俺の○○映画『バクラウ 地図から消された村』感想文(映画マニアだけネタバレ注意)

《推定睡眠時間:20分》

別にバレて困るようなネタでもないのになんでネタバレ厳禁映画みたいになっているのかよくわからないのですがと書いてしまうこと自体一種の暗示的ネタバレなのでここらへんで「あ、やばいな」と勘づいたネタバレを食らうと映画が楽しめなくなる人には別にネタバレ感想的なものを書くつもりはないがとりあえず危険だから帰ってもらうとして、あっはっは、人、入りすぎ。

東京だと単館上映でキャパ100程度のシアターとはいえ1日3回の上映が初日から連日札止めっていうね。なんで。映画の内容の謎よりもその動員の謎の方が大きかったね。だって万人受けする映画じゃないでしょうどう見ても、予告編にせよポスターにせよ。あれかな、みんなこれでもとりあえず映画館で観たいってぐらいジャンル系の洋画に飢えてるんかな。新型コロナのせいでジャンル系の洋画の公開めっちゃ減ったからな。

でもそのくせ先月公開された『呪怨』の最新アメリカ版(これは『呪怨』シリーズのかなり正統な続編と言え、主演アンドレア・ライズボローの好演もあってなかなか出来はよかった)とかは全然人入ってなかったので謎が多い。パブリシティを打ててるか打ててないかみたいな身も蓋もない話なのかもしれないけどさ。最近の映画だと『テネット』とか『パラサイト』なんかがそうだったが『シックスセンス』からこのかた日本の観客はとにかく「ネタバレしてはいけない映画」に劇的に弱い。実際観ると『テネット』も『パラサイト』も大したネタなんかないんですよ別に。つまらないっていう意味じゃなくて驚きがないっていう意味で。でも「ネタバレしてはいけない映画」として売られるとすごいネタがあるんじゃないかとみんな期待して映画館行くんですよ。

『バクラウ』だって結局そうですしね。いや、正直に言うと俺も最初は予告編観てふ~ん一応観に行くかぁ~って思ってたぐらいなんですけど連日全回満席だから実はなんかすごい隠し球的ネタを持った映画なんじゃないかと思って観に行って・・・そしたらやっぱりそんなネタはなくて最初に予告編を観たときに受けた印象とあんま変わらなかった。どんでん返しとか急展開なんかとは別の意味でそう来るか! っていう隠し球はありましたけどそれがかなり渋い隠し球で・・・。

あんまりネタバレ厳禁ネタバレ厳禁といって広めようとするとどんでん返し的なのを求めて観た人が肩透かし食らうんじゃないかな~とかは思って、まぁ別にそれで客呼べてるんならいいですけど、そういう近視眼的で変化球気味の売り方は何度もやってると客の方も慣れてきちゃって映画宣伝自体が先細ってくるんじゃねぇのとかはですね、思わないでもないんだよ。それでもここまでおそらくほかのどんな感想よりもネタバレどころか本編の内容にすら触れずに感想を書いている俺はえらい。

それでその隠し球っていうのはカーペンターなんですよね。日本の洋画予告編って雑誌の映画評のキリトリとか著名人絶賛短評がでかでかと出るコーナーがあるじゃないですか。『バクラウ』の日本版予告編はそこに「セルジオ・レオーネを思わせる生々しい暴力!」っていうのが何の映画評のキリトリだか知りませんけど載ってて(たしかバラエティ紙だったような)、これはちょっとミスリード気味っていうか、レオーネに言及するなら本来はそれより先にレオーネの薫陶を受けたジョン・カーペンターに言及しないとおかしくて、というのも『バクラウ』は明確にカーペンターのフォロワーだったからですよ。

だって映画の冒頭に置かれたタイトルバックからして・・・これはクラシックスタイルのクレジットでカーペンターが『要塞警察』なんかで採用した「(役者名)・・・・・・・・・・・・(役柄名)」みたいなやつでしたけど・・・宇宙空間が広がっていてカメラがパンするといかにも作り物じみた地球が画面に入ってくるっていう、ほぼほぼ『遊星からの物体X』のオープニングじゃないですか・・・。

いや、こじつけではないんですこれは! 俺も最初は『物体X』風のオープニングだけど偶然似ちゃっただけだろうって思ってましたけどそれまでも自作映画に自作テーマ曲を付けたり『ゴーストハンターズ』ではエンディングでバンド組んで自分で歌っちゃったりしていたとはいえ5年前に突如としてミュージシャンに転向(?)して映画界をざわつかせたカーペンターが発表した楽曲「NIGHT」が! 劇中一度ならず二度も! そして二度目はエンディングで使われる!

映画マニア限定でとんでもないネタバレをしてしまった気がするが映画マニア以外は無傷だから別にいいだろう。いやもうエンディングにまでカーペンター曲流しちゃったらそれはカーペンター大好き人間の作った「俺のカーペンター新作」ですよ。ほかの要素もまぁないではない。ブラックユーモアとマカロニ趣味で言えばアレックス・デ・ラ・イグレシアの影響も感じさせるが、でもイグレシアもイグレシアでカーペンターの影響を強く感じさせるわけだから結局カーペンターに帰ってくる。

地図から消えた村といえば『マウス・オブ・マッドネス』を思わせなくもないしUFOのデザインは『ゼイリブ』みたいだし微妙な物足りなさとか間延び感も含めて本当にカーペンター的な映画で・・・すごくない? なんだかんだ言ってここまで直接のネタバレを完全回避して感想書いてるの。映画マニアが読めばオチまで含めてネタバレも同然であるが、そうでない真人間にはネタバレどころか何を言っているのかわからんことだろう。

カーペンターカーペンターとばかり言うのもあれなのでカーペンターから離れた感想を書いておくと、UFOがみゅ~んって画面に入ってくるところとか村祭り()の場面での力士MCの仕切りっぷりとかなんか間が抜けていて笑えました。あとあのあいつがな、あいつがマチェット持ってキエーって感じで襲いかかるところ最高。頭がバーンて吹っ飛ぶとかバイオレンスは比較的キレていたし静と動の対比が強烈な(要はこれがレオーネ的ということなんだろう)銃撃戦は脱力感と緊張感が奇妙に同居して独特のおもしろさ。

社会風刺もあるが別に大して重いものでもないしそんなことを言ったらカーペンターの大抵の映画だって社会風刺的な側面はある(『ゼイリブ』とかさ)。まぁだから、ブラジル社会がどうだとか「ネタバレ厳禁!」系の映画っていうよりはカーペンター大好き監督の作った不思議で笑えてスカッとする一風変わった西部劇っていうのが作品を評するに妥当なところなんじゃないですか。

ああ、でもウド・キア演じる哀しい悪役はちょっとそこからはみ出るところがあったかもしれない。暴力の連鎖というと陳腐ではあるが、虐げられた者が虐げる者に転ずる時にその暴力は新たな暴力を生むに留まらず忘れられたはずの過去の暴力をも掘り起こすのだというようなテーマがあのウド・キアに託されているのだとすれば、「地図から消えた村」という設定も何やら意味深である。吹き荒れる暴力の中で時間も国境も忘却されて、後に残るのはカーペンター的な終末の荒野だけだ(とまで言ったら誇張になるが)

ちなみに、ここまでにタイトルの出てきたカーペンター映画を全部合わせればだいたい『バクラウ』になるパズル的な仕掛けなので読ながら脳みそが?で埋まった人はあくまで『バクラウ』を観た後にレンタルビデオ屋のカーペンターコーナーに走ろう。今そんなの作ってるレンタルビデオ屋なんかないと思うがカーペンター、一応ジャンル映画の巨匠的なポジションなのに配信弱いんだよ。

【ママー!これ買ってー!】


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観ていて一番近いと思ったカーペンター映画は『要塞警察』。

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よーく
よーく
2020年12月11日 1:36 AM

自身でサントラ担当してたのは知ってたけどボーカルまでやってたんですね、カーペンター。
あと『呪怨』のアメリカ版ってのは存在自体知らなかったです…。『ザ・グラッジ』ってやつですかね。もっと宣伝してくれたら観に行ったかもしれないのに。
この映画は宣伝とか口コミとかまったくなしにふらっとレンタルビデオで借りたりするのが一番楽しめるんじゃないかなぁ、とか思いました。