性受難サスペンスの古典『ガス燈』もたぶんパクってますから真面目というか欲張りというかだが元ネタを探すたのしさもある。小ネタ系で言えば『アップグレード』でサイボーグ殺し屋だった人が会社の創業者役で少しだけ顔見せというのもちょっとだけ嬉しい。

それになによりエリサベス・モスの痛ましい精神的DV被害者っぷりとその映画的克服っぷりが見事であったので、小二的傑作『ザ・プレデター』とは違う方向を上手く攻めたシリーズ最新作だったなと、そんな感じの映画でしたね。だから『プレデター』は関係ないんだよ!

【ママー!これ買ってー!】


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ヴァーホーヴェン版『透明人間』こと『インビジブル』の方がオリジナル『透明人間』よりも新『透明人間』に影響を与えている気がする。

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