女優怪獣バトル映画『真実』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

ずいぶん思い切ったタイトルですがこれぐらい含みがあったほうが売る方はともかく作る方はやりやすかったりやりがいがあったりするんだろうか。真実。含みが多い方がやりがいがあるというのはたぶんきっと役者も同じで、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、いずれもとにかく演技欲がこっちが引くぐらい(ぐらいっていうか引いてる)ものすごい人のようなので、ざっくりしたキャラ設定だけ与えて後の真実はあなたたちが演技で作ってくださいよ~と役者に投げるような是枝ドキュメンタリータッチはわりあい合っていたんだろう、面白いかどうかはともかくドヌーヴ&ビノシュの火花を散らす演技合戦は見物であった。面白いかどうかはともかく。

ジュリエット・ビノシュは大女優カトリーヌ・ドヌーヴの娘で元女優。大女優らしくエゴが強い母親とはあんまり折り合いがよくないので極力実家には近づかないようにしていたが、今度母親が『真実』と題された自叙伝を出すっていうんで売れないテレビ俳優で夫のイーサン・ホークとまだ魔女の存在を信じてるぐらいのかわいい一人娘を連れてドヌーヴ邸にやってくる。

とりあえず邸に置いてあった『真実』を老眼鏡かけて読んでみたビノシュ、仰天。なんだこれは嘘ばっかりじゃないか! 離婚した父親なんか死んだことにされているし! スタァ自叙伝あるあるかもしれないが書かれる側はまぁ、たまったものじゃないだろう。
さてそんな折、ドヌーヴに新作映画の出演オファーが飛び込んでくる。マネージャーによれば母娘の確執をテーマにした低予算のSF映画で監督が大のドヌーヴファン。もう聞くだけでつまらない予感しかしないが何か引っかかるところがあったのかドヌーヴは出演を決める。

『真実』の内容を巡って日増しにドヌーヴとビノシュの仲は険悪になってくる。次第に、双方が胸に秘めていたわだかまりも表に出てきて邸内の雰囲気は最悪、ふたりよりも妻と姑の板挟みの上フランス語はあんま喋れないから会話にもついて行けずしかも娘の世話もしないといけない状況で愚痴ひとつこぼさない最高夫イーサン・ホークが可哀想になってくる。
だがそんな家庭の事情とは無関係に新作映画の撮影は進む。現実なんて虚構に生きることのできない根性無しが生きる世界と豪語するドヌーヴだ、いくら娘との間にイザコザがあっても、いやむしろ娘とのイザコザがあるからこそ、それを捨てて芝居に打ち込まずにはいられない。

はたしてふたりはどうなるんだろうか。この全然おもしろくなさそうなSF映画は完成するのだろうか。イーサン・ホークのメンタル負担は大丈夫だろうか。誰も気にかけていないがああいう人は鬱になりやすいから誰か多少は相談に乗ってあげて欲しいが無理っぽいドヌーヴ家であった。ドヌーヴなら鬱は根性で治るとか平気で言いそうである。フランスの張本勲だ。

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まともかくこの手の演技派俳優というか、演技派とは言わないか演技欲が強すぎる人、カメラの前での自己主張が強すぎる人、というのは曖昧な設定の中でこそ私の腕前の見せ時やないかと無駄に張り切ってしまうのでドヌーヴは過剰にドヌーヴだしビノシュは過剰にビノシュです。俺がドヌーヴだ! 俺がビノシュだ! の化け物には化け物をぶつけるんだよ的精神によりその演技が演技をしているようにしか見えないという宇宙の裏返し現象が発生しており、すごいのか逆にダメなのかよくわからないが、ともかくその放射熱はバチコン伝わってくる(舞台劇的なアプローチなのだ、と逃げを打つこともできるが)

しかしその点はさすが人間観察者・是枝裕和というところで、ドヌーヴでしかないハイパー・ドヌーヴとビノシュでしかないハイパー・ビノシュの映画の内外を絶えず行き来する猛烈空回り演技に第三項として映画内映画を導入することで、半ば強引に劇映画の外堀を埋めつつ、その映画内映画を通して間接的にドヌーヴとビノシュの関係性、また関係性の変化のドラマを表現するアクロバティックな構造によりハイパー・ドヌーヴをポスト・ドヌーヴへ、ハイパー・ビノシュをポスト・ビノシュに昇華していた。

映画を多層構造にしてリアルの基準を複数設定してしまえば演技の巧拙はもはや問題ではなくなる。一つの正解や真実なんかそこにはない。各々が好きな真実を選ぶだけだ。
ぶっちゃけ申して俺にはあんまり全然面白い映画ではなかったが、ふたりの大女優の演技バトルをこういう方法で丸く収めたのは見事というほかない。そうだなたとえば哀川翔と竹内力ダブル主演の三池崇史『DEAD OR ALIVE』みたいな…すいません例えをガッツリ間違えましたがまぁある意味ではそれぐらい! この大女優のバトル共演をどう成立させるかということに心を砕いた映画だということですね!

それは逆を言えば大女優バトルを見せるためだけの映画とも言えるわけで、ドヌーヴにもビノシュにも思い入れがまったくない俺としてはふたりの自然体熱演を見てもとくに思うところがないし、リアルドヌーヴに関連する実在の映画や女優を引き合いに出した虚実皮膜ネタにも今ひとつピンとこない。
ストーリー自体は起伏がなく平凡で、映画内映画は戯画化されているためだろうとはいえ本当に全然おもしろそうに見えないので興ざめしてしまう。ドヌーヴとビノシュの演技合戦に魅力を見出せなければ結構厳しい映画である。

個人的には二人の大女優の間でどんどん小さくなっていくしょぼくれ中年キャラクターを「真っ当に」演じていたイーサン・ホークが心の支えだったので、ほっとけばどこまでも爆走する大女優をなんとか物語に繋ぎ止めるべく(かどうかは知らないが)役者のエゴを殺してキャラを演じることに徹したイーサン・ホークにはありがとうの念しかない。イーサン・ホーク、良い役者です(太田胃散っぽく)

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ジュリエット・ビノシュの真実は私の演技の中でのみ生まれるのだシリーズ。気迫がすごい。

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