なんだかすごい『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

東映配給の映画であるから東映的に例えると鶴田浩二系の硬派な実直イケメンの杉野遥亮と渡瀬恒彦系の不安定な凶暴イケメンの横浜流星がと書いていて既に映画のメインターゲットであるところのティーン層に読んでもらう気がゼロな誰に向けて書いているのかわからない感想になってしまっているが(俺に向けて書いてるんだよ!)、構わず続けよう。

このふたりのイケメンが上白石萌音を巡って一悶着というのが映画のストーリーなのですが、色々あってふたり、殴り合いの喧嘩をする。
これが妙に気合いが入っていてちょっとびっくりしてしまった。こう、パンチが重いっちゅーかですね、腰が入っていて…と思ったら横浜流星、中学の頃に世界大会で優勝経験のある極真空手の有段者だった。

ガチのやつじゃねぇか。その横浜流星が出演した同じく東映配給の2018年のキラキラ(してない)少女漫画原作映画『honey』もそういえば喧嘩シーンが『クローズ』ばりに本気だったから、このバイオレンス描写の妥協のなさがTOHOシネマズ系の少女漫画原作映画とは一線を画す東映流なんだろう。

池玲子や杉本美樹といったエロくて強い闘う女を主役に据えた杉作J太郎らが言うところの“東映ピンキーバイオレンス”に倣って、これを東映ファンシーバイオレンスと呼びたい。
なにせ主人公・葵(上白石萌音)とその恋人・久我山柊聖(杉野遥亮)の馴れ初めからしてファンシーにバイオレント。友人を手酷くフッた柊聖に腹を立てた葵が柊聖を階段から蹴り落とし負傷した柊聖を家まで背負って送り届けた結果仲良くなったという不良性感度抜群の暴力エピソードであった。

さてそのストーリー。久我山柊聖(しゅうせいと読む)は青葉学園一のイケメン男子。登校する度に女子連中が黄色い声を上げプチパニックに陥り、背景に映り込んだエキストラ女子に至っては興奮のあまり頭を掻きむしったりするぐらいの壮絶なイケメンである。
そんな柊聖は地味系女子の葵とラブラブ同棲中。だが青葉学園の校則では生徒同士の同棲禁止、もしもバレたら停学かなんかになってしまう。それに万一にも付き合っていることが知れたら怒り狂った女子たちが葵に東映的リンチを加えることは目に見えている。というわけで二人は同棲生活を秘密にしているのであった(既に堅気の設定ではない)

柊聖の従兄弟・久我山玲苑(横浜流星)が青葉学園に編入してきたのはそんな中でのことだった。その目的はただ一つ、敬愛する柊聖を生まれ育ったアメリカに連れ戻し父親の事業を継がせること。
「ハーバードがお前を待ってるんだよ!」凄まじいばかりのパワーワードで攻める玲苑をやんわりとしかし決然と拒絶する柊聖。俺は葵を守りたい。葵といることが俺の幸せだ。アメリカには行かない。

幼い頃、いじめられっ子だった玲苑をアメリカンいじめっ子から(物理的に)守ったのが母親を失い孤独の中に生きていた柊聖だった。同じ社会の除け者として異国の地で固い絆を結んだふたり。
玲苑の狂気に火が点いた。俺と兄ぃの絆を断ち切ったあの女…断じて許しちゃおけねぇ! かくして柊聖VS玲苑VS葵のバイオレントな東映三角関係が始まるのだった。

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ところでこの玲苑くんのキャラを頭の方で「渡瀬恒彦系の不安定な凶暴イケメンの横浜流星」と書いてしまったのですがどういうことかというと玲苑くんは登校初日その姿を遠巻きに眺めていた女子二人組に詰め寄って突然訛り英語で「where is teachers’ office?」とか言い出し当然ながら困惑する女子ふたりを「英語もわかんねぇのかよぉ! バカな女だなぁ!」とか嘲笑しつつ罵倒しその場を去って行く壊れた人なのであった(気を抜くと中学英語が口を突いて出てしまう設定)

その後の行動は狂犬そのもの。視界に入った女子生徒を片っ端からグっと顔を近づけたり壁ドンで行く手を阻んだりしながら「俺と遊ばないか?」と恫喝誘惑、相手が勢いに押されて応じたりすると「お前みたいな女には興味ねぇんだよバァカ!」。通り魔である(※台詞は若干脳内補正されてます)

なぜそんな強制わいせつ罪に問われてもおかしくない異常行動を授業も受けずに校内で繰り返しているかというと玲苑くん、編入当初は柊聖の彼女の正体を葵だと知らないので柊聖が好きそうな女子をサーチしているのだった。
その方法が壁ドン&罵倒という危険人物なのだから柊聖の彼女が葵と知ってからの行動は少女漫画原作映画にあるまじきことだが手に汗を握ってしまった。

無理矢理に柊聖&葵の部屋に押し入ろうと葵が開けた玄関ドアに足を突っ込む玲苑くん。スラッシャー映画の殺人鬼に対峙するかのように必死の抵抗で扉を閉めることに成功する葵だったが玲苑くんは諦めない。
開けろぉ! おい開けろぉ! 極真空手で鍛えたその拳でドアをぶち破らんばかりに叩きまくる玲苑くん。もう警察を呼んでもいいのではないかと思うが東映映画は警察に頼らない。頼れるのは己の拳のみ。

ここで思い出して欲しいが葵はそもそも玲苑くんよりも喧嘩が強かった柊聖を20センチはあろうかという身長差をものともせず階段から蹴り落として倒したことで恋愛感情を抱かれた人間である。
壁ドン野郎には扉ドンをお見舞いだ。渾身の力で外開きの玄関ドアを開いてドアに張り付いた玲苑くんの顔面を強打、ノックアウトする葵(床に転がってouch! shit! とかほざく玲苑くん)

この時はそんなつもりはなかったのにごめんと玲苑くんに謝罪する葵だったが、その後も別のシチュエーションでうざったい玲苑くんに再び扉ドンを食らわせていたので確信犯的護身術だと思われる。
ふたりの同棲する部屋には葵の父の手になる「卒業まで性交渉禁止-父」の墨書が貼られていたから、たぶん葵の家庭はなんていうか若干ふつうよりも硬派な感じなんだろう。

躊躇無く同級生を階段から蹴り落とすあたりも考えると葵はその硬派な父親になにか喧嘩術を仕込まれていたと考えるのが自然である。
一度なんか狂犬玲苑くんに試着室に押し込まれて無理矢理キスされそうになったぐらいだから父親の判断は正しかった。ちなみにその時に玲苑くんが口走ったのは「お前が俺とキスしたことを知ったら柊聖はお前に愛想を尽かすはずだ…」って完全にヤクザの考え方じゃん!

おそるべし、東映ファンシーバイオレンスの世界。

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それにしても犯罪者予備軍みたいな男しかメインキャラにいないってすごいな。玲苑くんは強制わいせつとか強制性交とかでいつお縄を頂戴してもおかしくないし、柊聖の兄はチャラいカメラマンなのだが喫茶店で隣の席に座った見ず知らずの淑女に半ば無理矢理名刺を渡し君を撮らせてほしいなぁとナンパしていたのでこういうやつが某フォトジャーナリストみたいに無自覚的な性暴力に手を染めるんだろうと思えてくる。

柊聖だけはマトモでよかった…と油断していると諸事情から電話に出れない葵に何度も何度も電話をかけ続け、ているうちにすっかり葵に裏切られたと思い込んでしまい矢も楯もたまらず豪雨の中を走り出してしまうストーカー気質の怖い人だった。男は野獣という使い古された文句をこれほどまでに想起させる少女漫画原作映画があっただろうか。

葵は料理が趣味で家庭的で勉強ができなくて柊聖と一緒に居られればそれで良いというフェミニスト激怒な意識低い系キャラなのだったが、そんな葵がこれら野獣男子どもと(物理的に)互角以上に渡り合っていくのだから、ピンキーバイオレンスが男性向けジャンル映画の枠組みの中でフェミニズムを実践していたように、ファンシーバイオレンスもまた見た目の保守性に反して実践的なフェミニズム映画なのであった。

映画の個人的みどころ。まず絵面がすごいなんかフィジカル。よくある少女漫画原作映画って夢の中みたいに映像がボヤ~ンとしてたりメインロケ地の名所名店を巡ったり桜並木なんか撮ったりしてしていかにもインスタ映えって感じの画作りを積極的に狙いますが、これそういうの皆無でした。二回言いますが皆無でした。

それから出てくる男はだいたい犯罪者予備軍っぽいのですが女子はだいたい恋愛にしか興味が無くて陰湿でイジメとか当たり前です。葵のクラスの学園祭の出し物はホスト喫茶。たぶんこの学校かなり偏差値低いと思います。そこ面白かったですね。授業シーンとか進路の話とか(柊聖のアメリカ行き云々以外は)たぶん一つもありませんでした。

俳優の演技が典型的な少女漫画映原作映画っぽい媚びた感じじゃないのも面白かったですね。上白石萌音の武闘派かつ家庭的、芯の強さと不安定な少女心理が自然体で同居するいわゆる美少女的ではない(かわいいけど)キャラクターは独特だけれども親しみやすさがあったし、横浜流星の狂犬っぷりなんかなかなか他の映画で観られるもんじゃないだろう(『ういらぶ。』の平野紫耀が辛うじてそれに近かったが、平野紫耀といえば例の東映ファンシーバイオレンス作『honey』で横浜流星と共演した男なのであった)

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あと狂犬の玲苑くんが学園祭で組んだ仮説やぐらによじ登ってトラメガで全校生徒に向けて青年の主張を浴びせるところ、リアル不良を集めて撮った衝撃作『孤高の遠吠』のワンシーンを思わせて目を疑った。
あるんですよ、今は俳優として活躍しているウメモトジンギという不良の人がやぐらに登ってトラメガでヤンキーたち(というか夜の町)に宣戦布告するシーンが。話す内容は全然違うんですけどなんか印象が被ってしまうあたり、不良性感度の高さを感じましたね。

そうだそれからこれを忘れてはいけなかった、少女漫画原作映画といえばカップルの身体接触は抱きしめかせいぜいキスまで、しかし『L♡DK』は違いましたね。柊聖、葵を抱きしめて背中に回した手を服の中に突っ込んでました。
エロいよ。エロいよそして生々しいよ。それを受けて葵は例の「卒業まで性交渉禁止-父」を指差すのですが、いやその距離感はお前らもうヤってるだろ。ヤる時だけポスターかなんかでその貼り紙隠してヤってるだろ。
それ以外の通常抱きしめも抱きの圧が強く姿勢はトロけてめちゃくちゃ肉感的で、そのへん、ピンキーバイオレンスの系譜を感じる東映エロティシズムであった。

いやぁ、書いてみるとおもしろいところいっぱいあるなぁ。まだ書き足りないぐらい。おもしろい映画でしたよ『L♡DK』。

※蛇足的捕捉;
これ客席の反応もよかったですね。だいたいハイティーンとかだと思うんですけどイケメンふたりが出る度にキャーキャーワーワー言っててね。
でもそれは映画とイケメンにひれ伏してるんじゃなくて、物語的にはシリアスな場面でも結構客席から笑いが出る。ネタとしてキャンプ的に観てるんですよね、映画とイケメンを。

ある意味すごい醒めた見方で、それを別の面から見ると俗悪な映画(失礼!)に能動的に面白さを付け足す創造的な見方っていうことにもなるんじゃないすか、こういうのは。
これみたいな意識低い系の少女漫画原作映画というのはなにかと悪く言われがちというか、そもそもあんま大人に相手にされないと思うんですが、そういう風潮に対してはガキどもはわりあい冷静に、事によってはそこらの映画好きな大人よりも冷静に映画を観てるから、まぁ眉をひそめる必要もなかろうと言っておきたい。

【ママー!これ買ってー!】


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喧嘩の強い奴がイケメン、という明確な東映的イケメン基準を少女漫画原作映画の世界で確立した一作。

↓原作の1巻


L・DK(1) (別冊フレンドコミックス)

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