幸福の映画『心霊喫茶「エクストラ」の秘密-The Real Exorcist-』不信心感想文

《推定睡眠時間:10分》

不要不急の他県移動は控えてくれと偉い人から言われても映画館で新作がやっているのならおいそれと従うわけにはいかない。確かに若干の後ろめたさがないでもない。俺は過度にして懲罰的な自粛要請には基本的に反対であるしそれがいわゆる自粛警察の横行や感染者差別などに繋がったのだとすればその弊害は決して無視できるものではない、が、新型コロナウイルス蔓延防止のためには致し方ないという面もやはりあるし、単純な致死率だけ取ればそう恐ろしい病でもないように見えるとしても、COVID-19が未だ治療法が確立されておらず対症療法しか打つ手のない、インフルエンザなどと比べれば比較的長期の苦しい闘病が必要となる、危険な病であることは事実である。

映画館で映画など観ている場合だろうか? ましてや普段は行かない他県の映画館に2時間かけて電車を乗り継いでまで? 自問自答する。だが即答であった。映画館で新作映画がやっていればやはり観に行かなければならないのだ。これは趣味ではなくもはや義務である。いやむしろ宗教である。たとえそれが幸福の科学の布教映画でも、映画館でやっているのなら観に行かなければならない。エイガ・カンターレ信仰である。

さて大手シネコンをはじめとして感染拡大地域の一部映画館は営業自粛要請以前より新型コロナウイルス対策として客席を1席空けで販売していた。全国を対象にした緊急事態宣言と営業自粛要請を経てめでたく営業再開の運びとなった今ではどの映画館も前後左右1席空けの市松模様スタイルでの座席販売、中にはソーシャルディスタンスを厳守して3席空けという映画館もあるらしい。これは早々にチケットを取らないと満席で観れなく鳴っちゃうな、とくに幸福映画なんて信者が団体で来るからな、と朝一でネット予約画面を開くと1席も売れてない。拍子抜けではあったが観られそうだからとりあえずよかった。道中迷ったりして上映時間に間に合わなかったら損なのでとりあえず予約はせずに画面を閉じて電車に乗る。体調OK、マスク着用、アルコールスプレーが配置してある場所では必ず丁寧に手指消毒。映画館に迷惑をかけるわけにはいかない。

電車に揺られること約1時間30分、バスにもっと揺られること20分。車窓から見える田んぼとか山とか工場とか何もない風景とかを眺めてプチ旅行気分にひたりながら再びネット予約画面を開くとわお! 3分の1くらい席が売れている! これはいかんぞと時間的には間に合うか微妙ではあったがチケットを慌てて予約してしまう。時間にして2時間、交通費にして往復3000円もかけて観に行って札止めなんて言われようものならもう立ち直れない。その場で泣いてしまう。ネット予約とは便利なシステムである。

ようやく映画館についた。はたして何年ぶりだろうか…まぁせいぜい2ヶ月とかなのだが、体感的にはそれどころではない。精神と時の部屋にでも入っていた気分である。あの扉の先には幸福の科学のしょうもない新作の上映を目を輝かせて待つ信者たちが群れを成しているのだろう…そう思うとちょっとだけグッときてしまう。しょうもない映画を本気で観る人間はうつくしいものだ。愛だ。それが愛。幸福の科学の映画はつまらないしバカみたいだけど客席に愛を感じるから俺は好きだ。その光景が、帰ってきたのだ! だが感極まって『心霊喫茶「エクストラ」の秘密-The Real Exorcist-』の上映スクリーンに入った俺を待っていたのは観客が最初から最後まで俺一人だけの貸し切り上映であった。

おかしいだろうがああああああ!!!!! なんで俺一人だけなんだよ! 予約画面で3分の1ぐらい席埋まってたじゃねぇか! じゃあ何か!? あれは空売りならぬ空買いか!? 前売りチケット消費とかそういう!? ランキング押し上げて宣伝とかするための!? いやそこらへん知らないけれども! なんかあの劇場都合とかもあるのかもしれないし! しれないけれどもそれを差し引いたとしてもだね、観に来いよ信者! こっちは多少の罪悪感を覚えつつこんな糞みたいな映画には高すぎる金と時間を使ってまで観に行ってんだぞ! おかしいだろ! なんで非信者の俺が巡礼じみた真似しなきゃいけないんだよ! それはまぁ俺が勝手にやってるんだから俺が悪いが信者たるもの教団の映画は遠出してでもちゃんと観るべきだろ! 本当に信仰心があるのか君たちは!!!

まぁ公開2週目ですからね! 信者の方々ともなれば1週目にもう観ちゃってるのかもしれない! 映画館の方も他にかける映画があんまないから1日何度もこの映画かけてるし、俺が観た回とは別の回は信者で超満員という可能性も100%ないとは言い切れない! とはいえ! こんなんで本当にいいのかね! こんなものかよ幸福の科学! こんなものなんだろうな! それは正直に言えばある程度知っている! 知っているがこうもまざまざと見せつけられるとガッカリするのも事実である…それがどのような夢であれ(悪夢であれ)カルト宗教とは夢を売るものだと思っているからね…。

ひととおりガッカリを吐き出したから映画の感想に入ろう。うーん、ショッパイ映画でしたなぁ、今回も。ざっくりあらすじとしては幸福の科学の信者で霊能力者の家族が経営する喫茶店があって(あって)、そこでバイトとして働いてるのが類い希なる霊能力を持ったエクソシスト見習いの千眼美子。この店には「悩み事の相談乗ります」という怪しげな張り紙が貼ってあるので色んなお悩み人種がやってくる。もちろんその原因は全部霊とかなので千眼美子が綺麗に解決、そうこうしている内に千眼の活躍を快く思わぬメフィレスとかなんとかいう悪魔は動き出すのであった。細かいツッコミとかは受け付けませんよそういう映画ですからね。そういう映画なんです!

で、今回ちょっとだけ新機軸だったのはエクソシストがどうとか言ってるぐらいだから心霊ホラー要素が濃い。幸福映画のホラー路線といえば『君のまなざし』があるのだが、『君まな』はどちらかといえば伝奇アクションに分類されるであろうから、本格的な心霊ホラー路線はこれが初めてじゃないだろうか。幽霊の合成はいつもの幸福映画同様にきわめてインスタントなものであるが、インスタントであるがゆえに逆に怖さがあったりもする。当たり前のように街中に雑合成幽霊が立ってる光景は教団世界観的に単なる日常風景。その「当たり前」が、技術的には雲泥の差どころではないのだが、天然の黒沢清映画といった趣でおそろしいのだ(前も幸福映画の感想でそう言った気がする)

までもおそろしいのは最初だけで後はねなんか、しょうもない。ひじょうにしょうもないかったとおもいますよ。これはあれかなぁ、一応若年層に訴求しようとしてるのかなぁ。千眼さんエクソシストなので色んな技使うんですねぇ。まずは「タイム・バック・リーディング」。読みますよ、相談者の過去を読みます。映像の逆再生とかもできる。すごいな。ちなみに千眼さんがタイム・バック・リーディングを使うときには字幕版では「シュゥゥン…ボォォン」みたいな効果音まで字幕に出るのだがそれは字幕いらないだろ。

だが本番はここからだ。どういう効果があるのかはわからないがとりあえず霊を相手にする時に使う「ライト・クロス」(十字を切ると光が出る)、正式名称を忘れてしまったが物質を貫き悪魔にだけ突き刺さる雷魔法「雷光直撃」、脚本に書き忘れたのかとくに技名などはないようだが相撲のつっぱりみたいな感じでやる霊探知、そして必殺「エール・カンターレ・ファイッ!」。このへんは大川咲也加が唄う挿入歌の歌詞にもなってるので悪魔と千眼さんの決戦シーンではファイファイファイッと咲也加がシャウトしてます。水木一郎じゃあるまいし。

脚本は咲也加だが咲也加の書く脚本は以前の幸福映画を支えていた大川宏洋と違って我がないので父・隆法の趣味が色濃く出たんだろう、『幻魔大戦』とか『帝都物語』とか、わざわざ「この喫茶店の屋号は『エクソシスト』って映画が元ネタなんだよ」みたいな台詞も出てくる『エクソシスト』とか、70年代~80年代オカルトの粗雑で稚拙なパッチワーク。かまいたち現象に襲われた女児を千眼さんがタイム・バック・リーディングすると実はかまいたちではなくスカイフィッシュが衝突してたとかいう謎の一捻りなんかにはゼロ年代以降のオカルトネタも取り入れようとする意気が感じられたが、また古いなスカイフィッシュって。コーヒーとアイドル女優とお悩み相談&超常現象の組み合わせは『コーヒーが冷めないうちに』の露骨なパクリなので幸福お得意の便乗商売だが、それも2年前の映画なのだから世相に迎合しようとしてまったく迎合できていないあたり、教団と隆法の老いを感じる。

咲也加は次期総裁候補だから父の教えに忠実である。トイレの花子さん的な幽霊が出てくるシーンでは全然さりげなくない形で「今の学校教育では人の心に寄り添えません」と幸福大学の認可必要性をプロパガンダ、悪魔に憑かれた悪い女(幸福映画にいつも出てくる人)を鎮めるために隆法の説法テープを流して聞かせる、喫茶店の本棚に並ぶのは隆法の著作と月刊ムー。あまりにこう、なんというか、身も蓋もない。

これらの幸福プロパガンダを優等生的に随所に挟みつつ千眼さんの霊退治エピソードを数珠つなぎにしていく展開はなんとも平板で味気ない。プロパガンダ映画全般とすべてのセガール映画にも言えることだが結局、正しいものは100%正しいし、その正しいものは悪いものに必ず勝つことになっているので、ハラハラとかドキドキとかそんなものは微塵もない。もとより幸福映画にハラハラもドキドキも求めていないが、とはいえ映像のケレン味でカバーできてる幸福映画もあるわけで、その点これは千眼アイドル映画の前作『僕の彼女は魔法使い』同様に悪魔との最終決戦がマンションの寝室とかいう劇的なショボさ。『エクソシスト』オマージュ映画としてはある意味正しいが、そんなの盛り上がるわけがないので、ちゃんとおどろおどろしいセットを組んで野外ロケの殺陣もやった『君のまなざし』を見習ってほしいと思う(ちなみに『君まな』監督の赤羽博は今回アドバイザーとして入っている)

そんなわけで基本的には面白い映画ではないのだが、意図せざるところというか、意図したところとは違う面白さはそれなりにあった。まず、ロケ地が苦しい。ちゃんとロケしてるように見えて実は教団施設でだいたい済ませているのは幸福映画あるあるだが、今回夜の高校のシークエンスがあり、どうもこれが撮影許可が取れなかったらしく廊下の実景+女子トイレ内だけでのシーンで誤魔化している。千眼さんのバイト先の喫茶店とは別にカフェのシーンがある。これをどこで撮影しているかというと、以前幸福実現党の党本部だった銀座の「ハッピー・サイエンス・ブックカフェ」という…言うまでもないと思いますが幸福の科学の経営するカフェであった。今回コーヒー推しなのはこのブックカフェの宣伝も兼ねていたんだろうと思うが、あまりに貧乏である(喫茶店の外観も書き割り風のセット処理であった)

あと悪役の設定ね。今回の悪役というか悪魔に憑かれる(幸福の科学基準で)堕落した女は女優志望かなんかでオーディションに精を出してる人の設定なんですが、宏洋の話によると咲也加は昔からアイドルに憧れていて、あるとき家族の前でモー娘のオーディションに出たいと言って全員から反対されたことがあるらしい。それを踏まえるとオーディションに落ちまくって悪魔に唆される女の設定はなかなか、深い。堕落した女の「私はブサイクだからオーディションに落ちるのよ!」みたいな馬鹿げた台詞も魂の叫び的に響いてしまう。顔つきもなんとなく咲也加に似ているのでなんとなく痛々しいが、ま、現在の咲也加は次期総裁候補兼教団アイドルとして今回も主題歌を凡庸な歌声で熱唱してカメオ出演まで果たしているのだから、私にもこんな間違った過去がありましたが幸福の教えに従って良かったです的な信仰告白でしかないのかもしれませんな。

カメオ出演といえば! ここは誰もいない映画館で一人大笑いしてしまったが今回なんと大川隆法がマーベル映画のスタン・リーみたいな感じで降臨してコーヒーについて語ってました。まさか狙っているのかスタン・リー枠! 構想しているのかハッピー・サイエンス・シネマティック・ユニバース! 千眼さんが各種のバカ技を使ってたのもそれが理由だとすれば腑に落ちるところだが、信者の人も観に来ないぐらいだから誰が幸福になるのかまったくわからない話だ。個人的にはまぁ、興味がないと言ったら嘘になりますが。ハッピー・サイエンス・シネマティック・ユニバース…。

※ユニバース展開説の根拠として千眼美子の唄う挿入歌の歌詞に「私はワンダーウーマン~でも可愛いからワンダーガールかな~」とかいうふざけた一節があったことを付記しておく。

【ママー!これ買ってー!】


ム―2004年8月号別冊№1 スカイフィッシュ襲撃事件を追う

あなたのカマイタチ被害、実はスカイフィッシュの仕業かもしれませんよ! (※もしそんなことを急に言い出す人がいたら近くの人は変なところに相談したりしないでまずはその人に寄り添って悩みとか聞きつつ軽い調子で精神科の受診を勧めてみよう)

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