あの頃に戻りたい映画『マリグナント 狂暴な悪夢』感想文(途中からネタバレあり)

《推定睡眠時間:0分》

今の世の中はネタバレとかいうどうでもいいものに神経を尖らせすぎていると個人的に思っているので『マリグナント』がどういう映画かということはぶっちゃけ大したネタでもないので盛大にここでバラしてやりたくもあるのだがそこは私も大人です。ネタバレを踏みたくないセンシティブな人たちのためにネタバレは感想の後半に回してここから先はあぶないよの警告を入れた後に書くとして感想の上半分はあらすじも含めて完全ノーネタバレ仕様で書くとしよう。

しかしね本当にですね大したネタじゃないんだよこんなのは。だってオープニングクレジットの演出をちゃんと見れば何の話かなんてその段階でわかるもん。わからないっていう鈍感な人もいるかもしれないですけどいやそれぐらいがんばってわかれよ。別に映画とかそんなに見てなくてもアニメとか小説とかゲームとか何かしらのフィクションに多少なりとも触れたことがあればあんなの意図がすぐ読めますから読もうとすれば。なんでもかんでもネタバレ厳禁的な売り方をするのは観客の能動性を奪ってよくないよまったく。ぶつぶつ…ぶつぶつ…。

で、『マリグナント』は一言で言えばジェームズ・ワン版の『SUPER 8』だと思った。ネタバレしないって書いたばっかじゃん大人は嘘つき! などと早とちりしないでいただきたい。大丈夫ですからストーリーが『SUPER 8』って意味じゃないですから。『SUPER 8』はJ・J・エイブラムスが影響を受けた映画群に全編を通してオマージュを捧げまくった懐古映画ですけどこの『マリグナント』もそういう感じで「あの頃」の映画のオマージュとかネタ借用が大量にあって、ジェームズ・ワンそういう映画が大好きなんだなーっていうのがこれを見るとこっちが恥ずかしくなってくるほどにわかる。

すごかったな、「あの頃」の映画への愛の爆発っぷり。もうめちゃくちゃですよこんなの、まこれぐらいならネタバレにならないだろうから一つだけ言うと、ひたすら人が血を噴いて死にまくる。30人ぐらいは死んでた。それもすごいしそこに至るまでの超強引なハイテンション展開とか散々血みどろ殺人を重ねた末の「そんなところで終わるのかよ!」っていう謎を10個ぐらい残したままの力業エンドもすごい。とにかく見せ場第一主義というか、「こういう映画のこういうシーンが俺は好きなんだ!」っていうパッションだけで2時間弱繋いでる感じ。

だから整合性とかそんなのないしオリジナリティとかも皆無に近いし演出は(おそらく「あの頃」再現のためにあえて)安っぽくて嘘くさくて笑っちゃうぐらい無茶な内容なんですけど、ハリウッド大資本を使ってここまで好きにやられたらそれはもうアッパレとしか言えない感じで、『ファイナルファイト』のボーナスステージかよってぐらいひたすら壊されまくるセットと折れて裂けて血の噴き出す人体の山などを眺めながらなんか、夢のある映画だなーって思ったな。

なにかと制約の多いハリウッドでもヒット作を重ねて実績を積み上げればちゃんと本当に自分の作りたい映画を作ることができる。『マリグナント』、アメリカンドリームを感じるイイ話でした。

はいじゃあここからネタバレ入りまーす。スタンバイお願いしまーす。でも再度言いますけど本当に大したネタなんか全然ないですからねマジで。マジで!

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先に書いたタイトルクレジットの演出ってさ、クレジットのテロップが分裂したり融合したりするんですよ、細胞みたいに。でその前のアヴァンタイトルはどっかの病院で行われてる超能力実験的なやつなの。そんなのもう完璧に『スキャナーズ』じゃん。あまりにもクローネンバーグすぎるだろう。ちなみにここからは元ネタになったと思しき映画群のタイトルをざーっと並べますがどれがどういう内容でとかそういうのはいちいち書きませんから。どうせホラークラシックばかりだからみんな観てるだろうし、まぁ観てなかったら検索しろ。検索すればわかるだろでもちゃんと観た方がいいと思うけどな!

で、『スキャナーズ』が下地なんで『マリグナント』はサイキック双生児ものだったわけですけど、このサイキック双生児が主人公の脳みその後ろの方にくっついた「悪性腫瘍」で(どうして今まで気付かなかったのだろう! 会社の健康診断とかで!)、それが自分たち兄妹を引き離した例の医者たちに復讐をしていくっていうわけで『バスケットケース』ともしかしたら『死霊の罠』。サイキック双生児の力で寝ている間に超人能力を発揮できるようになった主人公の挙動とファッションはちょっとサム・ライミの『ダークマン』感あり。夢遊超人殺人鬼と化した主人公が逃げ込む地下空間は『チャド』でしょうあれはたぶん。みんな好きだなぁ『チャド』。ジョーダン・ピールの『アス』にも出てきてたもん『チャド』のビデオパッケージ。

終盤は血みどろの大量殺人大会になるがそれまでは夢の中で殺人鬼の凶行を幻視する主人公が妹とその謎を解いていくジャーロ映画的な展開で、赤とか緑とかのどぎつい原色照明も含めて『モデル連続殺人!』ほかのマリオ・バーヴァ作品であるとか、あとまぁやっぱりダリオ・アルジェントの『サスペリア PART2』とか『フェノミナ』は絶対に意識してるよな。ジェームズ・ワンといえば『死霊館』シリーズの監督ですけどその心霊趣味はアルジェント映画から受け継いだものだったんじゃないだろうか? と思えば『死霊館』シリーズの心霊探偵夫婦もどことなく『サスペリア PART2』のデヴィッド・ヘミングスとダリア・ニコロディと重なって見えてくる。これはちょっと面白い発見だった。

感情が高ぶると身の回りの電球が爆発しまくる超能力描写(メカニズム不明)はクローネンバーグというより『キャリー』とか『フューリー』由来だろう。ブライアン・デ・パルマにも『悪魔のシスター』とかあるわけだし分裂した自己のホラー的な表現としてあのサイキック双生児を捉えれば『レイジング・ケイン』とか『殺しのドレス』とかも元ネタになっているのかもしれない。ストーリーはなんか破綻してるけど映像が面白いからまぁいっかみたいなところもデ・パルマ映画っぽい。何かありそうで何もなかった無駄にでかすぎて遠近感が狂う病院のゴシックハリボテ感はティム・バートン映画のつもりだろうか?

夢の中で殺人が起こって現実と夢の境が曖昧で…ときたらそれは『エルム街の悪夢だよな。変身して超人になるシーンは『狼男アメリカン』とか『ハウリング』と似た感触がある。電話やテレビを使った異形との交信は『ポルターガイスト』か。背面殺人鬼の顔面造形はトビー・フーパーのフリークスホラー『ファンハウス』の面影が。『パトリック』とか『モンキー・シャイン』とかそういう地味なのも思い出す。『ダーク・ハーフ』とかもそう。ロメロの比較的光の当たらない作品からネタを採っている(のか?)のは信頼できるホラーファンの証だ。

それにしてもこの主人公はどうして脳みその後ろの方にくっついてる(切除しきれなかった)サイキック双生児に意識が奪われると超能力だけじゃなくて超人アクションまでできるようになるんでしょうね。寝てる間にあんなに激しく動いて人を殺して回ってたらどこかしら起きたときに異変あるだろとかも思うんですが全然一切気付いてなかったな。しかしその粗さも80年代ジャンル映画オマージュということで…いいのか?

どうですかこの絢爛たるオマージュっぷり。もうね、ジェームズ・ワン70年代後半~80年代のSFXホラーとか大好き。とにかくそれがやりたいっていう一心で作りすぎているよな。あそことか最高だと思ったよ、留置場で大虐殺が繰り広げられているのにいくら警官を呼んでも全然来ねぇっていう。あるもんなああいうの80年代ホラーとかに。それはお前聞こえてるだろ誰かにはっていうシチュエーションでも絶対に気付かれないで血みどろの惨劇が続くっていうご都合主義。あそこは『遊星からの物体X』のイメージでやってたのかもしれん。

そうだあと、これはジェームズ・ワンは知らないんじゃないかと思うんですけど、わりとプロットがゲーム版の『パラサイト・イヴ』に似てる気がした。そういう偶然の類似もなんか面白いよね。でも主人公の現実と夢が切り替わるシーンで壁がべろーんって塗り変わっていくところは映画版の『サイレントヒル』とかその異世界遷移演出をゲーム版に逆輸入した『サイレントヒル:ホームカミング』っぽくもあったので、ホラーゲームも好きで色々やってた人なのかもしれない。

っていう映画、『マリグナント』。すごい面白いけど間違っても傑作とか斬新とかそういう褒め言葉は出てこない。駄菓子だこれは。小学生の頃の夢だった駄菓子の大人買いをハリウッド映画人がその財力でもって駄菓子屋ごと買い占める荒技で実現したような映画だ。飲み物はチューベットの凍ってない版みたいなの、ご飯はブタ麺とヨーグルと五円チョコ、野菜もとらなきゃ身体に悪いからにんじんパフもちゃんと食べよう。大人だからタバコだって吸っちゃうもんねココアシガレットだけど。

そんなことでいいのかと思うがいいんです面白いから! そんな危険なところにわざわざ車停めないで別にいいだろっていう驚きの駐車スタイルとか! その夢遊殺人鬼面の主人公がアジトにしてる屋根裏部屋のでけぇ換気扇はなんなんだよとか! 昏睡状態に陥っていた主人公の実母がちょうどいいタイミングでガバァと目覚める衝撃的なご都合主義とかね! もうそういうのいっぱい! しょうもない! しょうもないけど、でもそのしょうもなさもここまで振り切れるといっそ爽快なくらいなんだよ。

※確信犯的にチープ演出をやっているであろうことは80s的としか言いようのないシンセサウンドをなぜそこでのタイミングで流すあたりからも窺える。なぜそこで、といえばピクシーズの”Where Is My Mind”のカバーを殺人シーンに持ってくるこのセンスよ。それはもちろん心のふるさとを失った主人公とサイキック脳みそ双生児の心情の表現でありましょうが、だとしても殺す時に使わないでいいよな。でもそこはちょっと泣ける感じだった。ジェームズ・ワンって『死霊館』シリーズとかだとせっかくいろんな怪異を出しても最後はなんかスピリチュアルな感動話にするからつまんねぇなって思ってたんですけど、この人は本当は感動話とかそんなに興味がなくて、怪異をたくさん出す口実として感動話をやってるだけなんじゃないかって思って。だからこの映画で血まみれの殺人シーンに”Where Is My Mind”がかかった時に、俺にはジェームズ・ワンの「これが本当の俺で俺はあの頃に浴びるように見て憧れたホラー映画みたいな殺しとか特撮を自分の映画でも沢山やってみたいだけなんだよ!」っていう心の叫びが聞こえた気がしたんだよ。

【ママー!これ買ってー!】


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おそらく『AKIRA』には影響を与えているし『ホムンクルス』にも影響を与えているし塚本晋也の『鉄男Ⅱ』も影響が露骨、ゲームの『真・女神転生』にはその名もスキャナーという超能力使いの敵キャラが出てくるので『スキャナーズ』がサブカル人種に与えたインパクトはでかい。

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