イタホラって本当にいいもんですね映画『ザ・ビジター』感想文

《推定睡眠時間:10分》

ダダダー! ダーッ! ダーッ! ダァァァァァ!!! 無駄に大仰なメインテーマが何度もかかるがかかる度に大したことは起こらないというこのイタリア印! 音楽を手掛けたのはフランコ・ミカリッツィというわけでイタリア版パチモノ『エクソシスト』こと『デアボリカ』の人! 『デアボリカ』のサントラはイタホラの名盤すからね~! いや~まさか企画上映の一本とはいえ2020年の劇場公開映画でミカリッツィの劇伴を聞けるとは思わなかったよね~。制作年はガッツリ遡って1979年とかですが!

ミカリッツィ繋がりで『デアボリカ』に対抗したかどうかはわからないが(どちらもプロデューサーはオヴィディオ・G・アソニティス)こちらはパチモノ『オーメン』の趣。対抗するにしてもパチモノでパチモノで対抗するあたり凄まじくイタリアな適当さであるが『未知との遭遇』も無節操にパクっているので清々しさすら感じてしまう。SF要素が入ったので予算に見合わずストーリーは壮大である。遙か昔、銀河系の彼方で善の神と悪の神の戦いがあり、その子孫は今も地球で密かな戦いを続けている…もっともこれはニューエイジ・カルトの怪しい教祖が全員坊主頭の信者たちに向けて語っているだけなので映像として出てくることはない。時流に乗ってニューエイジを適当に取り入れているところも含めて本当にいい加減な映画である。

で善神の子孫を自称する教団にはチェネラーのオッサンがいて「訪問者」のタイトルはこの人を指す。異界からのメッセージを幻視するオッサンが今回視たのはアトランタとかに住むツインテール少女。こいつが悪神の子孫陣営最新の超能力デビルキッズ(※子孫たちは超能力を持っている)にして次期悪の総帥候補に違いないってわけでどうにかせにゃいかんくなったチェネラーのオッサンは渡米する。『デアボリカ』のリチャード・ジョンソンのポジションよね要するに。

やってることも向こうとあんま変わらず意味深な感じで少女に接近してはふらっと離れていくみたいなのを延々繰り返すばかりで一向に対決姿勢に入らないのでわざわざ渡米した意味がよくわからないがそんなことを言ったら映画にならない。いや映画にはなるかもしれないが商売にはならない。この時期のイタリアン・ホラー業界にはとりあえずアメリカで撮れば国内にも国外にも売れるので意味も無くアメリカでロケをするかロケができなくても設定だけ強引にアメリカにするとかいう奇習が蔓延っていたというからこれもその一本なんだろう。イタホラの帝王ルチオ・フルチも『サンゲリア』以降は舞台がアメリカばかりであった。タイトルからして露骨な『マンハッタン・ベイビー』とか。

観光的なものというか俗っぽい景色に興味のないフルチが撮るアメリカものなんかと比べると『ザ・ビジター』はかなりちゃんとしたアメリカものである。バスケの試合の場面とかスタジアムにぎっちり客入れて撮ってるのでストーリーも映像も音楽も出来ることなら全部流用で済まそうとする鬼緊縮財政が基本のイタホラのくせにどうしてそんなシーンが撮れたのかとある意味めちゃくちゃ普通のことなのに新鮮な驚きを感じてしまった。

まぁ冒頭にアトランタ市長への謝辞テロップ(絶対思ってもない)が出るくらいなので実際の試合をセカンドユニットが撮って、それとは別に俳優を入れたシーンを後からだか先なのだか知らないが撮って編集でくっつけたのでしょうが、これがなかなかスムーズな編集で違和感がなく…って当たり前のことなのだがイタホラに当たり前は通用しないのでこんなことでもイタホラのくせに頑張ってるなぁと感心する。

とにかく、アメリカのバスケの試合を迫力ある感じで撮っているのだからすごい。しかもデビルキッズの邪眼を食らった選手がダンクシュートを決めようとした瞬間にそのボールが爆発するとかいう謎のホラー演出(?)まで入るのだから尚すごい。その直後のベッドシーンでさっきの爆発すごかったわねと恋人に言われたデビルキッズの父親ランス・ヘンリクセンが「どっちの爆発のことだい?」とか糞クオリティの下ネタを飛ばして爆発事件の話はおしまいになってしまうがいや終わらないだろあの選手どうなったのあいつは! っていうかなんでボール爆発したの!? そんなことをいちいち気にしていたら魂が保たないイタホラである。

アイススケート場でのデビルキッズご乱心も面白かったな。これもすごいんだよプロの代役を起用してそこそこ危険な氷上スタント、氷上ダンスをやっている。体操のシーンでもプロの代役が鉄棒技を披露しているからホンモノ志向だ。それからカースタントも迫力あった。暴走車がどっかに突っ込んで横転爆発っていう流れ自体はよくあるものですがこの映画は突っ込む先が屋外野球場かどっかの柵で柵ざっくりぶっ壊すんですよ、なんか道路のバイロン倒して路肩で横転とかじゃなくて。

ジョン・ヒューストン、シェリー・ウィンタース、サム・ペキンパー(!)とかいう経緯不明の謎豪華キャストもあるし、だから結構、イタホラなのに金をかけるところにはちゃんとかけて撮ってるっぽく、それがバスケとか体操とかアイススケートとかっていうアメリカ風俗の部分なんですが、一方でホラー描写とかSFシーンになると同じ映画とは思えないほど急に予算がゼロになるので映画のプライマリーバランスは完全に崩壊している。

もうね、最高。デタラメでサイコー。デビルキッズを殺るためにチェネラーが呼んだ宇宙船から出てきた正義の神鳥群団の正体は普通に鳩だったので襲撃だー的な感じでセットに放された後は床に降りてのんびり歩いたりしている(その傍らで鳥群団に襲われて瀕死という雑なト書きを熱演するデビルキッズ)。なんとなくでも生きている風に見せる気もないので全然動かない作り物の鳥の首領はランス・ヘンリクセンに近づくと口から謎のぶっとい針がスチャッ! と出てそのままランス・ヘンリクセン刺し殺します。シュール。あとチェネラーの策略で『燃えよドラゴン』の鏡の間に入れられたデビルキッズが片っ端から鏡を割っていくだけでそれ以上何も起きない。なんなんだ!

でも子供を殺すわけにはいかないからね、と戦いを終えて教祖の下へと帰ったチェネラーが笑みを浮かべると視線の先にはツインテールを綺麗に刈って見事カルト教団の仲間入りを果たしたデビルキッズの姿が。デビルキッズの悪の魂は壮絶な戦いの末に滅びこれからはゴッドキッズとしての道を歩むであろう…というところでミカリッツィの大仰にしてファンキーなメインテーマが流れて大団円感を出すが実際に起きた出来事を整理すればカルトの人が悪そうな顔した少女に痛めつけられる継母の受難をガン無視して父親を殺して(あと悪の秘密結社の重役もみんな鳩が食い殺した)少女を攫ってきただけなので大団円になってない。

まぁでもどう見てもカルトですがあの教団はカルトじゃなくて本当に善神の血を受け継ぐ者の設定らしいので一応ハッピーエンドではあるのだろうっていうかそこまで深く考えて撮ってないと思うので考えるだけ無駄だろう。登場人物も物事を深く考えない人ばかりなのでデビルキッズのイタズラで下半身不随になったデビルキッズの継母とかその苛烈な運命に一秒たりとも悩まない。ちなみにそのイタズラというのは鳥のオモチャを入れたはずのプレゼント箱になぜか拳銃が入っていてデビルキッズがママ見てーって拳銃をテーブルに放り投げたら暴発して継母の脊髄に命中! なにをどうしたいのかサッパリわからない回りくどすぎるイタズラであった。

チェネラーの妨害に腹を立てたデビルキッズはチェネラーをぶっ殺すために超能力でチェネラーを補足するとチェネラーの隠れ家にダッシュとはいえあくまで徒歩で向かう! う~ん、適当! でも冒頭の幻視場面なんか特撮自体は単純でもその単純さにアシッドな味わいがあったし独特の美意識があってかなり惹かれる。ビルの屋上にパーテーション並べただけのチャネリング装置もちょっとアートな感じである。そういうとこなんすよね結局。全体として見れば駄菓子屋のゴミ箱みたいな映画なんですけど場面場面では斬新なアイディアがあったり、美しい映像があったり、迫力あるアクションがあったり、アガる劇伴があったりするから最後まで結構ノリノリで面白く観ていられる。

もうね、映画こういうので良いよ。こういう面白くて適当なので良いです別に。なんならこういう映画に出会うために映画を観ていると言っても過言ではないね。ごめんなさい完全に過言でした。ダダダー! ダーッ! ダーッ! ダァァァァァ!!! ファファ~ン…(←エンドロールの再現)

【ママー!これ買ってー!】


デアボリカ(サントラ)

かっこいいんだよ『デアボリカ』のサントラ。映画の方も主題歌「悪魔と取引き」の流れるタイトルバックなんか実に洒落てていーんです。

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