歴史に学ぼう映画『ホロコーストの罪人』感想文

《推定睡眠時間:15分》

こういう邦題だし宣伝文句が「自国の罪と向き合う」みたいな感じだったのでそういうのを見るつもりで行ったら今年プチブームが来ている強制収容所ものの一本でノルウェーなら迫害とかなさそうだし安心やろと思って移住してきて親は店も持てたし息子は現地の人と婚約とかしたしでようやく地元に馴染んできた感のあるユダヤ人一家がナチス・ドイツの侵攻で強制収容所に送られ財産は没収されやがて絶滅収容所に移送され…という映画なのだった。

その描写は誠に生々しくテクニカルな撮影に頼ったりしないで俳優の迫真の演技で悲劇を伝えるものだから結構重く迫ってくる。主人公格のユダヤ人青年はボクサーなのだがこの人が自称俺もボクシングやってた強制収容所の所長にボクシングの試合を持ちかけられるところとかキツイっすよね~。所長は看守みたいにヒステリックに怒鳴ったりはしないが頭の中は看守よりもっと冷酷な人で、主人公にだけは優しく接するのだがそれもボクシングの接待試合をしてもらって「公式に」主人公をボコボコにしてドイツ人すげー&ユダヤ人はやっぱクソ! をやりたいだけなのであった。その卑劣が透けて見えるのでいつ上辺だけの優しさが破れるのか気が気でない。

黙って金目のものを探してたあれはノルウェー警察だと思うが財産没収班がユダヤ人一家の母親に一旦は取り上げた家族写真を金にならねぇからと返すところとかもなー。それで母親弱々しく「ありがとう…」って言うんですよね。財産没収班のお前らなんかこっちは人間として見てないですよっていうのとその眼差しに対する屈服がキツイんだよな~。

っていう感じで面白いと言うと語弊のある面白い映画だったんですけど俺はあのもっと組織的なものっていうかノルウェーがどうナチス・ドイツに取り込まれてどうホロコーストに加担するに至ったかっていうその過程と力学に関心があったので、あくまでユダヤ人一家の視点からその悲劇を見つめたこの映画なら『ホロコーストの罪人』っていうより『ホロコーストの被害者』じゃんみたいな、確かにホロコーストに加担するノルウェー人は出てきますけど、ただ加担しているだけでそこに至るまでの葛藤とか自己正当化のプロセスは見えてこなくて、これで「自国の罪に向き合った」と言えるのかな? というのは思って。

原題はたぶんニュアンスが違うので邦題(と惹句)の選択ミスでしょうけど、なんかそれでう~んそうかな~ってなってしまったな。ホロコーストに関するノルウェーの罪の部分はエンドロール前のテロップにまとめて表示される感じで、どちらかと言えばそこから目を背けようとする志向の強い映画にさえ俺には見えたのである。

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とはいえ『ホロコーストの罪人』レベルの自国の負の歴史描写さえできない日本映画界なので悲惨な内容ではあるがなんだか羨ましさを感じてしまった。一度見たら三日は夢に出る超人ヘアスタイルの名優キム・サンホの在日韓国人哀歌『焼肉ドラゴン』も一応は日本映画だが原作戯曲は韓国のものですし。

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