色々たいへん映画『プライベート・ウォー』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

ISに家族をぶっ殺されたヤスディ教徒の女たちが民間クルド人部隊と合流してISの戦闘員と戦う『バハールの涙』という映画に狂言回し役として隻眼のフランス人女戦場ジャーナリストが出きたなぁと思い出し、あれはたぶん役名こそ違うが『プライベート・ウォー』の主人公であるところの実在の戦場ジャーナリスト、メリー・コルヴィンをイメージしたキャラクターだったんだろうと観て何ヶ月も経ってからトリビアを得る。こっちを観てから『バハールの涙』を観るのも面白いかもしれない。戦場ジャーナリスト・ユニバースだ。

むろんそんな軽口を叩ける映画ではなく無謀にして勇敢なるメリー・コルヴィンは情勢悪化の一途を辿る2012年のシリア・ホムスで戦闘に巻き込まれて死んでいるが、それに続くエンドロールでは「その後、シリアでは約50万人が死亡している」的なテロップが出、アニー・レノックスが歌う悲痛な鎮魂歌が流れ出すとお前らはそれで良いのかと言われているようですいません感すら覚えてしまう。

この監督マシュー・ハイネマンはメキシコ麻薬戦争の最前線に入って戦闘に巻き込まれたり拷問の現場に居合わせたりしながら撮り上げた衝撃ドキュメント『カルテル・ランド』とか、在シリア人とドイツの亡命シリア人から成る市民ジャーナリスト集団RBSSに密着した『ラッカは静かに虐殺されている』とか、自身もドキュメンタリー映画監督というより編集もできる戦場ジャーナリストみたいな人なのでそのメッセージは上っ面だけのものではないだろう。

まぁ、かといって、なにをするかといえば無責任な観客なのでなにもしないが、世の中には報道が少なくなっても人道危機的状況にある地域がいっぱいあるということは頭の片隅にいつも置いておきたくは一応なる。

シリア内戦はまだ続いているのだし、そういえば最近ロヒンギャの居住地が国外に追いやられているうちに作り替えられてなかったことにされてしまった事件というのも報道されていた、ウイグルではソフトとハードを使い分けたウイグル族の弾圧がゆるく長く続いていて、メキシコ麻薬戦争は全然終わりそうもないので私的利用に限ってコカインぐらい合法でいいよ政策が可決されてしまうぐらいなのだから各地たいへん。

ここ日本でも牛久入管で長期収容者の非人道的な扱いに対して抗議の声が高まり100人規模のハンストが行われたが入管も政府もガン無視、というのもその列に付け加えておこう。対岸の火事を物見遊山で眺めていたらこっちの足に火がついていた、なんてことになったらバカみたいですからね。まぁ、それはいいとして。

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ということを(劇中では描かれないが)思い知らされる『プライベート・ウォー』だったが内容的には人間ドラマの色が濃い。メリー・コルヴィンは大義で動くのではなく個人的な喪失体験の埋め合わせで危険な戦地に赴くのだがその度に新たな喪失を経験するのでエンドレス、ロザムンド・パイクの力演もあって痛ましさ全開であった。

戦場ジャーナリストをヒーローとして描かないところが良い。戦場ジャーナリストが命懸けで取ってくる生の情報は現状把握に必要不可欠なものであってもその行為はヒロイックなものではまったくない。命からがら帰ってきた戦場ジャーナリストに自己責任論を投げつける阿呆も問題でしょうが、戦場ジャーナリストをヒーロー扱いしてしまうのもそれはそれで問題。
メリー・コルヴィンは新聞社だかに所属していたが現在は戦場ジャーナリストといえばフリーランスが一般的らしく、フリーランスであれば命を捨てても会社が責任持たなくていいから楽だよねみたいな話らしい。

なんてきたない大人たちなんだとは思うがそのおかげで一般庶民は戦場情報を知ることができているわけだから功罪相半ばというか、なんとも業が深い。
親身になっているようでも冷酷にメリー・コルヴィンを使っているようでもある新聞社の上司はそのへんの事情を絶妙に表現していたように思う。ある時はメリー・コルヴィンの限界メンタルを見かねて園芸欄担当への異動を勧めてあるときはお前しか取れない情報があるんだとハッパをかけて。でもメリー・コルヴィンが取ってきたスクープは絶対生かそうとするみたいな。

清濁併せ呑んでゲロ吐かないとこういう仕事はできないんでしょね。たぶんそのことはメキシコ麻薬戦争もシリア戦争も間近で見てきたマシュー・ハイネマン身に染みて知ってるんだろう。その意味ではメリー・コルヴィンを通してマシュー・ハイネマンが自身のトラウマ的戦場経験を吐き出そうとした映画という風にも見られるかもしれない。

忘れられつつある(かもしれない)スリランカ内戦を映画の頭に持ってくるあたりにマシュー・ハイネマンの本気を見る。フラッシュバックを多用した編集(メリー・コルヴィンはPTSDを患っていた)、戦場環境音の恐怖、等々と単純に絵的に迫力もあっておもしろかったです。ジャーナリストはたいへん。世界はたいへん。みんなたいへん。

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衝撃的というほかない。

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