ミステリオ応援感想『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(ネタバレ途中から)

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『スパイダーマン』の単体映画を観るのはなんと2002年のサム・ライミ版『スパイダーマン』以来、『エンドゲーム』後のお話なので『ファー・フロム・ホーム』は指パッチンで5年間消えていた生徒たちが同じクラスにそのまんまの年齢で復帰しており様々な混乱が生じているが俺の場合はそれどころじゃないですからね。17年。17年ぶりの映画『スパイダーマン』ですよ…それはもう復帰したところでシリーズについて行ける自信ないよ。『巌窟王』じゃん17年とか。

それこっちも困るけど復帰された方も困るよね。5歳差は劇中の生徒たちもなんとか順応してましたけど17歳差の同級生に急に戻って来られても絶対話合わないじゃないですか。これ修学旅行の映画ですけど自宅巌窟王だった俺が何を思ったか修学旅行にだけ行った時もやっぱ集合場所の駅でクラスメート困惑してましたからね。どれぐらい困惑してたかってセルフ投獄前はクラスで一番の仲良しだった女子になんで来たのって真顔で言わ…そういう話はいらない。『ファー・フロム・ホーム』の感想。

ともかくあの修学旅行の時の気持ちを胸に復学しましたよ17年留年生、スパイダーマン学校に。いやー、よかったね。よかった。復学してよかった。もうね、みんな良いやつ。2002年版『スパイダーマン』はこんなに和気藹々としてなかったと思うんですがなんですかこの仲良し感は。えぇ?
変な奴はいても粗暴な奴は一人も居ないし先生は超優しい上におっちょこちょいのナイスキャラ、みんなスパイダーマンに理解があって叔母さんは美熟女マリサ・トメイ、憧れのクラスメートMJは檄かわいいゼンデイヤ、なんだこれは異次元か。異次元に来てしまったのか俺は…17年後の『スパイダーマン』、カルチャーショックも甚だしい。

みなさん世の中がどんどん悪くなってるんじゃないかと漠然と思っているかもしれませんが今の私は確信を持って言えます。悪くなってません。2002年と比べて今の世界は死ぬほど平和で優しく楽しく生きやすくなりました。
まぁ最強の敵って誰かが言ってたサノスも死んだのでこりゃもうヨーロッパ修学旅行をエンジョイしちゃったらいいよね。クラスメートとは結局誰とも仲良くなれませんでしたがなんか楽しかったですよ、旅行会社の粋な計らいにより実現したヨーロッパ周遊旅行。観光名所あり遊園地ありカーニバルありオペラありのそしてもちろん思わぬ恋と出会いあり。謎の敵集団エレメンタルズの襲来も修学旅行の良いスパイス、あぁ楽しい修学旅行だった!

はい白々しい感想はここまででーす以下ネタバレありまーす。

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最高だった。今回のヴィラン、ミステリオことジェイク・ギレンホールがとにかく最高だった。MCU落第生の俺が言っても説得力を欠くが確実に俺が見たMCUヴィランの中でぶっちぎりにナンバー1です。これなんですよーこういうのを求めてたんです俺はー。もうね、正直ガキどもの修学旅行とかどうでもいいです。『ファー・フロム・ホーム』はミステリオを愛でる映画でした。

これは俺の純度100%の偏見ですけどMCUのヴィランみんな面白くないんですよ。悪の色気みたいなのが全然ないから設定とか物語はよくできていてもヴィランとして記憶に残らない、残るとしても物語として残るという感じなんです。そういう意味でたとえ完成度がMCUに全然及ばなくてもDC映画の方が圧倒的に好きなのはDC映画は毎回ヴィランが立っていてカッコイイからで…でそのカッコよさがミステリオ、ありましたね。

異次元の脅威エレメンタルズを倒すべく別次元の地球から現前地球にやってきた『ドラゴンボール』で言うところのトランクス的なミステリオ、見た目ドクター・ストレンジっぽくもアイアンマンの軽装時っぽくもあるいかにもヒーロー然とした彼の正体は例の社長に解雇されたホログラム技術開発者であった。
世界平和とアベンジャーズのことで手も頭も一杯だったに違いない社長のことだから自社の社員には目が向かなかったんだろう、本人はもう死んでるから気楽なものだがいつの間にか社長に恨みを持つ元社員を大量に作り出してしまっていたらしい。

世界を救った英雄として社長の姿がテレビで流れない日はない。駅に行けば社長を讃える横断幕かなんかが張ってある。みんな社長が大好きだ、そうさ偉いのは社長なのさ…気に食わねぇ! 俺たちだって社長の偉業に貢献したはずなのに! 俺たちは使い捨てか?! 死後もヒーローの中のヒーローとして崇められるヤツの影で俺たちは誰にも業績を認められることなく職安に通っては高圧的な面接官に社長の下で働いた経歴を惨めったらしくアピールする日々を送るしかないのか?! 「君みたいな人はいっぱい来るんだよ」とか素っ気なく言われながら?! いや、違う! 俺たちは俺たちの力を誇るべきだ! 世界にこの力を認めさせるべきなんだ!!!

かくしてミステリオは社長に首を切られた失業者連中を集めて立ち上がった(※脳内補正強めに入ってます)のだが、こんなのもう『新幹線大爆破』の健さんじゃないですか。応援しないわけにはいかないだろう。倒せミステリオ、倒せ! MJと良い感じになってきている上に若干16歳にして社長に後継者指名されているスパイダーマンことピーター・パーカーなんかやっつけろ!

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っていう感じでいつもはふーん度の高いMCUも今回は異次元の感情移入だ。だってミステリオめっちゃ弱いしね。弱いっていうか普通の失業おっさんだから。普通の失業おっさんがスパイダーマン倒して新アベンジャーズのリーダーになろうとするんすよ!? お得意のホログラム技術と失業仲間ネットワークを駆使して。こんなに燃える話があるかよ。

別次元の地球もエレメンタルズも空飛ぶミステリオが颯爽と戦う姿も全部嘘っぱち、全てはミステリオ率いるチーム失業者がホログラム投影ドローンで作り出した自作自演的幻影だった。
だがミステリオはホログラムの影でこそこそやっているだけの根性無しなんかでは断じてない。ヒーローっぽいだけで特殊機能なんかありゃしないコスチュームをまとって堂々ニック・フューリーに接近、シールドの秘密基地っぽいところに入り込み見事に自分をアベンジャーズの新ヒーローとして売り込んだ上、社長がピーター・パーカーのために残したあらゆるネットワークに侵入できる超兵器サングラスを彼自身の手で自分に渡すよう差し向けるというソーシャル・エンジニアリングの達人にして鉄人であった。

やってることがやってることだからもしも嘘がバレたらすいませんでしたで済むはずがない。よくやった、よくやったぞミステリオ。お前は偉いよヒーロー連中はみんなスーパー能力とかスーパースーツとかスーパー美貌とかスーパー仲間に恵まれているのにそういうの何もないもんな。口八丁ドローン百丁でよくやった。ミステリオ、お前こそ失業者の星だ!

むろんその政治的含意は明らかで、ミステリオはホログラム+ドローン銃撃で街やスパイダーマンを物理的に攻撃するのみならず、音声や映像を加工したどう見ても本物にしか見えないディープフェイク映像を拡散することでスパイダーマンを悪役に仕立て上げる情報戦にも打って出るが、そのへんトランプ時代の産物という感じ。
そうかトランプ支持の貧困層はきっとこういう感じでトランプを応援してるんだなー。引率の先生は結局勉強にならなかったなぁと帰路で嘆いていたが文字通りちゃんとお勉強になる修学旅行であった。

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ところでミステリオミステリオと言っているがこれはたまたまエレメンタルズと戦うミステリオこと本名クエンティン・ベック(のホログラム)を報じたメディアが勝手に付けた通称で、ピーター・パーカーからその名を聞かされたクエンティン・ベックはあぁそれヒーローっぽくていいねって感じで雑に採用したいわばミステリオ(仮)である。

我らミステリオを応援する失業者と低賃金労働者同盟は彼の本当のヒーロー名いやヴィラン名を知っている。その名はナイトクローラー、夜のロサンゼルスに蠢く凶悪パパラッチであった。
ジェイク・ギレンホールの近年最大の話題作といえば数々の賞で主演男優賞にノミネートされた『ナイトクローラー』であるから作り手の方が意識していないことはないだろう、『ファー・フロム・ホーム』を経過した後では『ナイトクローラー』はもうミステリオ誕生秘話にしか見えない。

感慨もひとしおだ。『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホールはもともと無断で切ったフェンスの切れ端を金物業者に売って糊口を凌ぐショボい失業者であった。なんとかそんな底辺生活を抜け出したい彼はある日のこと事故現場で容赦なく血まみれの被害者映像を撮る人間性の底辺に堕ちたパパラッチと遭遇、これは金になりそうだということで早速ロードバイクをパクると売り払って中古カメラを手に入れる。無名の泥棒無職が名ヴィラン・ナイトクローラーへと変貌を遂げた瞬間であった。

こうしてえぐい事故映像やモザイク上等の事件映像を底辺テレビ局に卸すようになったナイトクローラーは更なる高み、夜のアメリカン・ドリームを目指すべく部下のリズ・アーメッドと共に(余談ですがこのふたりは公開中の『ゴールデン・リバー』でもコンビを組んでアメリカン・ドリームを追っていた)自ら血なまぐさい事件を「演出」、その衝撃映像で名物パパラッチとしての地歩を固め以前の自分と同じように金と名声に飢えたハイエナどもを集めてパパラッチ軍団を結成するのだったが、まさかそこからスパイダーマンと互角に戦えるまでに成長するとは。ええ話だ。泣いてしまう。

『ファー・フロム・ホーム』での強大なパワー相手に少しも臆するところがない胆力、そして死んでもただでは済まさない、むしろ自分がスパイダーマンに殺されることで隠し撮りしたその衝撃映像をフェイクニュースにしてスパイダーマンを追い詰めてしまうトリックスターっぷり、ニック・フューリー(本物ではなく『キャプテン・マーベル』に出てきた擬態星人の影武者でしたが)に本物のヒーローだと思わせてしまうほどの自己暗示的演技力、そのすべては地獄のLA底辺生活で培われたのだと思えばなんだか納得である。納得した上に更にミステリオに共感してしまう。

もうスパイダーマンとかどうでもよくなってしまった。『ファー・フロム・ホーム』なのは本拠地LAから離れたミステリオいや、ナイトクローラーだ。ナイトクローラーの映画である。
あとフィリップ・K・ディックの『虚空の眼』を映像化したらこんな感じかなぁみたいな変化自在のホログラム空間はおもしろかったですね。最終的にスパイダーマン、『燃えよドラゴン』式に心の眼でホログラム空間を突破するんですけどずるくないそういうの。こっちはそういうヒーロー補正とざっくりした精神論で戦ってないんだから! ハックしたシールド謹製の戦闘ドローンは100台ぐらい使うけど!

もう視点が完全にミステリオ/ナイトクローラーになってしまっている。

【ママー!これ買ってー!】


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最強のヴィランは家族を失って世界の行く末を考えるようになった意識の高いオッサンではなく職なし金なし友達&家族無しの失うものがなにもない底辺おっさんであった。

↓前のヤツ


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