人体のふしぎ映画『オールド』感想文

《推定睡眠時間:15分》

※本文には核心部分のネタバレありませんがコメント欄は比較的ネタバレフリーになっておりますのでご注意下さい!

これが新コロ禍でとりあえず閉まってた米国ほか各国映画館の営業再開後目玉作品となることを見越して(あるいは祈って)本編前には本作監督シャマランの「いや~やっぱり映画は映画館で観てこそですよね~。私は『シックス・センス』からこのかたオリジナル脚本のスリラー映画ばかり作ってきましたけれども(略)」みたいな前口上が入ってなにやらお得な感じがするのだが本編に入るとお約束のシャマラン本人カメオ出演が今回は俺社比たぶん3倍の大奮発! 大スクリーンいっぱいに広がるシャマランの顔面に悶絶! このふざけているのか真面目にやっているのかわからない絶妙なラインを突いてくるセンス! シャマラン映画の醍醐味を感じたよな、顔で。

お話もバカっぽいようなシリアスっぽいようなどっちなんやという感じで『映画ドラえもん のび太とブリキの迷宮』じゃああるまいしネットで見かけた怪しげ企画に応募したら南国の豪華リゾート二泊三日ぐらいの旅が当たっちゃいましたというそれは100%なんらかの罠だから確実に逃げた方がいいだろという数人の旅行客が崖に囲まれた秘密のビーチっぽいところに行ってみたらそこにはやっぱり先客の死体! 逃げようとしてもなぜか気を失って出られない! しかも理由はわからんが謎に時間の経過が早いのでさっきまで6歳児だった可愛い男の子がいつのまにか『ヘレディタリー/継承』で妹の首を誤って切断してしまったアレックス・ウルフくんに! 10分ぐらいで第二次性徴を突破したウルフくんは新しいボディに戸惑いながら早速勃起してしまう! シュールな状況に混乱した旅行客の一人は叫ぶ! 「いま私たちが解決すべき問題はジャック・ニコルソンとマーロン・ブランドが共演した映画のタイトルを思い出すことだろ!」突然なに!? っていうかそんな映画あるの!?

なんだこりゃですよ。この旅行客たちはビーチから出ようとする時に意識を失いますが俺はこの人らがビーチに向かってる途中で眠りに入りみんなが死体発見でパニックになってるところで目覚めたのでなんだこりゃ5割増。睡眠がその作品を観るにあたって効果的に作用する映画はイイ映画説が俺の中だけにあるがこれはその好例だったよな。だってまぁたアメリカ映画にありがちな離婚直前夫婦がなんかグダグダやってんな~って思いながら観てたのにハッと目を覚ましたらこれだもんね。つまんねぇ家族ドラマがいきなり生死をかけたサバイバルに転調するのはシャマランの得意とするびっくらかし手法。それで客になんだこりゃ!? と思わせたら後はもうシャマランの手の平です。なんじゃこりゃな映画だけど計算されたなんじゃこりゃなんだよね、天然じゃなくて。

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そこからの展開はなかなかの怒濤っぷりで5分に1回は誰かが壊れる人間崩壊大放出、超速時間に誰一人として追いつけずあっちもこっちも身体も心も壊れていってしまいます。こんな状況ならそれも仕方がないよね、というわけで登場人物の行動の不可解さとか展開の強引さもまぁそんなものかとついつい受け入れてしまう。アホみたいなストーリーではあるが人間の一生がたった一日で終わっちゃう無常観はたとえば「邯鄲の枕」のような故事や仏教説話を思わせて、飄々とした空気をまといつつも人生の儚さにちょっとホロリとさせられたりもするので…転がされてるな~シャマランの手の平で!

その人間崩壊祭りはある意味お勉強の時間である。むかし永井豪キャラがたくさん出てきてプレイヤーはマップ内で見つけたイジメっ子を殴って金をむしり盗ったりパシリに使ったりできるという酷いシステムを内蔵した横スクロール版のGTAみたいなスーファミゲームがありましたがその一面か二面のボスは動く人体模型で、こいつは各臓器の名前を叫びながら次々と臓器を落として攻撃してくるが、それは教育熱心な人体模型のスパルタ保健体育授業であった…というのを全然関係ないのに思い出してしまったわけですがそういう意味で(?)『オールド』も教育映画です。

人間の身体って老化するとこんな風になるんだな、子供って大人の身体になるとこんなことができるんだな、病気って放置しておくとこんな大変なことになってしまうんだな、極限状態に置かれると人間の精神って結構簡単に壊れるんだな…という人体のふしぎが5分に1回の人間崩壊でわかりやすくたのしく学べます。シャマランといえば眠れない子供の読み聞かせ物語としてシナリオを書く人として知られているがなるほど確かにこれは子供の読み聞かせに最適、ワクワクドキドキしながらそうと意識せずにお勉強ができてしまうのだから観る教育絵本として完成度は高い(※人はたくさん死にます)

もっとも! そんなお行儀のいいところに収まることを良しとしないのが近年の意地悪シャマランであり、たのしいこわいおもしろいそしてちょっと感動的な観る教育絵本であることは確かだが、そこにこっそり仕込まれた皮肉なユーモアはこれが結果的にであれ新コロ禍の劇場支援映画であることを思えば明確に毒です。毒あり映画だなんて本人が一番よく知っているはずなのに映画が始まる前に出てきて「いや~やっぱり映画は映画館で観てこそですよね~」ってなんて白々しい! 人を食った映画だよまったく。もちろん最高に良い意味で。

※あと生き物みたいな波の映像が気持ち悪くてかなり良かった。パンを多用して舞台劇的に登場人物の演技を撮っていくのも緊張感があって面白い試み。主人公らしい主人公がいない映画だからそうやって平等にカメラに収めていくと誰が次に壊れるのかわからなくてずっと気が抜けないんだよな。何か変化があったらしい人物の背後にカメラを置いてなかなか正面から見せてくれない焦らしテクなんかも含めてシャマランの熟練の技を感じるところです。成長しすぎて画面の外にはみ出してしまうクレジットもセンスあり。

※※あと、これは、かなりネタバレ的にスレスレなことなんですけど、最後にどうしても書いておきたいのは、あの手紙、グッときました。なんかシャマランからすべての創作者へのいささかひねくれたささやかなエールって感じでね。

【ママー!これ買ってー!】

デビル (字幕版)[Amazonビデオ]

シャマランが原案と製作を担当した密室サスペンス。アイディア一発ものだが結構おもしろかった。

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booby
booby
2021年9月1日 11:32 AM

観てきました。こちらのコンディションが良くなかったせいもあって、導入部の段取り臭いのが辛かったですが、いつの間にか入り込めていたので、力のある映画だったと思います。所でいつも時事ネタに対し注目するトコそこ⁉と驚かせてくれるシャマランですが、今回もコロナ禍のニュースを見ていて、「時間を早送り出来てワクチンの治験があっという間に終わったら、すぐに認可されてみんな摂取できる様になるのに!」って思ったのが本作の発想の始まりだったのではないか、と邪推半分本気半分で妄想してます。