ミュージカル映画史上最高傑作!『グレイテスト・ショーマン』感想!

《推定睡眠時間:0分》

主人公のP.T.バーナムという興業師は手元にある本にはこんな風に書かれている。

「今度新しい仕事を始めたのさ。すばらしい仕事だぜ。宣伝というやつさ」
バーナムはいかにも高価らしい金時計をちらつかせた。
「宣伝だって? なんだい、それは?」
「そいつはな、世間の連中が必要なものを捨てて必要でないものを買うように説得する商売だ。おかげでこっちは大金持ちさ」
『世界変人型録』ジェイ・ロバート・ナッシュ著 小鷹信光訳

バーナムのフリークス・サーカスを目撃した堅物批評家のこっぴどい新聞批評をバーナム自身が地元紙に転載させる、というシーンが映画の中にあった。
悪評も立派な宣伝。ゲテモノやナンセンスほど大衆は興味をそそられるということをバーナムはよくよく理解していた。“アジアの光”と題された白く輝く神秘の象の出し物が実は白ペンキを塗っただけだとバレたりしても少しも悪びれたりはしない。猿の上半身と魚の尻尾をドッキングしたシロモノを“人魚”として見世物にすることも厭わない。
「世間は騙されるのが好きなのさ」とはバーナムの弁(と本には書いてある)。

誰が呼んだか蔑称は「いかさま殿下」。悪評を商売の糧にする炎上商法みたいなことをやっているバーナムだから、こんなおあつらえ向きの蔑称はないだろう。『世界変人型録』によれば「アメリカの華やかな興業界でもっとも大胆にして巧みな成功者といえば、このバーナムをおいてほかにいない」らしい。

伝え聞くところによれば本国での『グレイテスト・ショーマン』は批評家受けがたいへんよろしくない、当初の興行成績もたいへんよろしくなかったが、今になって口コミで人気に火が点いてきているとのこと。
それは出来すぎた話なので宣伝くさいが、批評家からそっぽを向かれた二流三流の薄っぺらいお気楽ミュージカルをこそ大衆は求めたのだとすればめっちゃ痛快だ。

やっぱり世間は騙されるのが好きなんだな。騙されることには夢があるからな。グレイテストなショーがあるのかと思って観に行ったらショーもない映画であったけれどもそれが楽しいんだよ。
あえてあえてあえて比較すれば、あえて比較すれば! 伝統的ハリウッド・ミュージカルのスタイルを現代に甦らせようとしたあのご立派な『ラ・ラ・ランド』よりも、『グレイテスト・ショーマン』の方にハリウッド・ミュージカルの精神を感じたよ俺は。

曲もダンスも芝居もストーリーも演出もプロダクション・デザインも『グレイテスト・ショーマン』は全部『ラ・ラ・ランド』の完成度に及ばないと思うけど、一個の作品としてうつくしくなくても客が楽しんでくれたらそれでいいじゃんっていう縁日の出店みたいな作りには映画本来の、とまでは言わないが夢工場ハリウッドの放つ魔力の核心が宿っているんじゃないだろうか。

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ていうわけでサービス満点。冒頭から信じられないストーリーの飛ばしっぷりで寝てる暇とか一切なし。深みのある人間描写とか鋭い社会風刺とか捻ったストーリーとかも一切ないですよ後はもう歌とダンスとサーカスとフリークスだな。
この歌! 会話が途中から歌になるっていうタモリが嫌いなあの方式ですけどこの歌がクサいのクドいの! そこからのダンスときたらダセェのなんの!

でもクサいってことは王道ってことでしょ。ひでぇ映画だなって思いながら自然と足動いてましたよ。みんなで歌えるしみんなでノレる楽しいナンバーばかり。
クソだせぇダンスシーンは見ていると俺のが上手く踊れるぞ! って壇上に上がりたくなってくる。いや実際にはもちろんそんなことはないが…観客参加型の映画というのはこういうものを言うんじゃないかと思った。
これは確かに欠点だらけの映画かもしれないけれども、欠点だらけだからこそ観客が主体的に映画に混ざって盛り上げていける。『ロッキー・ホラー・ショー』が完璧な映画だったかと。全然そんなことないだろう。

映画はフリークス・サーカスで一財を為したバーナム(このへんはバーナムの実際に行った興業を色々ミックスしたハーフフィクションらしい)のマッハダイジェスト一代記になっていたが、フリークスの人たち(小人、巨人、巨デブ、髭女、多毛、顔痣、シャム双生児などなど)が欠陥人間として迫害されているのと呼応するようにバーナムもストレートな欠陥人間として描かれていてとにかくこいつは性格が糞。
人を騙したり裏切ったり金を払わなかったりすることに良心の呵責とか一片たりとも感じないのでまあそれぐらい図太い神経を持ってないと興業師なんてやってられないと思うが糞。

でもバーナムは少しも反省とかしないんである。だってしょうがないじゃんねぇ、そういう性格に生まれついちゃったんだから。バーナムは反省しないしフリークスの人たちも怯えたり謝ったりとかしません。だってしょうがないじゃんねぇ、そういう身体に生まれついちゃったんだから。どうして咎を感じないといけんのか。
通例、こういう映画には耐えがたい偽善を感じてポリコレポリコレ騒ぐ俺ではありますが、この場合は薄っぺらすぎて偽善が入り込む余地すらないからさわやかなことこの上ない。

深さを追求すれば人間を描いたことになるか。そんなことないでしょ。哀れみとシリアスで囲い込めばマイノリティ差別に反対したことになるか。そんなわけないだろ。
みんな一緒に歌ってみんな一緒に踊ったらたのしいねぐらいな意識の低さ、金儲けと見栄と少しの悪戯心しか頭にないロクデナシ興業師のぺらぺらミュージカルは分断の時代にはヒューマニズムを帯びるのである、と美的センスのない大衆どもが意外と敏感に嗅ぎつけたから今になってヒットしてるんじゃないのこれは。

とてもよかったです。

※2018/2/18 多少修正してます

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このサービス満点かつ大味な見世物主義っぷりがセシル・B・デミルの映画を彷彿とさせたからリンクを貼ったのであって決してタイトル似てるからみたいな薄っぺらい理由ではないです。
煌びやかなサーカスと哀愁のサーカス人間模様と圧巻のサーカステント設立とそれから猛獣脱走パニックまであってなんかすごいぞ!

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