【前編】シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2022感想文!

なんだかんだシッチェスファンタ特集が数ある定着特集上映の中でいちばん好きかも知れない。全部ジャンル映画だし外れは少ないしスタンプラリーをやってるから全作観ればポスターとかTシャツとかもらえる(Tシャツは抽選)。毎年全6本程度を2~3週間上映するのでコンプリートは比較的容易だ。

つーことで今年もコンプする気満々でまずは3本観てきたのでその感想をドン。いや~今年の上映作品もやっぱレベル高いっすね~。こう面白いと都市部のミニシアターのみでの上映がもったなく感じられてしまうので、来年はぜひ九州や北海道でも上映お願いしま~す(みなさんも勇気を出してお近くのミニシアターにリクエストしてみましょう)

『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』

《推定睡眠時間:30分》

何者かに誘拐された少年2人。その一人は閉じ込められた場所から抜け出すことに成功するが、別の場所に監禁されているらしいもう一人の少年を置いて逃げることができず、誘拐犯に隠れてなんとか少年を助け出そうと奔走する…。

なんだか妙にゲーム的な展開で『クロックタワー』×『メタルギア・ソリッド』のジュブナイル版とでも言えそうな前半は多少のご都合主義は気になるものの緊張感が途切れずイイ感じで観れる。が、暗い…。カメラが薄暗い屋敷内でのサイレント攻防を撮り続けるので思わず夢の世界に突入してしまった。したがって犯人の目的などは俺にとって不明。そこにどんでん返し的なものがあったのかなかったのかは知らないが、あったならごめんと思う。

面白い趣向はキューブリックの『シャイニング』オマージュがかなり大事な場面でいくつも出てくるところ。そこは作り手のオリジナリティの見せ所じゃないのかと思うのだがいいのだろうか。カメラワークまでコピってるし。っていうかなんで『シャイニング』なの? その謎も、ちゃんと起きて観ていたら解けたのかもしれないが…。

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『ヴィーガンズ・ハム』

《推定睡眠時間:0分》

過激派ヴィーガン集団に度々店が襲撃されている貧乏肉屋夫妻がたまたまと言うには殺意がありすぎるシチュエーションで襲撃者の一人を誤殺、更に誤ってこの肉をハムにして売ってみたところこれがめちゃくちゃ美味かった。そうか! ヴィーガンは健康に気を使った食事と生活をしているから肉もめちゃくちゃ美味しいんだ! 禁断の真実(?)を知ってしまった夫婦は貧乏脱出のためにヴィーガンを殺しまくるのだった…。

殺したヤツを食肉加工して証拠隠滅する映画といえば『八仙飯店之人肉饅頭』だが、あちらの鬼畜料理人アンソニー・ウォンがあくまでも都合の悪い人間を消すために食肉加工を利用していたのに対し、こちらの鬼畜肉屋夫婦は食肉加工を目的に人を殺す。しかもアンソニー・ウォンの10倍ぐらい殺す。ブラックユーモアのタッチで描かれる風刺映画だが描かれる出来事の鬼畜度合いはアンソニー・ウォンもドン引きレベルである。

しかし単なる悪趣味映画には終わらないのがこの映画の見事なところ、ヴィーガンVS貧乏肉屋の物語と思わせておいてそれを通して浮かび上がるのは資本主義の搾取構造である。貧乏を抜け出し妻との関係を修復しようとヴィーガンをぶっ殺しているうちに人が肉にしか見えなくなってくる肉屋夫、テレビのシリアルキラー番組にハマって自分もあんなセレブな扱いを受けてみたいと心のどこかで願う肉屋妻、屠殺場での過酷労働経験から過激派ヴィーガンへと転じた貧困労働者、そんな彼らが些細なことで一喜一憂したり殺したり殺されたりしている間も肉屋業界のトップ夫婦は我関せずで悠々自適な金持ち生活を送っている…この皮肉。そもそもカニバリズムという題材自体、資本主義の究極の戯画ではあるまいか。

後半の展開は広げた風呂敷を上手く畳みきれていない印象も受けるが、知的でスマートで血と黒笑にまみれた「Vパワー!」「神戸ビーフならぬ神戸ヴィーガン!」などのパワーワードもシビれる社会風刺映画として充分面白かった。あと人体からもげたチンポをワンちゃんがもぐもぐしちゃうバカシーンがありますがモザイク入ってませんでした(作り物のチンポならどう見てもチンポでも生で画面に映していいらしい)

『ゾンビ・サステナブル』

《推定睡眠時間:0分》

配給が変わったからなのか続編を銘打つと客足に響くからなのか邦題が一新されてしまったが、あの『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ』のラスト直後から始まる完全続編である。あの、と言ったところで『ゾンビマックス!』がどんな映画か頭に浮かばない人も多かろうと思うが、一言で言えば『死霊のはらわた』の最良にして最新のフォロワー作が『ゾンビマックス!』、嘘つけそんな戯言これまで何百回と聞いてきたぞと思われる方はいやマジ観てくれってすごいんだからカメラワークなんかこれすごいんだから。あと美術もね。アイディアもすごい。予算はないけどいろいろすごい。

でその『ゾンビマックス!』の予算倍増(かどうかは知らない)パワーアップ続編なので今回も前作同様ロケに金のかからない山の中でショボいドンパチとかカーチェイスをやるのが基本だが、後半は頑張って作った軍の秘密基地を舞台に人間アーミーVSゾンビアーミーVSマッドサイエンティストVSサイボーグゾンビVS超能力ハーフゾンビの破格バトルが大展開、蛍光色の色彩に溢れフリーキーでコミカルな美術は冴え渡りカメラも縦横無尽に動き回ってこれがめっちゃ楽しい。その独特の世界観と演出はジャン=ピエール・ジュネの『デリカテッセン』を誇張ではなしに彷彿とさせ、監督キア・ローチ=ターナーがガチの映画才人であることを少なくとも俺には確信させた。

あちなみにお話としてはゾンビアポカリプスもので文明世界はゾンビ禍で終わったのですがまだ山奥とかには生き残ってる少数の人たちもいてこの人たちはゾンビを燃料にして車を走らせたり電気を作ったりなんかしてます。だから『ゾンビ・サステナブル』なんてトンチキな邦題になったんだねぇ。オーソドックスにしてレトロでありつつきわめてユニークでアーティスティックなこの映画、ゾンビ映画ファンといわず次の大物新人監督を発掘したい目ざと系映画マニアなんかも必見だっ!

【ママー!これ買ってー!】


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ユニークなゾンビ映画を撮ってハリウッドに渡った映画監督には『ブレインデッド』のピーター・ジャクソンや『アンデッド』のスピエリッグ兄弟なんかがいる。『ゾンビマックス!』は『アンデッド』と同じオーストラリア映画なので、キア・ローチ=ターナーにも第二のスピエリッグとして存分に活躍してもらいたい。

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