【後編】シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2022感想文!

【前編】シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2022感想文!に続いて後編ですがここで唐突かつ前のめりにシッチェスファンタ今年の俺的ベスト作を発表。一番好きだったのは『ゾンビ・サステナブル』、一番面白かったのは『ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴』、一番完成度が高かったのは『呪われた息子の母 ローラ』。以上。いやでもね今年はどれがベストとかじゃなくてほんと全部良かったですよ。今年はって書くとじゃあ他の年は違うのかみたいなことにもなりますがそうではなく今年はとくによかったがシッチェスファンタは毎年たのしいということです。褒めたので特製Tシャツください。

『パラミドロ』

《推定睡眠時間:30分》

人間に寄生する宇宙生物のようなものが出てくるので邦題はおそらくパラサイト+邦画寄生生物ホラーのクラシック『吸血鬼ゴケミドロ』。なにやらおどろおどろ感の漂う邦題だが中身の方は爽やかなというと変だがグチョついたところのないわりとスカッとする系の…と思うが中盤ガッツリ寝ているので実際のところはどうかわからない。

なにせ本筋に入るまでが長かった。旅行やらなんやらで乗り合いウーバーみたいなやつを使った見知らぬ数人の男女が途中で寄生生物に襲われて旅を続けながら戦うみたいな筋立てらしいだが、個々のキャラクターの性格描写や関係性描写を少し丁寧すぎるほど時間をかけてやるもんだから待てど暮らせどというのは大袈裟にしても、なかなか面白いシーンが出てこない。出てこないので寝てしまった。基本ウーバー的なワゴン車の中からカメラが出ないで話が進むしワゴンの外の風景も山道だから絵的にも単調で…。

ただ派手さに欠くとしても終盤の展開なんかを見るに脚本をしっかり組み立てた映画の印象はあり、立ち上がりが遅いぶん寄生生物襲撃後の密室サスペンス&バトルは結構盛り上がったんじゃないかとそこは寝ているわけだが推測する。ロードムービー×密室サスペンス×寄生生物SFのアイディアを破綻無くまとめた、レトロな特撮やハッタリ演出も効いた手堅い一本かもしれない。

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『ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴』

《推定睡眠時間:0分》

なんでこんな邦題になっているかというと原題の”LET THE WRONG ONE IN”が『 ぼくのエリ 200歳の少女』の英語題”LET THE RIGHT ONE IN”のパロディだからで、その家の住民に招かれないと中に入れないという吸血鬼の基本設定が『ぼくエリ』こと”LET THE RIGHT ONE IN”の由来だが、この『ぼくデコ』の方はクスリをやって家にあるもん勝手に売ったりしたことで母親に家を追い出されたダメ兄貴が吸血鬼になってしまうので、なぁ母さんいい加減WRONGな兄貴を家に入れてやれよ…というわけで”LET THE WRONG ONE IN”、吸血鬼ものという以外に『ぼくエリ』と内容的な繋がりはないがなかなか気の利いたおもしろいタイトルよね。

やーこれは笑ったな。甲斐性なしの兄貴が吸血鬼になって家に戻ってきたってんで真面目な弟がどうにかしようと奮闘するわけですが、これが漫才のようなテンポの良いボケとツッコミの応酬。そこに絡む電車マニアの吸血鬼ハンターも吸血鬼の親玉と対峙しているその最中に近くを通りかかった電車のダイヤ乱れが気になってしょうがなくなってしまうなどの脱力ボケを披露して大いに笑わせてくれます。

なにがあってもクヨクヨしない登場人物、あっけらかんとした人死に、パワフルでユーモラスなスプラッター描写に雑すぎる合成特撮…80年代コメディホラーのノリですなこれは。サム・ライミの『死霊のはらわた』とかジョン・ランディスの『狼男アメリカン』のオマージュと思しき場面あり(『デモンズ』と『時計じかけのオレンジ』っぽい場面もあり)。しかしストーリーはあくまでもアイルランドの労働者階級家族ドラマというのがこの映画の良いところ、血が欲しくてたまらない吸血鬼も薬物中毒のメタファーで、それを本人がどう克服し家族はどう受け入れるかがストーリーの軸になるのだからバカバカしいことこの上ないのに最後はちょっと泣けてしまう。

良い映画だなぁこれ。アイルランドの吸血鬼コメディホラーと聞いて食指の伸びる人は多くないだろうが、ちょっと騙されたと思って観てもらいたいっすね~。

『呪われた息子の母 ローラ』

《推定睡眠時間:10分》

詳細不明の怪しげカルトから逃れて息子を出産した主人公はローラと名前を変えて過去を漂白、一人息子と幸せな日々を送っていたが、ある日のこと安全なはずの自宅でカルトの連中の姿を目撃してしまい、以来息子は原因不明の奇病に冒されてしまう…。

今年のシッチェスファンタで最も本格派だった映画。コントラストの強烈な映像、巧みなミスリードと先の読めないサスペンスフルな展開、インダストリアル調の不穏なBGMと神経を逆撫でする音響効果、なによりローラ役アンディ・マティチャックの徐々に精神が追い詰められていく迫真の演技が形作るダークで歪んだ雰囲気は一級品。何が現実なのか誰を信じていいのかわからない不安感はシングルマザーの物語ということもあり口コミで評判になった本邦劇場未公開の秀作『ババドック』なんかに通じるところがあった。

息子の痛ましい病気芝居&メイクも良いし無邪気さと不気味さの同居するその表情もまた絶妙、遊園地のシーンで表出する恐怖の下の悲しみには胸が痛くなりますなぁということでこれに関してはとくにダメなところとかショボイところは見当たらないので、シッチェスファンタでの上映といわず全国のシネコンで上映してほしかった。そこらのシネコン映画よりよっぽど完成度は高いと思うんですけどねぇ。怖いホラー映画が都市部はともかく全国的にはあんまりウケないっぽい現代日本だと難しいんすかねぇ…。

【ママー!これ買ってー!】


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破傷風の映画なのに『エクソシスト』のヒットに便乗してオカルト映画にように撮られてしまった不謹慎な問題作にして松竹ホラーの最高峰。『呪われた息子の母 ローラ』を観てて頭に浮かんだ。

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