映画ネタバレ感想文『夢判断、そして恐怖体験へ』

《推定睡眠時間:0分》

またいらない情報を知ってしまった! 幸福の科学映画のくせにいやに出来がいいなと思ってとくに脚本がよくできていたからこの富川水亜とかいう脚本家は誰なんだとインターネットのディープシーをさまよった結果、現在幸福の科学の芸能部門は幸福映画では主にプロパガンダ・ドキュメンタリー『心に寄り添う。』を手掛けるアリ・プロダクションと教団を離脱した大川隆法長男の大川宏洋がかつて率いていたフィクション映画中心のニュースター・プロダクションの二社が併存しているわけだが、汚点は全力で消しにかかる(※宏洋が製作や出演で関与した映画の情報などは幸福公式サイトやプロダクション公式サイトから削除されている)幸福であるから宏洋の痕跡を消すためかニュースターの活動が縮小しているらしい。

幸福スタアの千眼美子は元からアリプロ所属だが幸福映画に欠かせないバイプレーヤーである希島凛もニュースターからアリプロに移籍してしまったようなのでこれ近々消滅するんじゃないかニュースター。最近の大作系幸福フィクション映画の製作は日活子会社のジャンゴフィルムに移っており、主力タレントもアリプロに集中していることからニュースターの存在意義は薄い。いやそんなことは! そんなことはまったくどうでもいいのだが…どうもこの『夢判断』はスタッフ・キャストが『心に寄り添う。』シリーズから引き継がれているらしく、大々的な宣伝を行う幸福フィクション映画の陰となって知名度こそ低いが『心に寄り添う。』シリーズは作品の完成度ではフィクション映画の諸作を凌駕しているので、この幸福フィクション映画らしからぬ出来の良さの理由はそのへんにあるようだ。

もっとも、完成度が高いといってもプロパガンダ・ドキュメンタリーとしての『心に寄り添う。』シリーズは主に幸福の科学大学の認可を目的して制作されており(要出典)、そのために校内でどれほどレベルの高い科学研究が行われているかなどといったことをレベルの高さを測る客観的なモノサシを置かずにあくまで雰囲気と情緒で伝えるような手段の選ばなさがある。それを悪質と言っていいのなら完成度が高い分だけ悪質な「ドキュメンタリー」が『心に寄り添う。』シリーズなわけで、一方教団外部のジャンゴフィルムが製作を担っているためか「この物語はフィクションです」的なテロップが入る幸福フィクション映画は完成度が低いとしても悪質さも薄く無邪気に楽しめるのだから、完成度が高ければいいというものでもない。

ニュースター時代の宏洋の代表作『君のまなざし』だって決して完成度が高いわけではないが宏洋のサービス精神が爆発して面白かったですからね。映画の完成度を取るか客に対する誠実さを取るか、難しい話です。いや両方取れや。

まなにはともあれこの『夢判断』は幸福フィクション映画のくせにちゃんとした映画になっていてもういきなりネタバレから入ってしまうが感心したよ最後デヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』みたいに突然カメラが引いて今まで画面に映っていた光景は映画館で流れてる映画だったって判明するの。主人公のハッピー・サイエンス・ユニバーシティ千葉キャンパス(※こんな名前ですが認可下りてないので私塾です)の女子学生は夢の内容からその人の前世を読み取ることのできる男性講師の助手として色んな人の恐怖体験に触れていくわけですが、夢判断つーわりにはあんま夢関係のエピソード出てこねぇな…と思っていると例の『インランド・エンパイア』展開になって、で主人公が見てるスクリーンの中の自分はクランクアップを迎えて、そこで目を覚ますと女子学生は一気に妙齢の超心理学研究家に。「先生、海外から郵便が」と彼女が受け取ったのは例の男性講師からの新著の献本かなにか。今まで見ていた学生時代の夢はその予知夢のようなものなのであった。

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映画の冒頭には「この世界は夢」みたいな大川隆法の著作からの引用とされているが江戸川乱歩の「うつしよは夢、夜の夢こそまこと」が元ネタであることは明白なテロップが出てくるのでここでオープニングとラストが繋がるという仕掛け。そこから大川隆法の実際の夢判断音声が流れるエンディングに突入するわけだがこのへんの滑らかな展開はある意味同じような(※便乗の可能性もある)内容の『事故物件』よりも巧かったのではないかと思えるほどで、アリプロ制作だからか幸福フィクション映画らしい大仰な芝居や演出もなく、教団楽曲のゴリ押しもなく、挿入歌の入るタイミングにしても音量にしても丁寧に計算されているので、困ったことに幸福映画であることを度外視して面白く観れてしまう。

おそらく一般客への布教はかなり意図してるんだろうな。そのことは宏洋の後を引き継いだ大川沙也加が脚本と主題歌の歌唱()で参加している近年のニュースター/ジャンゴの幸福フィクション映画において謎に定番化していた隆法のカメオ出演が今回はなかったことからもわかる。アリプロ映画なら看板スタアの千眼美子ぐらい出しても良さそうなものだが、そうした幸福の顔をあえて出さない選択は単に予算やスケジュールの都合ではないだろう。隆法の夢判断音声やそれに続く長いエンドロール(余談ながらこのエンドロールもニュースター/ジャンゴ系の幸福フィクション映画に比べるとやや短めに編集されていたように思う)を除けば幸福フィクション映画らしさを感じ取るがことできたのは幸福フィクション映画が心霊現象を主題にしたおそらく最初の一本である大川沙也加の『心霊喫茶エクストラの秘密』に登場した退魔呪文「ライト・クロス」と「エル・カンターレ・ファイト」の台詞だが、これにしたって中盤にたった一回出てくるだけなのだから総じて幸福色は薄い。

しかし、だからこそ警戒心は働く。明らかに特定の宗教思想に基づいて制作されているのに映画として普通に面白い=イロモノではないということはプロパガンダとして優れているということでもある。観ていて意外に思ったのは女性の扱いで、幸福の科学は幸福実現党のマニフェストや幸福実現党支援目的のフィクション映画シリーズを観ればわかるように政治思想としては極右のたぐいであり、男尊女卑の姿勢は鮮明だが、『夢判断』では女幽霊が嫌がる女にむりやり迫る男を懲らしめるシーンがあったりとか、女を付け狙うヤクザが自分が幽霊と気付かないまま哀れにもこの世をさまよい続けるシーンがあったりとか、女の人にやさしいですよ感が強い(観客もなんとなく女性比率が高かった)

これはなにも『夢判断』に限ったことではなくアリプロ映画の全般的な傾向で、力と男性性を誇示するのがニュースター/ジャンゴの幸福映画なら優しさと女性性で包み込むのがアリプロの幸福映画なのである。夢判断というだけあって今回ユングが引き合いに出されるのでそのへんユング心理学の男女二元論の影響なのかもしれないが(主人公の女子生徒の前世が新撰組とかいうのもユング心理学のアニマ/アニムス概念に依拠しているのだろう)、その優しさとか女性性なるものは男性性を補完するものとしてあるわけで、一見して女性客をかなり意識しているように見えるこの映画でも男講師-女生徒というように主従関係では男性が常に女性の上に立っている、という点は見逃せないポイントに思う。身も蓋もなく言ってしまえばカムフラージュが非常に巧い映画なのである。

それほど怖いわけではないとしても幽霊描写もそれなりに本格的にやっていて、女の部屋に侵入して犯そうとするヤクザ幽霊(これが金縛りの原因なのだと隆法は説く)とか神社で撮った写真に写った怖い幽霊と見せかけて実は心霊写真で神社の客寄せをしたいだけの女幽霊とか、各幽霊エピソードごとにちょっとしたヒネリも用意されていて、でもって例の『インランド・エンパイア』的ラストになるのだから心霊オムニバス映画としてなかなか楽しめる映画になっているが、他方で「現実は夢」みたいな反世俗メッセージ(これは今までの幸福映画には見られなかった、ある意味かなり過激なメッセージである)も包含する、巧妙な宗教プロパガンダ映画であることは留意しておきたい。

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リンチもスピリチュアルなニューエイジ人間だし思想の根っこはわりと幸福と共通してたりするんだよな。あくまで根っこだけですが。

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