ホラ吹き上等映画『カラミティ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

アメリカの古い西部劇を観ているとたまに出てくる西部開拓時代の女傑カラミティ・ジェーンの幼少期をネタにした西部劇アニメなんですけど序盤の展開が最近日本でも評価が定まってきたケリー・ライカートの激渋生活西部劇『ミークス・カットオフ』に激似でこう似ると関連性がないとも思えないのだが、『ミークス・カットオフ』も実在の出来事にインスパイアされた映画というからたまたま基にした資料が同じだったのかもしれないし、あるいは『ミークス・カットオフ』の影響を受けたアンサー的な作品だったのかもしれない。

そこらへんはよくわからないが面白かったのは前半はそういうリアル寄せの展開で、キャラバン組んで夢の新天地に向かってる人たちが途中で迷っちゃって右も左もない荒野の中でどんどん食料とか水とか体力とか精神力とか人員とか信頼関係とか目的地への道筋を失っていく…みたいな中々ツラめな現実的シーンが続くんですけど、そんな中で一人だけ異常にポジティブかつ負けん気が強くかつ行動力が有り余っているカラミティ・ジェーンがキャラバンを飛び出すというか追放されて一人で荒野に踏み出すと一気に開けるアニメ的大冒険、まそうは言ってもみんな余裕がない時代のことなので絵柄は可愛いらしいがやってることは生き馬の目を抜く命がけの騙し合いの連続という夢のなさなわけですが、この現実から伝説への飛躍にはカタルシスがあった。

伝説上の英雄というのは得てして腕力よりも機知で怪物を倒したりするもので機知といえば聞こえはいいが要は騙し力に長けているということなわけですが、ジェーンもそれを踏襲してとにかく行く先々で騙る、化ける、誤魔化す! これがなんだかろくでもないように思えるとしたらそれは世の中の権力システムに取り込まれてしまっているからでしょうな。

ジェーンが華麗なる詐術で大人どもに対抗するのは大人(の男)どもが俺はお前よりも偉いんだぞ強いんだぞ的な詐術で人をコントロールしようとするからで、男しか履くことを許されていないジーンズを履いてみたところ他人の自分を見る目が変わった、という経験からジェーンは大人たちの「強さ」の正体は(伝説上の英雄たちがそうであるように)詐術であり虚勢であると気付くのだ。

服を着替えれば男も女も実はそんなに変わらない、ある程度の年齢に達すれば大人か子供か判断することも難しい。人は単に相手が着ている服を見てこの人は偉い人だとか強い人だとか判断しているに過ぎないということは『赤ずきん』とか『はだかの王様』とかの童話が超わかりやすく教えてくれることだ。

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大人の男たちのセコイやり方を知った少女がならばこっちはあくまで正直に清純に! などとはならないところはまったく痛快である。だってそんなもん結局騙す大人の側が得するだけだもんね。大人はいつだって自分が嘘つきであることを棚に上げて子供に正直であるよう期待するものだが、正直であればあるほど騙すのはたやすく自分が騙される心配もない。子供が正直であることで大人の地位が盤石になるなんてことは子を持つ親なら(かたくなに認めなくても)誰でも知ってる。

こんな欺瞞的な権力のシステムにまんまと絡めとられて正直さを美徳とする意気地のない正直者が一体どれだけいることか! 正直も場合によっては本当に悪い奴を利する悪になってしまうという大人の常識を正直な人々に隠そうとするのは例外なく権力者である。『七人の侍』で農民たちの「嘘」を咎めるのはその気になれば農民どもをぶった切ることのできる偉いお侍さんだったことを思い出そう。その欺瞞を糾弾するのは身分を隠して侍に化けていた菊千代だったことも!

というわけで映画の最後、ジェーンは長旅で弱り切った人々に嘘か本当かよくわからない大冒険ものがたりを語る。よくわからないっていうかたぶん嘘だろう。でも嘘だからいいのです。嘘を本当のように騙る勇気を持っているからこそジェーンは英雄なのであり、本当のように嘘を語ることでジェーンは弱った人々に彼ら彼女らを食い物にする権力者どものやり口を伝授するのです。毒には毒、嘘には嘘だ。弱者たるもの正直たれの「嘘」を飄々と暴いてしまうからカラミティ・ジェーンの伝説は庶民どもに語り継がれてきたのではないだろうか。弱者に抵抗のための力を与えるのはホラ話なのである。

ホラ話なので映像もなにやらパステル調のサイケデリックというか、輪郭線がない世界を諧調のない色彩が区切って形を成すもので、荒野のシーンとか星空の見える夜のシーンとかわりとアシッドな感じである。馬車の車輪からスポークを全部省くとかデザインも大胆。独特な絵柄だがあんまりその映像美で見せる作りになっていないのは絵はあくまでホラ話をそれっぽく飾るための道具なんだと割り切っているのかもしれない。この絵ならもっと主張が強くてもいいのになぁとはぶっちゃけちょっとだけ思ったりもするが、でもこういう物語の伝達を優先する姿勢は好感度高いっすよね。

※あとそれからカラミティ・ジェーンの丸っこいキャラデザはなんか『母を訪ねて三千里』みたいでかぁいかったです。

【ママー!これ買ってー!】


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『カラミティ』の監督レミ・シャイエの世評の高い前作ですけどこれ観てないんだよなー。

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