コントと思いきやJホラー映画『禍禍女』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ゆりやんレトリィバァ初監督作と言われてもまずそのゆりやんレトリィバァを知らないのでおそらく犬ではなく人間だとは思うのだがどんな芸風の人なのかわからない、しかし本編映像が全然出てこないティーザー予告(ゆりやんレトリィバァと思われる人が記者会見を受けているというもの)を見る限りではなんかコメディっぽい感じだな芸人らしいしとは一応思っていた。のだが。蓋を開けてみればどっこいドJホラーである。禍禍女というのは都市伝説。やたらと惚れっぽい女幽霊でこれに取り憑かれると霊的ストーキングをされた上に追い払うため「お前なんか嫌いだー!」とその愛を拒むと目をくりぬかれて死んでしまうのだというわけで、終盤は様子がおかしくなってくるが前半は展開的にも演出的にもふざけ無しでしっかり怖い。

シリーズ監督の清水崇がゲスト出演しているくらいだし禍禍女に取り憑かれたいろんな男の運命をオムニバス的に綴っていく構成は明らかに『呪怨』オマージュ。どこにいたかわからなかったがなんか白石晃士も出てたらしいから(あと一人か二人それなりのホラー界隈ビッグネームが出演していた気がするが忘れてしまった)ゆりやんレトリィバァという人はきっとJホラー大好き人間なんだろう。それを支える脚本は『ヒグマ!!』も公開中の内藤瑛亮なのだが、思えば内藤瑛亮のストレートなホラーというのは映画美学校の卒業制作短編『牛乳王子』以来ではないのか? いや、『牛乳王子』も急にミュージカルになったりするしコメディ色もあるので純粋なホラーとは言い難いかもしれないが、その後の内藤瑛亮が手掛けた映画というのは『先生を流産させる会』とか『ミスミソウ』とか陰湿なヒトコワ系もしくはバイオレンスという感じだったので、それと比べればというか。ちなみに『禍禍女』も急にミュージカルになるところがあります(やっぱり『牛乳王子』回帰なのかもしれない)

その『牛乳王子』は女子生徒にいじめられて自殺した男子生徒が牛乳を吐く幽霊となって自分をいじめた女子生徒たちに牛乳を吐くというとてもこう若さ故の衝動を感じる映画だったのだが、内藤瑛亮ホラーの面白いところはこれに見られるような女性恐怖と被害者意識にあると俺は思ってる。女の人は自分をバカにするし容赦がないからコワイ。でも女の人とエッチなことしたい。陽キャは自分をいじめるから全員死んでほしい。でも自分も機会があれば陽キャになって女の人にモテまくりたい。……という相反する感情がイビツにブレンドされた結果、俗に言うインセルっぽさが香って実になんというか好きになれない、でもなんかオリジナルで面白いな、みたいなのが内藤瑛亮ホラーなんではないだろうか。

ゆりやんレトリィバァという人をまったく知らない以上はとにかくすべて憶測でしか言えないのだが、これが報われない恋愛感情と日陰者の学園生活をテーマにした映画であり、原案としてゆりやんレトリィバァもクレジットされていることを思えば、この人はそういう内藤瑛亮のインセル感覚に共鳴したのかもしれない。途中急に『テラスハウス』の悪意丸出しパロディが入ってくるところとか禍禍女以上に陽キャに対する怨念が感じられるところであるし、ある登場人物が男の顔の描かれた壁画の口の部分に穿たれたヴァギナ状としか表現しようのない穴にローションを塗りたくった全身を出し入れするシーンとか恋愛弱者の暴走性欲の発露すぎる表現である。ここエロかったな服着てたけど。

最初は幽霊コワイ映画として始まる物語がやがてイジメ、嫉妬、DV、ストーキング、呪詛とどんどん不快指数高めのヒトコワ系にシフトしていくあたりがゆりやんレトリィバァというよりは内藤瑛亮のカラーだとすれば、「バック~トゥザ~フュ~チャ~」とお経を唱える斎藤工とかの取って付けたようなコメディ要素はゆりやんレトリィバァのカラーなのだろうか。どうもそのへんが上手くハマっていない気がしたし、そのために間延び感も出てしまったので、無理に笑わせようとしなくてもいいのになぁとか思うのだが、やっぱ芸人さんだから笑える映画にしなければみたいな責任感(もしくは会社からの指令)があってこうなったのかもしれない。

白石晃士の『サユリ』の影響も感じさせる禍禍女のビジュアルはなかなかコワイので笑いナシで最初から最後までホラーとして撮った方が映画としては逆に面白くなったと思うのだけれども。でもそういうことでもないのか。ゆりやんレトリィバァ初監督作という惹句に惹かれて映画を観に来る人が見たいのはたぶんホラーよりも笑いの方であろうから。ということでポスターはピンクを基調にした毒々しくもkawaii路線になっていてちっともホラー映画に見えなかった。最近『サブスタンス』とか『エミリア・ペレス』とかダークな内容の洋画を日本の配給会社がダークさを隠してガールズムービーみたいに売る誰得宣伝が流行っているので『禍禍女』よお前もかという感じだが、これホント誰が得するんだかわからないのでやめた方がいいとおもいます。

※監督人脈なのか髙石あかりとか田中麗奈とか斎藤工とかこれぐらいの予算規模の映画にしてはいやに出演者が豪華だが、それを生かした演出はあまりされていなかったので、せっかくなんだからもうちょっと見せ場っぽい見せ場を作ってあげたらいいのにとおもう。そりゃまぁ斎藤工の生首が飛ぶとかは見せ場ではあろうけれども。

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