精神分析的女子高生映画『ういらぶ。』感想(それなりにネタバレある)

《推定睡眠時間:0分》

桜井日奈子の喘ぎ声が黒画面から漏れてくるオープニングに一体これは何事かと思ったがすぐに映像が追いついてタネ明かし、隙あらばベランダ伝いに部屋に不法侵入してくるご近所さんで幼馴染みの平野紫耀に今日も登校前、桜井日奈子は服を着せてあげているのですが上手くワイシャツのボタンを掛けることができなくて過呼吸気味になってしまっていたのでした。

なぁんだ。なんだじゃねぇよ余計何事だよ。自室に戻るとベッドの上で優羽ちゃん(桜井日奈子)好き好き好き過ぎるぅと叫びながら罠にかかった獣のようにあるいは悪魔に憑かれたリンダ・ブレアのようにのたうち回る平野紫耀であったが桜井日奈子を前にするとんなこともできねぇのかよ、ゴミが! 悪魔のように豹変。

登校時には必ず桜井日奈子にカバンを持たせて自分の後ろを歩かせる平野紫耀。遅ぇんだよ、ゴミが!
こんな毎日を送っている桜井日奈子なのですっかり自信と自我を喪失し他人と話すことができなくなり人混みに入ると幻聴が聞こえる。今…今誰かが私をゴミって言った…(言ってないよ、と落ち着かせる幼馴染みの玉城ティナ)

行為と思考が著しく乖離した平野紫耀もそのジレンマですっかり壊れてしまっているのでやたらと幻覚を見る。
幻覚の中で平野紫耀は桜井日奈子に思いを打ち明けてブチューとかやっているのであるが現実では桜井日奈子のカバンとか部屋に置いてあるヌイグルミにブチューしながら何見てんだよゴミが! です(ちょっと拗らせすぎじゃない? とやんわりたしなめる、やはり幼馴染みの磯村勇斗)

こわい。kowaiiですよそんなの普通に病気じゃないですか…少女漫画原作ものの学園映画の鉄則としてなにがなんでも医者には行かないというのがありますが、医者にも行かないし親も出てこない映画なのでそんなわけはないのですがこの二人いつかタガが外れて心中するんじゃないかと思ってドキドキしちゃったよ…。

またその病み模様を一点の曇りもないポップで明るいラブコメのトーンでやるもんだから一段とヤバイ感があった。
新しい手法かどうかは知らないが珍しかったのはこれ章立てされていて、その各章がまたいくつかのパートに分かれてるんですが、パート繋ぎに昔のテレビアニメのアイキャッチみたいなのが入る。

画面左下に配置された「ういらぶ!」のロゴを前に平野紫耀、桜井日奈子、玉城ティナ、磯村勇斗らメインキャストが「ういらぶ!」と楽しげにコールしていくが…なんか周回するとメタ要素が出てくるタイプのヤンデレ系エロゲとかであったりする、本当はパートナーを殺したがその現実を受け入れられない男性主人公が見ている妄想世界に入り込んでしまったかのようであった…。

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ういうぃるよりういらぶだろ、QUEENよりKING & PRINCEだろと思って観に行ったのはこんな恐怖な映画体験を求めてのことではなかったが、しかしそっから先がなかなかドラマとしてよく出来ていたのでボヘミアンもかくやのラプソディーだ。

明らかに告白する気まんまんの普通女子をとりあえず放課後の校舎裏に呼び出し、そのどうでもいい普通女子の告白を俺彼女いるからと酷薄にあしらう様子を物陰から桜井日奈子に見させるというマニアックな方法(江戸川乱歩の小説みたいだ)でついに付き合い始めた平野紫耀と桜井日奈子。

恋人だったら恋人らしくしなきゃあな、ていうんで通り一遍デート行ったりなんかした後、「ヤるだろ? 恋人なら…」と服をはだけて桜井日奈子に迫る平野紫耀だったがそこでまさかの桜井日奈子、完全拒否。
今の凛くん(平野紫耀)は昔の凛くんじゃない! ダメな私を調教して命令するのが凛くんで私を知らない恋人みたいに見るのは凛くんじゃない…(※そんな台詞は言わない)。
俺の言うことならなんでも聞くだろと思い込んでいた平野紫耀だったので想定外の方向からの抵抗に超ダメージを受けつつ、長年の幼馴染みDVによって自分が桜井日奈子をどれだけ壊してしまったのかようやく気付くんであった。

これは逆にチャンスかもしれない。医者に行かない代わりに玉城ティナと磯村勇斗が各々のカウンセラーとして機能する映画なので、ここで二人は一計を案じる。
展開的には前後するが平野紫耀と桜井日奈子の間に突如として恋愛介入してきた伊藤健太郎&桜田ひよりのトリックスター兄妹も加え、全員で平野紫耀と桜井日奈子が幼い頃に行ったことがあるらしいキャンプ場に行ってみるのだった。どうやらそこに二人の狂気な関係の端緒があるらしいのだ。

こうなるとサイコホラーからサイコドラマになってくる。叶わなかったベッド上の準強姦チュウに対応する二人の念願の初チュウは、木の枝で切った桜井日奈子の指に対して…というわけでチュウというか治癒なのだった。
一心不乱に素手でキャンプ場の土を掘る二人の姿(そこになにかが埋まっているはずなのだ)は少女漫画原作の学園映画とは思えぬ迫真性を帯びる。
その後に起こるあり得ないファンタスティックな出来事は心象風景として受け取った。これはなにかとても、精神分析的に構造化された映画なのだ。

初対面の桜井日奈子をコミュニケーション不全ゆえ突き放してしまった幼い頃の平野紫耀が、画面には出てこない桜井日奈子の父親の言葉「やさしく言い寄ってくる男は信用してはいけない」を桜井日奈子の母親経由で間接的に聞いたことでその行為を正当化する、とか。
決して見えない恋人(的な)の父親の言葉を両親と疎遠だった幼い平野紫耀が内面化して、それが現在まで続く鬼畜行為を支える定言命法になってしまうのだからスラヴォイ・ジジェクが一席ぶってもおかしくない。

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撮影は岡山の吉備でやったらしい。どこで撮っても少女漫画原作映画に映る物は同じなので定番の橋と山と路面電車が背景を成して岡山感はまったく感じないがそのへん結構おってなる絵面の良さで、特に路面電車の自然な入れ方には唸ってしまう。
いやそもそも路面電車ありきで考えるのはどうなのかと思うがだってしょうがないでしょう、少女漫画原作映画どれ見ても地方の路面電車か湘南の水族館が入ってくんだから…。

背景といえば平野紫耀と桜井日奈子のバストショットになると極端に被写界深度が浅くなる。ので、キャンプ場なんかの場面だと紅葉した背景が印象派みたいな印象に。
これを周りが見えない二人の心理の表現とするのはさすがに拗らせすぎだとは思うが、でもそういう風にも見える、というのがおもしろかったなぁ。

俺主観によればこの手のジャンル映画とよく似たところのあった米国ティーン映画『ステータス・アップデート』にはカリフォルニアっ子の主人公ティーンの部屋にベタベタと水彩の森林風景画が飾られていて、そのミスマッチがなんだか可笑しかったが、少女漫画原作映画というのは基本的に風景画で、風景が人物を表現するのだと思えてなんとなく腑に落ちた。

あと驚いたのが平野紫耀とか俺全然知らないアウトオブ眼中の人でしたけどなんらかのエフェクトでなければ物凄いガタイをしており(上半身ヌードあり)、アイドルっていうかそのハスキーボイスも込みでプロレスラーにしか見えなくて「!?」が最後まで消えなかった。何者なんですかこの人は。
それから玉城ティナのからかうようなモデル歩きはすごくよかったですし歩きっていうか歩きとか役柄とかもう関係なく玉城ティナは良いです。スタジャン姿の玉城ティナ! 最高最高。

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↓原作


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