電気伝記伝奇映画『エジソンズ・ゲーム』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

主演でエジソン役のベネディクト・カンバーバッチのフィルモグラフィーにはチューリング・テストの生みの親アラン・チューリングを演じた『イミテーション・ゲーム』があるのでこれも伝記映画だし姉妹編というかベネディクト・カンバーバッチが色んな歴史上の人物を演じていくシリーズなのかな、と思ったらとくにこの二作に関連はないらしく原題もそれぞれ『The Current War』『The Imitation Game』と別物であった。

全然関係ない映画をセガールが出ているというだけで関連作扱いする(どうせ関連しようがしなかろうがどれも同じような内容だが)〈沈黙シリーズ〉の如し邦題命名。大丈夫なのだろうか。明らかに『イミテーション・ゲーム』の知名度に乗っかっているが配給会社の間で喧嘩になったりしないんだろうか。ある意味、エジソンに忠実な容赦ない敵対的宣伝手法と言えるが…。

しかしそんなことは映画が始まってしまえばどうでもよくなる。冒頭、雪原と思しきどこかに燕尾服の男が佇んでいるのが朧に見える。この男がどうやらエジソンのようであるということはまぁエジソンの伝記映画だからわかるのだが、いったいこれがどこなのか、なにをしているのかは一切不明。心象風景だろうか? その答えは映画のラストで明かされるのでここでは触れないが(しかし狂った映画マニアなら勘づいてしまうかもしれない)、なにやら異様なオープニングである。

その後テロップが出て状況説明。白熱電球の実用化に成功してイケイケのエジソンは発送電システムのモーレツセールスを開始した。そこに立ちはだかるのが当時既に著名な発明家・実業家であったジョージ・ウェスティングハウス。エジソンの提唱する直流方式では実用に耐えないと判断したウェスティングハウスは交流方式の発送電システムの開発に着手するが、セールスの鬼エジソンがこれを黙って見過ごすはずがない。ここに仁義も糞もない電流戦争(Current War)が勃発するのだった。

なるほどとのんびり画面を眺めていられるのは早くもここまでであった。そこからはもう、怒濤。脳内に登場人物の相関図を描く間もなく次から次へと場面が押し寄せては電撃的に過ぎ去っていく。これはなかなかとんでもない映画である。製作総指揮マーティン・スコセッシの名は決してお飾りではなく、エジソンの伝記映画と言われれば脊髄反射的にお勉強映画を想像するが勉強のべの字もない。あえて言うなら映画版『帝都物語』のような映画なのである。国内配給は角川だし。

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とにかく、状況とか背後事情とか観客の感情移入の余地なんか全部取っ払ってエジソンとウェスティングハウスの対決を中心に登場人物の起した行動とその結果だけを並べていく凶暴なストーリーテリングに唸らされる。何の前触れもなくJ.P.モルガンとかニコラ・テスラみたいな重量級歴史的人物が投下されるし、かと思えばいかにも重要そうな人物があっちでもこっちでも呆気なく死んでいく、その合間を埋めるのは蓄音機の誕生、電気椅子の誕生、ゼネラル・エレクトリックの誕生、日本館も設置された1893年シカゴ万博、史上初の電気椅子処刑、そしてキネトグラフ/キネトスコープ、つまりは映画の誕生。

実に絢爛たる、としか言いようがない物語であったがそれを決してストレートには見せようとしないケレン味たっぷりの演出が電気版『帝都物語』と俺だけが言う所以である。隙あらばカメラが傾く! 魚眼で歪む! 大げさにアオリ気味で寄る! 垂直俯瞰からのティルトの多用や反復する蓄音機の音声、キネトグラフ映像の挿入もなにやら異様な効果をあげて、エンドロールを見るまで奇才ヨルゴス・ランティモスが監督したのだと思っていたほどだ。いやこの文脈であれば実相寺昭雄かと思ったと言うべきなのだが。

IMDbを見ると制作年が2017年。案外前の映画だったがエジソンの伝記映画という題材のわかりやすさに猛反発するこの演出のアクの強さからすれば3年も寝かされるだけの理由はあるなという感じはある。それに題材がわかりやすいといってもここで描かれるエジソン像はいわゆる「努力の人」とか「発明王」ではまったくなく、どちらかといえば発明家というよりマクドナルドの一号店を半ば詐取するような形で買収し世界的チェーンへと押し上げたレイ・クロックのようなあくどいセールスマンである。演じるベネディクト・カンバーバッチも児童用伝記本とかに載ってるあのエジソンの顔とは1ミリもかすらないのでどこまでも観客の固定観念を揺さぶる。

物語の基本的な図式は悪徳エジソンVS実直ウェスティングハウス、そして二人の周辺を金も地位もなくふらつきながら独創的な発明を単独でモノにしていくテスラ、というもので外国人の立場につけ込んでテスラの才能を激安賃金で搾取したり自社方式を売り込むためなら平気でウェスティングハウスの誹謗中傷流言飛語をマスコミに垂れ流したりするエジソンの株がめちゃくちゃ下がるが、株が下がればしめたもので、電流戦争終結後にエジソンが見せる顔にはこんな悪徳商人でもというか、悪徳商人だからこそグッときたりしてしまう。

テスラもウェスティングハウスも分野は違えど本物の天才だったがエジソンは決してそうではなかった。エジソンは二流の天才で、彼が発明にこだわるのも直流にこだわるのも自分が一流であることを人生を懸けて照明…いや証明したかったからに他ならない(この映画の中では)。そしてエゴ剥き出しのその情熱がときに白熱電球のような本物の発明を生んだのである。仁義なき電流戦争によってエジソンに人生をぶっ壊されかけたウェスティングハウスであったが、彼は次第にそんなエジソンに憧れに似た感情を抱いていく。本物の天才がどうやっても持ち得ないものを二流のエジソンは持っていたのである。

映画はエジソンが次なる発明戦争に身を投じることを示唆して終わる。史実に関してはネタバレの対象外であろうから書いてしまうが、その戦争でもエジソンは負けるのである。実業家としては成功しても発明家としては負けて負けて負け続けた糞外道で二流の発明王。ろくでもない人間だなぁと思うし実際にこういう人間がいたら絶対にそいつと一緒には仕事をしたくないが、その不屈のファイティング・スピリットが人類の歴史を動かしたのであった。

【ママー!これ買ってー!】


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年中脂でギットギトなマイケル・キートンのレイ・クロックはキモい。かなりキモい。なんだかハンバーガーが不味くなるマクドナルド誕生物語です。

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