悪ふざけが世界を救う映画『スペース・プレイヤーズ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

賛否両論侃々諤々賛成反対真っ二つの東京オリンピック2021ですがそんな中で賛成派も反対派もこれは確かに今大会の収穫だったよなとまぁまぁ意見の一致を見た感じになっていたのが新たに加わった競技のスケートボードで、国旗を背負って戦うというよりは国とかあんま関係なく同好の士が一緒に本気で遊んでいるようなところがどうもウケたらしいのであった。

登場人物の9割を黒人が占めるこの『スペース・プレイヤーズ』はNBA選手とかも何人か出てるらしいが(スポーツ観ないのでよく知らない)バスケットボールを商業競技としてではなくストリートの黒人文化として捉えていて、スケボーもそうだがストリートのスポーツなら勝敗よりも楽しむことの方がどう考えても大事だろってことで商業VS遊戯の構図になる。主人公の大人気プロバスケ選手は幼い頃はルーニー・テューンズのゲームボーイソフトが大好きで夢中で遊んでいたのだが、そんな時コーチに「試合はコートに入る前から始まってるんですよ!」とみんなが知ってる方じゃない安西先生みたいなことを言われてゲームを取り上げられてしまうのであった。

ゲームと一緒に遊び心を捨てた彼は持ち前のバスケ才でスタア選手にのし上がるのだが、でも、あの選択は本当に正しかったのだろうか? まぁプロだからといえば確かにそうなのだが、思えば最近はほとんどバスケを楽しんでいない気がする…。ここで俺の懐古心に去来したのはバンプレストがスーファミで出した対戦型アクションサッカーゲームであった。たぶん『ザ・グレイトバトル』系統のアニメ特撮人気キャラ勢揃いみたいやつなのだが、ゲームバランスがグレイトにざっくりしているので一人だけ他のキャラの3倍ぐらいの速さで走れるやつがいていやそれは100%追いつけないですよね!? そいつがボール持ったら実質ゲーム終了ですよね!?

という…でもそれがめっちゃ面白かったんだよな。そいつがボール持ったらもう本当勝負にならないから対戦型サッカーゲームとしては終わってるんですけど、あまりにも早すぎて意味がわかんないからそいつを使うともう友達みんなでゲラゲラ笑う。で、ハンデ付けるためにちょっと立ち止まるとかこっちで勝手にルール作ったりするんですけど、ハンデ付けても圧倒的に早すぎるからいや意味ねぇじゃん! ってそれでまたゲラゲラ笑っちゃうのよ。

なんかね、あの崩壊サッカーゲームのことを思い出すとゲームをやるってなんだろうって考えるんですよ。『スーパーマリオカート』だって最近のはともかく初代はレースゲームとしては正直食い足りないわけじゃないですか。本格的にレースやりたい人はストイックに『F-ZERO』やるわけだし。でも『スーパーマリオカート』はレースのゲームとしてはそこそこの出来でもみんなで楽しめるレースゲームとしては傑作なんですよね。カミナリで一発逆転みたいなそれズルくないっていう要素があるから逆にみんなで楽しめる。レースのゲームとしてゆるいからこそゲームとして面白いっていうのがあるんですよ。

えー、なにかダイナミックに話が逸れているような気もしますが、まぁ『スペース・プレイヤーズ』も主人公の息子が作った対戦型バスケゲームの中に主人公と『ルーニー・テューンズ』の仲間たちが入って対戦するという映画なので…実はそんなには逸れていないのですびっくり!

それにしてもなぁぜゲームの中に入っちゃったのかというと入り方はなかなか謎だが原因はワーナー・ブラザース本社のアルゴリズムにあった。ワーナー本社の奥深くに眠るワーナーの歴史のすべてが詰まった禁断のサーバールームにカメラが入ってサーバーの中を覗き込むとそこにいたのは電子生命体のドン・チードル! 彼こそはワーナーの誇る大ヒット量産アルゴリズムであり、チードルの提案した企画に乗ればワーナーは楽してめちゃくちゃお金が稼げるのであった。そのチードルが本心を隠して今回ワーナーの偉い人に提案したのは超人気NBA選手の主人公を『コングレス未来学会議』方式でスキャンして既に人気の確立している映画に出せばめっちゃ儲かるじゃん企画で…という次第なのだがなにその自虐設定。超おもしろくない?

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人気のやつと人気のやつを掛け合わせたら大ヒット間違いなしとかハリウッドすぎるバカ思考だしこの映画自体ワーナーのライブラリーで眠ってる人気キャラと人気映画を無造作にぶちまけた同じくワーナー映画の『レディ・プレイヤー1』の二番煎じ的な極めて安易な発想の映画であるし…ルーニー・テューンズの仲間たち+主人公がバスケをやってる背後には『IT』のペニーワイズとか『時計じかけのオレンジ』の不良グループとか『悪い種子』の殺人女児とか『バットマン リターンズ』のキャットウーマンとペンギンとかの再現度がそこまで高くないコスプレさんたちが観客として来ているのだがそんな雑な! でもその雑さが逆になんか風刺的で面白かったんだよ、キングコングの無駄遣い感とかアイアン・ジャイアントのとりあえず出しとけ感とか。

そうは言っても知った顔が出てくればストレートに嬉しくなっちゃうっていうのもまぁある。観客として楽しそうにしてるペンギンを見ればそうかお前生きてたんだな! よかったな! って思うし。あとペニーワイズは『妖怪大戦争 ガーディアンズ』にも世界妖怪会議の場面に出てたので仕事選ばなすぎ。ペニーワイズお金ないっぽいですよ! 誰か仕事を与えてあげてください! ドン・チードルお願い!

さてそのドン・チードルによってワーナーのサーバー宇宙(「ワーナー・サーバー・バース」とテロップが出るがこれもなんだか昨今のハリウッドのなんでもユニバース化しようとする風潮を皮肉っているようである。ワーナーもDCEUやってるわけだし)にあるルーニー・テューンズの星は廃村(?)の危機に瀕していた。他の星には君たちがもっと輝ける役がありますよ~のチードル甘言に乗ってルーニー・テューンズの仲間たちはダフィーもトゥイーティもロードランナーもコヨーテもみんな他の星に出稼ぎコラボに行ってしまってカートゥーン界きっての悪童バックス・バニーだけがケッおいらにはおいらのやり方があるんだいとニンジンの皮を吐いてルーニー・テューンズの星に居残ったんである。あと火星人もコラボ需要がないので取り残された。

ルーニー・テューンズの展開がほぼほぼ終了してしまい予告編でも一世を風靡した『スペース・ジャム』の続編であり完璧にルーニー・テューンズの外伝的作品であるにも関わらずルーニーのルの字も出ず「ワーナーの人気キャラが大集合!」みたいな宣伝文句でお茶を濁されたルーニー・テューンズ撤退国の日本で観るバックス・バニーの(映画の中での)境遇はなかなかに涙を誘う。ドン・チードル・アルゴリズムとサーバー宇宙の中でバスケ勝負しないとチードルにかどわかされた息子が帰ってこないのでとりあえず主人公はルーニー・テューンズの星からメンバー集めを始めるが来訪直後にバックス・バニーからカートゥーンの洗礼、他のキャラがみんな別の星に行ってしまったので主人公をエルマー・ファッドとかワイリー・コヨーテに見立ててルーニー・テューンズの定番ネタ・名作ネタを披露するのだが、バックスお前そんなに必死に…寂しかったの? みたいな感じである。自分の持ちネタでもないロードランナーの例のあれをやるところとか精神的にクるものがあります。

しかしバックスの悲哀に反して他の星で『カサブランカ』やアニメ版『スーパーマン』やコミック版『ワンダーウーマン』などなどのワーナー名作群とコラボしてるルーニー・テューンズの仲間たちは水を得た魚なのでした。『スーパーマン』の星でポーキー・ピッグと一緒にヒーローを気取ってるダフィー・ダックはルーニー・テューンズの中でもワーナーに自分主演の映画企画を売り込むというネタをやっていたので念願が叶った形、『ワンダーウーマン』の星に行ったローラ・バニーは一人前のアマゾンとして認められて嬉しそう、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の星に行ったのはロードランナーとコヨーテで…確かに走り屋仲間もたくさんいるし地形的にも走りやすそうだしこっちの方がロードランナーにぴったりかもしれない。さすが金儲けに特化したドン・チードル・アルゴリズムのコラボ采配は的確である。コヨーテにとっては食いもんに加えて水もないのでかなり厳しい環境っぽいが。

という感じで映画はルーニー・テューンズのキャラを使ってワーナー名作群を遊び倒していく。金儲けアルゴリズムのせいで散り散りになったワーナーの古参ルーニー・テューンズの面々…と書くとなんか悲壮感があるが実際は悲壮感ゼロというのがルーニー・テューンズらしいところで、どんな状況や環境に置かれても後ろ向きになったりはせず徹底的に遊んでしまうのがルーニー・テューンズの精神である(中にはホロリと切ない話もあるとしても)

終盤はルーニー・テューンズの人気キャラが一堂に会したテューン・スクワッドとなんとなくファンタスティック・フォーっぽいチーム・チードルのバスケ勝負になるがバスケといってもこれは主人公の息子が作ったバスケゲームの中での勝負であるからルールなんかあってないようなもの、『スーパーマリオカート』方式でそんな逆転の仕方ねぇだろ的な逆転と特殊アクションの連続である。コートの上を飛び回るチーム・チードルの鳥メンバーとかそれもうバスケじゃねぇだろと言いたくなるがテューン・スクワッドはテューン・スクワッドでコヨーテがアクメ社から取り寄せたボール増殖マシーンでボールを百個ぐらいに増やして片っ端からゴールに放り込むというルール無用のプレイを展開しているのでおあいこである。ちなみにこんなに大活躍したコヨーテはもちろん増殖マシーンに吸い込まれてえらいことになるが誰も労ったり褒めたりしてくれない。コヨーテもそのことでとくに不平不満はこぼさないので大御所カートゥーン芸人としての矜持だ。

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この試合になってないドタバタ試合を通して主人公はハタと気付く。そうか、俺はバスケ本来の持つ(?)この楽しさをすっかり忘れていたんだなぁ。実はチードル・アルゴリズムが求めたのもゲームの楽しさであった。詳しくは描写されないものの確実に金の儲かる、でも創造性の欠片もないつまらない企画ばかりワーナーに要求されるチードル・アルゴリズムは主人公の息子の作ったゲームを見てこれ面白いじゃん、こういうのを俺も作ってみたいじゃん! と電撃的に閃いてしまったのだ。シリアスVS遊び。真面目VS不真面目。ていうか本当はVSですらないよね。世の中の対立とか垣根とか常識の枠というものを遊び精神でぜーんぶ無意味にしてきたのがルーニー・テューンズなのである。だからこれは真面目でシリアスな世界(つまり金が動く世界ということだ)に雁字搦めにされて疲れた人たちがルーニー・テューンズの自由奔放な悪ふざけを見て自分を解放していくという実は結構ジンとくる映画なのだ。ルールなんかめちゃくちゃでも一緒に遊ぶ仲間さえいればバスケは楽しいものなのさ!

ルーニー・テューンズのクリエイターたちに倣ってルーニー・テューンズのネタ以外にもふざけたギャグがいっぱい出てくる。毎シーンファッションを変えるドン・チードル七変化は最終的に映画版『殺し屋1』の塚本晋也みたいになったりもしてアホ爆発、チードルがスティーブ・ジョブズに扮するシーンでは背景の壁にあしらわれた名前のロゴ…チードルは自らをアル・G・リズムと名乗るがその名前のGの部分がGoogleロゴのGっぽいフォントで強調されていたり、その部屋には動かなくなったペッパーくんが置かれていたり…遊びすぎ!

ゲスト出演陣遊びも笑ってしまったね。前作の『スペース・ジャム』といえばルーニー・テューンズの映画である以上にマイケル・ジョーダンの映画だが、今回もなんとジョーダンが電撃参戦してくれる…のだがなにその冗談みたいな登場! ひで~な~それは笑うよ~。バスケ試合解説に呼ばれるのは絶賛公開中『フリー・ガイ』でも大活躍のリル・レル・ハウリーで、この人はバスケ界のレジェンド選手たちが老人メイクで超絶テクを披露する本気のお遊び映画『アンクル・ドリュー』の主演だった人、その役柄はマイケル・ジョーダンに憧れてバスケを始めたが才能が無かったので今は弱小チームのコーチをやっているというものだったので楽屋落ちみたいなゲスト出演であった。

観客も作り手も世代交代が進んできてるんだろうな。最近はこういうゲームに理解のあるゲーム感覚の映画が本当に多くなった。現実の世界はとにかくあらゆる局面で利害衝突があって様々な慣習慣例とか差別と憎悪とかがあってあって男ならこうすべきだとか女ならこうすべきだとか、ルールは何よりも守られるべきだ、たとえ意味などわからなくてもルールはルールだからだ…みたいなのが途方に暮れるほど山とある。でも実際のゲーム世界がそうであることは残念ながら稀だとしても、理念的にはゲームの世界にそんな制約なんかない。理由は単純でそっちのが楽しいからに決まってる。そして今の人の多くは真面目なことよりも楽しいことを追求したほうがみんなハッピーなんじゃないのってたぶん気付いているのである。

東京オリンピック2021で賛成派も反対派もスケボーの和気藹々を好意的に受け止めた(らしい)ことは遊びの精神が諸々の垣根を取っ払い分断を埋めた一例かもしれない。で、この映画の場合はすっかり後進のキャラクターに押されて影の薄くなったルーニー・テューンズの面々が分断だらけの(仮想)世界に飛び出してきてそのすべてを遊び場に変えてしまうのであった。現実世界がつらく感じたらルーニー・テューンズみたいに自由に遊んじゃえばいいじゃない。ルーニー・テューンズはプロの芸人集団なので客を泣かせなんか決してしないが俺は2回泣いたよ。一箇所はポーキー・ビッグがルーニー・テューンズ史上もっとも輝いたところ、もう一箇所はコヨーテがカートゥーン芸人の矜持でボール増殖マシーンに自分から吸い込まれるところだ。…いや、そこなの?

※俺は専門外なのでとくに言及していないがなんでもNBAスタアが何人も出ている映画ということでバスケが好きな人も楽しめる映画っぽい。あとブラックカルチャーが好きな人も。

※※なんか絶賛トーンですけどせっかくなんだからルーニー・テューンズの新作短編作って本編前に付けてくれよーとはかなり強めに思います。もしかしたら今後3DCGアニメで復活するかもしれないけどね!

【ママー!これ買ってー!】


ルーニー・テューンズ コレクション オール・スターズ 特別版3 [DVD]

米版ソフトではコンプリート(ではないと思うのだが)BOXも格安で出ているが、ただ吹き替えはやはりほしい…ということでこの傑作選的国内盤DVDは収録作こそ少ないが名作だらけ、『名曲の喧しい夕べ』『魅惑の蛙』『ショービズはキビシ』など、ドタバタだけではないルーニー・テューンズの奥深い世界を知ることができる。みんな大好きコヨーテとロードランナーも少し入っているのでかなりお勧め。

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