【ネッフリ】『ミッドナイト・ゴスペル』ながら見感想文

《推定ながら見時間:ニルヴァーナ分》

いやはやこれは参ったね。『アドベンチャー・タイム』の制作陣による…というアオリはそっち観てない俺にはなんの引っかかりにもならないのだが『アドベンチャー・タイム』もこんなんなんでしょうか。うへぇ。だとしたらすごいな。大人から子供までみんなこんなのわくわくして観ているのアメリカ。どうかしているな。あまりにも、あまりにも、あまりにも、アメリカ的な諧謔、スピリチュアリズム。

どんなアニメかといえばアシッド・アニメです。も~うアシッド。最初から最後まで全トリップ。バッド多め。虫は出るわ内蔵は出るわ肉体は変容するわ精神は崩壊するわでもうね、なにがなんだかわかりませんよ。だいたい巨大漫湖に顔突っ込んで異世界旅行っていうコンセプトの時点で『ホーリーマウンテン』。まったく何を馬鹿なことをやっているんだ。最終話まで観るとなんで漫湖が必要だったのかはわかるがね(だがそもそも漫湖を必要としない人間など存在するのだろうか!)

で主人公はポッドキャスターなんです。仮想農場に居を構えてシュミレーターが作り出したゾンビの星とかアイスの星とか無数のアナザーワールドを訪れては住民にインタビューして銀河ネット配信の日々。そのアナザーワールドに入るためのデバイスが巨大漫湖。漫湖の中には宇宙がある! そしてその宇宙は血液と肉片で形作られ死と暴力と再生のイメージでなみなみと満たされているのだ。漫湖の中にはカオスもある。

まぁそう言われても観てない人は全然どんなアニメかイメージ掴めないでしょうが、俺は情景を伝えるレトリックが苦手なので主人公くんが訪れる奇々怪々な世界がこんなであんなでとか書くのはやめて、ロジックの方から攻めてみると、要は、ニューエイジ。『ミッドナイト・ゴスペル』の内容を人に説明するならこの一言だけでよい。もう一言付け足すなら西海岸カルチャー。ニューエイジと! 西海岸! あ、それはやばそうだなと思った人は最後までその印象が変わることは絶対ない。

ざっくりこのような二項対立で作品世界を記述することができよう。体制ドラッグの意識矯正/反体制ドラッグの意識解放。一神教の父祖信仰/多神教の地母神信仰。西洋の直線的時間/東洋の円環的時間。外宇宙の探検/内宇宙の探究。秩序と法/無秩序と信仰。男性原理/女性原理。物質主義/精神主義。だいたいそんな感じ。この二項対立の正よりも反の方に惹かれる人ならミッゴスは魂の男根として心の漫湖に深く突き刺さるに違いない。まさに、エクスタシー脱自

ひじょうに個人的なことを言えば今年の頭ぐらいから日本を最悪の意味で代表するニューエイジ宗教たるオウム真理教ブームが脳内に去来していたのでお前もかと思ってしまう。最後までどっぷりニューエイジに浸かってたからなーこれはーこのアニメはー。純粋なというかナイーブなというか。70年代から80年代の…ギリ引き延ばしてニューエイジSFとしての『マトリックス』が爆裂ヒットした99年までならまだわかるというか、この世界観、この思想、この願望、しっくりくるところであるが2020年の新作アニメでこうまでストレートに、無邪気と言っていいほどにニューエイジを推されるといささか面食らう。それとも逆に、こういうのが今のトレンドなんだろうか? エモ的な感じで(それも古くないか)

ともかく本気だ。ニューエイジに本気すぎる。チャクラが開くのは当たり前、お魚キャプテンは神秘学談義、輪廻転生諸行無常、生者必滅会者定離、この世はデジタルな虚構世界、現象界の先に見えたぞアストラル世界、インターネットとインドラネット(因陀羅網)、瞑想とアンガーマネジメント、仏に入ってカバラと遊ぶ、禅を嗜みグノーシスを喝破、ミクロな崩壊はマクロな崩壊、自己変革は宇宙の変革、ブラフマンは絶対真理、ドラッグをやれ! 畑を耕せ! カルマを絶て! 肉体を捨てよ! 死を乗り越えるのだ! 終末は必ず訪れるが恐れることはない。カリ・ユガだ。我々は終わりの時に立っている。そして終わりの時は始まりの時なのだ。解脱…解脱…解脱…。

そこまで振り切れれば潔いとは思うが、思想もしくはコンセプトの先走りっぷりが尋常ではないので主人公のポッドキャスター設定もあり各エピソード基本的にテーマ毎のニューエイジ談義(超越瞑想とかニューエイジ仏教とか神秘学とか)を延々聞かされるだけというのがつらい。サイケでシュールでグロテスクな絵はほとんどイメージ映像のようなもの、台詞以外のシナリオなどあってないが如しだ。地下鉄サリン後ほどなくして告白本を出版したオウムの元信者は教学の時間はつまらなかったと言っているしシュタイナーの神智学本を読んだ時には俺もやっぱりつまらなかったので宗教の論理なんか別に面白いものではない。ドラッグ・ジャンルなんかそんなもんだろうと言われたら反論できないし、流し見する分にはちょうどいい温度なのだが。

どこまで話が進みました? はい、えー、悪口を言ったところまでです。もうそんなところまで! やはりこの世界の時間など見せかけだな。そんな戯言は、いらない。
でも面白かったですよオフビートなユーモアと変なキャラクターいっぱい出てきて。海賊猫とかお魚キャプテンとか掃除機代わりのブラックホール犬とか? あとは? まぁなんか色々出てくる。

お気に入り回はお魚キャプテン大冒険のエピソード3、テリー・ギリアム映画風のエピソード6、『2001年宇宙の旅』と『惑星ソラリス』のニューエイジ的シンクレティズムといったようなラストエピソード8、それからこの世の牢獄をまさに牢獄で表現した身も蓋もないエピソード5…これは面白かったな。これはというかいや全エピソードつらくはあってもそれなりに面白かったんですけどわけてもエピソード5は刺さるエピソードなんですなぁこれが。

牢獄に囚われたアバターが脱獄を試みるがうまくいかない。しかし彼か彼女は何度も同じ脱獄を繰り返してしまう。その度に殺し殺され憎み憎まれ叫び叫ばれ…不毛な脱獄の果てに彼か彼女が見出した真の脱獄とは! 答え、なんとなく分かると思うので問いになってませんが。

【ママー!これ買ってー!】


ヴァリス〔新訳版〕

ニューエイジ廃人の戯言が延々綴られてるだけなのにとっても面白いのでディックは天才。

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