映画『honey』の感想(多少のネタバレとか気にしない人用)

《推定睡眠時間:0分》

のっけから不良が喧嘩しているが技斗が若干ガチめなんだが。石井隆でも現場に来たのかと思うぐらいの土砂降りの雨の中で殴り合っているんだが。キレた不良がママチャリ持ち上げて背後から振り下ろしたりする。
少女漫画原作の地域振興系女子高生映画だと思っていたのに…いや少女漫画原作の地域振興系女子高生映画なんだけど、こういう映画に出てくる不良とか喧嘩シーンは『坂道のアポロン』みたいなスイーツに無毒化されたものが脳内デフォルトになっていたので心構えができてない。

荒んでいる。この少女漫画原作の地域振興系女子高生映画は荒んでいる。主人公の臆病女子高生・小暮さん(平祐奈)が編入先の高校に足を踏み入れるや否や傍らで不良の殴り合いが始まってた。
教室で普通に座っているだけなのに後ろから丸めた紙を投げてくる女子グループがいる。通学時間から既に喧嘩してる不良がいるぐらいだからこの高校では不良が蔓延しているがイジメも蔓延している。
カナダに留学していたというだけの理由でクラス中からハブられるあんまりな境遇のやつもいた。この可哀想な人は三咲くん(横浜流星)という人。

詳しい理由は明かされないがどうもヤンチャを色々していた気配があるのでクラスメイトから恐れられている孤高のスケバン的な矢代さん(水谷果穂)という人は半グレ的な彼氏(佐野岳)のバイクに二ケツして毎日学校にやってきます。
こちらも小暮さん同様に新しく編入してきた対人コミュニケーション苦手系女子の西垣さん(浅川梨奈)はテスト前なのに出題範囲の因数分解が分からなくて焦っているクラスメイト女子二人組に勉強を教えてあげようとしたらテメェ何様なんだと睨まれてしまった。

その後テストで案の定100点を獲得した西垣さんに例のテメェ何様なんだ女子二人組が絡んでくる。100点なんてアンタ一体なにしたの? もしかして、先生に私を因数分解してくださ~いなんて迫ったんじゃないの? キャハハハハ!
矢代さんの彼氏は実は元医大生で前科持ちかつ金持ちのボンボンの暴力男で、遊びで食ってるだけなので他にもたくさん女がいるし矢代さんもそれを重々承知していた、ということが後半になって明かされるが、訳あってイラついていた暴力男に殴られた矢代さんが他の女も殴るのかと訊ねると暴力男は「お前しか殴らないよ。お前には俺の全てをさらけ出したいから」

おいそれが少女漫画原作の地域振興系女子高生映画の台詞かよ。なんなんだよこれなんなんだよ! なんでこんな荒んでるだよ!
動揺を隠せないが配給:東映の文字を見たらオール納得したのでなにも問題なかったです。消しても消しても決して消えない東映三角マークの刻印。

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だいたい実景が既に荒んでるっていうのがすごいよな。なんか最近こういうジャンルの映画見ると十中八九ファジーなふわふわ風景か、鮮明で一点の曇りもないビビット風景か、みたいなフォトジェニックな感じじゃないすか。地域振興兼ねてるから。
『honey』PR感ゼロだったよ。インスタ映えも皆無だったよ。だって基本曇天だし。海とか黄土色だし。ガードレールとか横断歩道の押しボタンとか画面に入ってくる交通インフラ系の設備がいちいち錆びている。コンクリは至る所で変色しひび割れている。
電柱と電線が無秩序に空を覆う未整理な住宅街、大きく開いた空に馬鹿でかい鉄塔だけが突き出した山間部のランドスケープが醸す荒涼感よ。

こういう映画のベターとしてロケ先の売り出したい観光名所を一通り巡る展開がほぼ例外なくあるが、ほぼであってこれは例外だからほんの僅かな湘南ショッピングモールの場面を除いて名所的なものは出てこない。
出てくるのは寂れたキャンプ場と心霊スポット的な暗黒トンネルとかだがなんか逆に心配になってくるなそれ大丈夫なの。メインロケ地は浦安とからしいが地域振興の効果でいえばマイナスになってないか。見る側はそっちの方が面白いんですけど…。

少女漫画原作の地域振興系女子高生映画のジャンルでこの荒みっぷりは他に類を見ない、かどうかは知らないがこの荒みっぷりでかつキラキラ系のラブコメっていうのはかなり独特すぎる立ち位置に思われる。
そこ、良かったな。少女漫画原作の地域振興系女子高生映画とか基本外向けじゃないですか。汚いところとか出してこないじゃないですか。舞台は田舎でも視線の先にあるのは都会っていう感じで。

これも別にあえて汚いところを出してくるわけじゃないんですけど、でも汚いの出ちゃったら隠そうとはしないから外向けのPR映画とかじゃなくて、結構真面目に郊外とか地方在住のリアルで平凡な女子高生に向けて作られた映画っていう印象受けるんですよ。
だから荒んだ空気感なんですけど妙にピュアで清々しいし、平祐奈のコミック芝居とかキラキラ演出に意外と浮ついた感じがなくて、こういう環境で倦怠に塗れた日々を過ごしてる子たちにはキラキラが救いだったりするんだろうなぁっていう切実さすら感じたな。

シンガーソングライターの高橋優が俳優として出演してるっていうのもそういう狙いがあったんじゃないですかね。お前たちのための映画ですよみたいな。
スプリットスクリーン超多用、場面転換は横ワイプ、ドリー撮影による連続的な構図変化、デコったエンドロール、余白と余韻のない高速編集…忙しなさマックスだが、(作家的創意というよりは)とにかく途中で客を飽きさせないようにとの工夫と見えて、その軽薄さが逆によい。
単刀直入で飾り気のない台詞はよくある映画だとつまらない説明台詞だがー、この映画だと説明というより不器用な人の精一杯の感情の発露として響いたりするからおもしろいものですね。

わりと良い映画だとおもうがただ西垣さんが不憫すぎないですかねこれだと…まぁ、いいのか。水谷果穂のスケバンかっこいいし(関係ない)。

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『honey』はこんなに殺伐としてないしこんなにハードコアな映画ではないけれど荒んだ風景からつい連想してしまった。

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