レジェンド映画『アンクル・ドリュー』の感想

《推定睡眠時間:0分》

とりあえず俺トマトメーター100%だったと先に書いておくが、えらいドメスティックなというかアメリカンな映画で、後から読んで知ったが映画館の入場時に貰ったバスケ雑誌のフリーペーパー版によるとこのアンクル・ドリューというキャラクター、元々ペプシのウェブCMに出てくるキャラだったらしい。

その内容。アンクル・ドリューというジジィがあちこちのストリートバスケのコートに殴り込みをかける。
ピント外れのヨボヨボ動作に最初は呆れたり笑ったりしているヤングなストリートバスケッター(※そんな風には呼ばないと思うが呼称を知らない)だったが、そのうちアンクル・ドリュー、本気出す。

もうとにかくありえない華麗なるボール捌きでさっきまで笑っていたストリートバスケッターは誰一人太刀打ちできない。まさかの展開にギャラリーは大盛り上がり。
一体このジジィは何者なんだ! っていうところでタネ明かし、アンクル・ドリューの正体は特殊メイクでジジィ変化を遂げたNBAスターのカイリー・アービングなのでした。すげー。

こういうCMの映画化が『アンクル・ドリュー』だそうですがまずそのCMがたぶん日本ではそんな話題になってないのでわりと前提知識ない。
そのへんは別にCMとは独立した一個の映画として成立してるんで知らなくても問題なかったがー、どう一個の映画として成立しているかというとブラック・ムービーとして出来上がっていた。

例を挙げれば劇中「おい『ゲット・アウト』じゃねぇんだぞ!」みたいな台詞があったのですが、これは映画版の主人公リルレル・ハウリーが『ゲット・アウト』に出ていたあの面白黒人の人だから的なブラック内輪ネタなんであった。

リルレル・ハウリーとアンクル・ドリューことカイリー・アービングが車で移動する場面ではアービングがアイズレー・ブラザーズの”Between The Sheets”をテープで流す。
するとハウリーが「これ知ってるぜ! ノトーリアス・B.I.G.だろ!」とか言う。ノトーリアス・B.I.G.の”Big Poppa”は”Between The Sheets”をネタにした曲なので、というブラック・ミュージック的ジェネレーション・ギャップのジョーク。

以上、さも知っていたかのように書いているが全部全力でグーグルに頼ったネタ解説。
おれバスケわからない(バスケどころかスポーツ全般見ない)、ブラック・ミュージックわからない、『ゲット・アウト』は見ていたがブラック・ムービーも特段意識的に見ているわけではない…要するにかなりハイコンテクストな映画なので矢継ぎ早に出てくるバスケネタやアメリカネタやブラックネタの数々に開始五分ぐらいでもう追いつけなくなってしまうんであった。

その他、床屋の場面が出てくるのはたぶん本国で21世紀のブラック・ムービー・クラシックになってるらしい『バーバーショップ』とかの絡みだと思うがそういうネタが全然もう全然わからんわけですが、でもその文化的障壁、易々と超えてきたな『アンクル・ドリュー』。

CM派生物だからストーリーなんて簡単なもんで、そのむかしはマイケル・ジョーダンに憧れてプロバスケ選手を目指していたが今は弱小ストリートバスケチームのコーチとして金銭的にも精神的に貧乏な日々を送っているダックス(リルレル・ハウリー)がアンクル・ドリューに遭遇、色々あってチームメンバーが根こそぎトランプ大学()出身のライバル白人コーチに奪われてしまったんでこりゃアンクル・ドリューとかつての仲間たちの出番だ! みたいな。

チーム・ドリューは女絡みのゴタゴタがあって解散したというベタな設定。その老いらくの再集結というわりには結構あっさり集まってしまったりするのでシナリオ的にはそんな盛り上がらない気がするがそれでたぶんいいのだ。

俺は全然知りませんがこの仲間たちだってシャキール・オニールとかクリス・ウェバーとかレジー・ミラーとかいうバスケレジェンドらしいので、カイリー・アービングがこの人らに会いに行って抱き合って(イイ顔するんだよみんな)一緒にプレーするっていうそれだけで知らないなりに、なんかこみ上げてくるものがあった。

細かいネタはスーパーアメリカンローカルだったが内容は普遍的なもの。ダックスが孤児で貧乏でチビで不細工っていうのも誰でもとは言いませんがわりと人種とか国籍とか関係なく多くの人が乗れる感じの負け犬奮起なキャラ設定でバランスの取り方がうまいなぁとか思ったりもするがしかしそんなものは二の次でやはりレジェンドたちのスーパープレーだ、それからスーパーダンスだ。

結局それがあるからどんな些細なシーンでも面白いし、得も言われぬ感動が宿ったりする。
あれはたぶんリアルに地元のチームとかだと思うのですが、小学生ぐらいの女子バスケチームとドリューたちが練習試合をする場面があって、たいへん他愛のない場面だったが危うく泣くところだった。

クラブでのドリューたち(これは部分部分ダブルかもしれない)と名も無きクラブキッズ連中のダンスバトルも良かったなぁ。
これも危うく…もうなんかダメなんですよ、身体言語で享楽的なコミュニケーションを取るっていうシチュエーションが、それができる人が。素直にすげぇなって圧倒されちゃうから。
出演者自身の、その人に固有の至芸を観る映画というのは良い。特に身体性に根ざしたものは。

エンドロールのオマケ映像にはNGシーン集に加えて本編では未使用だったりカットが割られたりしたスーパープレー集なんかが入ってる。
その中に試合風景のマスターショットがあり、本編では見切れていたのか気付かなかったが、シュートが決まったところでコートに入ってきてブレイクダンスをやりだす奴がいた。

この祝祭感、最高じゃないすかね。あとアフロの聖人画とかジェームズ・ブラウンのコンサートみたいな黒人教会の洗礼式とか白杖老人に対する「不正受給か!?」の二重ブラックジョークとか普通に笑えたのでそのあたりも好感度高かった。
っていうかこの映画には好感しかないよ俺は。トランプ大()出身のライバル白人も憎めないイイ奴だったしな。

【ママー!これ買ってー!】


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それにしてもリルレル・ハウリーはイイ顔をしている。

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