コドモ帝国の逆襲映画『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『ボス・ベイビー』の一作目はポスターとか予告編に俺の気を引くものがとくになかったのでふぅんとスルーしようと思っていたのだがなんでか結局観に行くことになって、そしたらもうめちゃくちゃ面白くてその時はこれはティム・バートンとテリー・ギリアムの最良のブレンドだ! ぐらい言ってる。で今もそうだと思ってる。あくまでもブレンドなのでティム・バートンの映画よりもテリー・ギリアムの映画よりも映画としてすごいってわけじゃないですけど、この二つの個性がちょうどよく混ざり合って誰でも飲めるようなバランスになってるなっていう、そういう意味でティム・バートンとテリー・ギリアムの最良のブレンドなんですよね。二人とも別に作品に関わってはいないんですが。

でもそのブレンド感って前作の場合は構成上の仕掛けに負うところが大きかった。今回の『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』は前作のラストを受けての続編になってるからネタバレにはなるんですけど言っちゃうと(どうしてもネタバレが嫌な人は逃げろー!)『ボス・ベイビー』の物語って実は全部想像力豊かな主人公ティムくんの空想で、馴染んだ家庭環境が弟の出現で壊されるんじゃないかっていう恐怖を反映した寓話であることがラストで明らかになる。

俺はそれを見てこれはすごいなーといたく感心したもんで、その手が使えないというかあれはあれでもう綺麗に完結してるじゃん? 蛇足じゃん? って感じでこの続編もやっぱり前作同様にあんまり食指が伸びず、で『ボス・ベイビー』ってNetflixでシリーズ版アニメが配信されてますけどこっちは映画版のラストを考慮しないでボス・ベイビーとかベイビー会社は実在するっていう設定で作られた対象年齢の低いバージョンだったのもあり、どうかなぁと思いながら今回も期待せずに映画館に行って…結果、やっぱ良いわ『ボス・ベイビー』。毎度毎度信じなくてすいません映画版の次回作があるならその時は小躍りしながら観に行きます。

いやこれは巧くやったよね。全部想像でしたオチからどう続くのかなーと思ったらティムはすっかりティムおじさんになって今や二児(姉妹)の父親なんですけど、持ち前の想像力で子供をあやしたりするのは大得意、これが、ところが、上の娘が小学校に上がって、そろそろパパの空想話を素直に喜んでくれなくなってきた…っていうかちょっとウザがられ始めてる! でティムおじさん幼児退行を起こすんだよ。娘が自分の世界から離れていくことの不安と元ボスベにして現バリバリ金稼ぎビジネスパーソンの弟テッドとの確執が屋根裏部屋に仕舞ったはずのボスベ幻想を呼び覚ます。その手があったか! てかティムおじさんメンタルが豆腐!

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そういうわけで今回は空想に逃げ込んだティムおじさんがどう現実と折り合いをつけるかっていうのを観客は最初からわかった状態で観ることになるわけですがその上で! どこまでが現実でどこまでが空想かその境は曖昧にされていて判然としないというのが今回のポイントって気がしたな。そりゃ俺だっていい大人ですから雪を被った街中をビッグ雪だるまを引きずったポニー橇が爆走し映画館を破壊するとか、悪の学長の策略によって学校に通う親たちがゾンビ化みたいなそれを現実だとは思いませんが! でもここには確かにティムおじさんの現実の経験とか願望が反映されてはいて、そこからティムおじさんとその家族に起こったことを想像することはできる。

逆に言えば想像することしかできないわけで、その答えのない物語をどう解釈するかとか、そういう構造の物語をどう評価するかっていうのでかなり観る人の評価は割れるんだろうなぁとかは思った。もっと正直に言ってしまうと、これバカな大人には理解不能。たぶんそういう人は解釈を観客に委ねる寓話的な物語は全部子供向けのガチャガチャしたやつっていう脳内カテゴリーに入れてしまって自分ではそれ以上考えない。前作がバートンとギリアムのベストなブレンドなら今回はスラップスティックなギャグや奇天烈ビジュアルつるべ打ちでその狂騒的なムードはずっとギリアム映画に近くなった。ギリアムもいつも嘆いているんだよ、子供は映画を真剣に受け止めてくれるけど大人は真剣に受け止めず自分で解釈しないって。

まったく大人ってのはつまらんぜ。そんなバカでも大人ってだけでデカい面ができるんだからこの世の中ときたら…おっと! あぶないあぶない、ストーリーの核心に踏み込むところだった! まそのへんは観てのお楽しみということでそうだな俺がもう一言二言言っておきたいのはこれはすごく音楽的な映画で、形式的にはミュージカルじゃないんですけど台詞回しとか台詞と台詞の間なんかラップみたいだし映画から音の動きが止まる瞬間っていうのがなくて登場人物も音を出すために常に動き回ってる。それで物語の劇としては一本調子で抑揚がなくなってるんですけど、音楽劇としては子供も観られるオペラみたいになってて、もうね、観た後すごい幸せ。ええもん聴かせてもらいましたわ~って感じですよね。

劇中でティムおじさんの長女はたくさんの宿題に絞殺されて思考が少し凝り固まってきてるところがある。ティムおじさんは音楽と遊びでそれを解きほぐそうとするわけですが、思考が凝り固まってるのは大抵の大人の観客も同じだよねってことでこんなアニメ子供向けでしょとか言い放つ脳みその凝り固まった大人のみなさん! あなたたちこそ観るべき絶対観るべきこれ!

【ママー!これ買ってー!】


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スラップスティックな音楽劇ということでテイストが似てるのはこれ。そういえばこれも不仲な兄弟のお話でしたな。

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