『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』がすごかった感想

《推定睡眠時間:0分》

デヴィッド・ボウイの出世&代表曲(と書く必要があるのだろうか)“Space Oddity”で幕を開ける映画だが、オディティ使えばいいってもんじゃねぇだろ。今現在映画館で流れてる『ワンダーストラック』の予告もオディティが捻った形で使われているが、これじゃあもうボウイ大喜利じゃないか。
パンフレットを買ったら寄稿者がみんなオディティに言及してる。猫も杓子もオディティか。お前らいい加減にしろよ劇伴に名曲使ったら良いシーンになるに決まってるんだよ!

でも『ヴァレリアン』のオディティの使い方はすげー良かったですね…いや、本当に飛び抜けて良かったんですよ。これは会心のオディティだな。理想的理想的。
映画はオディティをBGMにした75年のアポロ・ソユーズのドッキング映像から始まるわけですが、オディティ的にはこれには前史があった。
69年のアポロ11号月面着陸ミッションの放送に際して、英BBCがチョイスしたBGMこそがアポロ発射の直前にリリースされたオディティだったのだ。

スタンリー・キューブリックによる68年の映画『2001年宇宙の旅(2001: A SPACE ODYSSEY)』に触発されて書かれたから曲名はオデッセイをもじってオディティ、というのはよく知られた話。
無意味に難解な『2001年宇宙の旅』なのでともかく人智を超えた地球外生命との接触による人類の進歩と進化のお話、という教科書的なあらすじぐらいしかかなり真面目に見てもわからないが、それに対してボウイは誰にも何にも遭遇できず宇宙空間をひとり孤独に漂うトム少佐を対置するのだった。

Here am I floating ‘round my tin can
Far above the moon
Planet Earth is blue
And there’s nothing I can do…

こんな不吉な歌詞の曲を月面着陸ミッションのBGMにするなよと思うが、しかし不吉でニヒリスティックなだけの歌が今の今まで至る所で流れ続けるわけもない。
やっぱそこにはニヒリズムと表裏一体になった未知の世界への羨望があるんである。未知の世界に触れることでの変革と変身のロマンティックな夢があるんである(だから後年の“Ashes to Ashes”ではボウイ自身がトム少佐をジャンキーだと自嘲することになる)

というわけで2013年にNASAの宇宙飛行士クリス・ハドフィールドは世界初の国際宇宙ステーションで撮影された音楽クリップをYoutubeなんかで配信して世界的特大好評を博す。
言うまでもなくその曲は少しだけ歌詞を変えたオディティで、クリップは(トム少佐と違って)無事ハドフィールド氏が地球に帰還した事を告げる帰還船パラシュート降下の記録映像で幕を閉じるのだった。オディティは宇宙の夢を相変わらず語り続ける。

『ヴァレリアン』のオープニングに話を戻すと、宇宙開発競争の終焉と宇宙空間限定の米ソ協調を印象づけるアポロ・ソユーズミッションの映像を皮切りに、地上はどうか知らないがともかく宇宙ではみんな平等だろってことで世界各国の人間がオディティをバックに宇宙ステーション内でダイジェスト的に握手を交わしていく。
そのうち宇宙人もやってきた。それもいろんな星からどんどんやってきて住み着いたり一緒にミッションをするようになった。これが映画の舞台になる超多星籍宇宙ステーション“アルファ”のはじまり。

まぁみんな仲良くというのは素晴らしいが、それから100年とか200年とか経ってあんまり宇宙人が来過ぎちゃってそのおかげで宇宙ステーション大きくなり過ぎちゃってもう地球の軌道に置いとけねぇよってことになったので、ついに“アルファ”は千の種族を抱えて大宇宙へ飛び出す。
そこには自ら地球を捨てて宇宙の果てに旅立ったトム少佐も重ねられているんでしょうが、同時にこりゃ『2001年宇宙の旅』の超短縮版再演でもあるんだろうな。

『2001年宇宙の旅』もモノリスに遭遇した類人猿が武器と知能を獲得したその瞬間から軍事衛星を飛ばす現代まで一気に時間が飛躍するオープニングなのだし、スターチャイルド誕生の結末が意味するところは人類の進化と旅立ちなのだし(と偉い人が言っている)。

人類はこうしてネクストステージに進んだのだ、というわけでそこに流れるのは『2001年宇宙の旅』を裏返しにした“Space Oddity”で、言わば宇宙の夢を共有していながらも中々交わることのなかったオディティとオデッセイが、そこに付随するあんな夢こんな夢を巻き込みながらついにドッキングを果たしたというのが『ヴァレリアン』のアバンタイトルなのだった。すごくないすか、これすごくないすかね…。

ところでオディティは元々この時期伸び悩んでいたボウイのプロモフィルム「Love You Till Tuesday」用に制作されたオマケ的な扱いの曲で、アルバム“Space Oddity”の日本版CD(1990年とかに発売のやつ)の信貴朋子によるライナーノートを読んでいたらこのような記述に当たる。

この曲と共に製作されたビデオ映像は、「宇宙の中に浮かぶ売春宿」というイメージのパロディ的な宇宙船内と全く危機感を感じさせないひょうきんな表情の地上管制官というビジュアルで展開され、軽いものに仕上がっている

えぇっ! それめっちゃ『ヴァレリアン』ぽいじゃん! 「宇宙の中に浮かぶ売春宿」! 超見たくなったので探すとそれらしきブツが簡単に見つかった。

…「宇宙の中に浮かぶ売春宿」だろうか。それとも信貴さんが言及してる映像はまた別物なんだろうか。それはともかくとして、プロモの中でボウイが被ってる安いヘッドマウントディスプレイみたいなやつはちょっとだけ本当にちょっとだけだとしても『ヴァレリアン』感がないとも言えない(それにしても安い)。

どうせ俺のブログなんだから好きな事を幾らでも書いていいとはいえアバンタイトル周りで紙幅を食い過ぎている。
いやあそこ本当に素晴らしかったからついそうなっちゃったんですけどでも本編も面白かったですよ。サイコーサイコー。スコーンと竹を割ったような小難しいことゼロのSF冒険活劇。これ好きだなぁ。
『レオン』とかわりと興味薄い派なので俺の中ではリュック・ベッソン最高傑作ですよこれは。いいよ見識が疑われても。だって面白かったんだからしょうがないでしょうよ…。

何が良いって色んな宇宙生物が出てくるのが良かったですね。千の種族住んでるからなアルファ宇宙ステーション。種族ごとに全然街っていうか居住区画の作りが違うし大体身体の作りが違うから。
金属生命体とかスライム状生物とかファンタジー的海棲獣とかレトロフューチャー風とかサイバーパンク風とかMTGに出てきそうなやつとか…こういうのがゴチャゴチャゴチャゴチャと背景を構成してるから見てるだけで楽しい感じ。

原作は別ですけどバンド・デシネの映画化だから『アンカル』とかメビウス系の影響(階層の深い都市構造とか)もそれはそれであるんじゃないかとも思われ。またそこからの派生物の(『ブレードランナー』とか)孫引き的影響も感じられ。
だからネタの尽きないっつーか、なんかオープンワールド的な映画って感じでしたね。色んなステージ行ったり来たりしてアイテム集めて、突如発生するサブイベントこなしてって…みたいなゲーム的愉しさの系。独特キッチュなガジェットとか盛りだくさんだし。『ラチェット&クランク』とかやりたくなっちゃったよ不意に。

見てる間はほぼほぼ気が付かなかったが俳優陣も彩り鮮やかだったらしく、連邦宇宙捜査官のデイン・デハーンとカーラ・デルヴィーニュのヴァレリアン&ローレリーヌはまぁ分かるが(ポスターとかに書いてあるから)、クライヴ・オーウェンとかルトガー・ハウアーとかジョン・グッドマンとかえ居たの!? って思ってしまった。
ジョン・グッドマンは声の出演だから分からなくて当然なんですけど、衣装も前衛ファッションショーみたいになってたしやっぱ世界観が濃いから俳優のリアルネームとか埋もれてしまうな。

唯一気付いた俳優はストリップバーのヤクザなポン引きのイーサン・ホークだったが、あいつ怪しくて面白かったなぁ。リアルネームは忘れるけどキャラが立ってるから変な脇役でもやたらと脳にこびり付く。
宇宙ステーション内にある捜査とか警備とかの指揮なんかする司令室にアジア系のアイドルみたいな美童顔男子が一人いて、台詞とかはさほどないんですけどこの人なんだろうって感じでつい目で追ってしまったりする。

何者かと思ったらこの美童顔男子はクリス・ウーとかいう元アイドルグループの人だそう。いかにも信用できなさそうな圧の強い国防長官は誰かと言えばハービー・ハンコック。
意表をぶち破るミュージシャンの客演なんなんだそれ。コスプレポールダンサーのリアーナとかはまぁなんかリュック・ベッソンの趣味っぽいから分かるが…しかしエロくて良かったなリアーナのダンス…。

真珠で顔を洗う異星人。こういう世界観に乗れるか乗れないかっていうのあるだろうな。こういう世界観を華々しいプロダクションデザインとコスチュームデザインとクリーチャーデザインとガジェットデザインと…要するにビジュアルとコンセプトとノリだけで見せていくという作り。
たいへんええんじゃないかと思いましたね俺は。そりゃあだって真珠で顔洗ったらたのしい。なにが楽しいのかは知らないが真珠で顔洗う画を本気で作り込む映画はたのしい…。

宇宙ギャングに人食い蛮族宇宙人に潜水艦漁師にキラードロイドですよ。あと汚ねぇ面したがめつい情報屋三人組。入り組んだバザールを駆けずり回って淀んだ深海で巨大海棲獣から逃げ回って剣を手に人食い蛮族宇宙人と戦って、ユーモアとアクションと宇宙人情ときたよ。
こういう『インディージョーンズ』的な冒険活劇・表象は今は反オリエンタリズムの観点から作れないとは言わなくとも作りにくいんだろうと思え、最近あんまり映画館で見た記憶がなかったので、久々に胸のすく冒険活劇を見た気がしたなぁ。(追記:『トゥームレイダー』のリメイクを先週見たことはすっかり忘れてました)

いやぁほんと“Space Oddity”史に残る最初っから戦争ダメ絶対な最後まで全部面白かったですよ。なんでコケちゃったんすかね…。

【ママー!これ買ってー!】


スペイス・オディティ<2015リマスター>

90年時点でのライナーノートに「この曲は、様々な社会的な解釈をされ、どんどんひとり歩きし始めてしまう」と書かれたオディティは2018年になってなお歩き続ける否、様々な記憶を原始惑星のようにあるいはアルファ宇宙ステーションのように纏いながら漂い続けるんであった。

↓原作コミックの映画の元になったエピソード抄訳版

ヴァレリアン (ShoPro Books)

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