俺も崩壊映画『AI崩壊』感想文(ネタバレないけど悪口あり)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

自身の開発した医療AI「のぞみ」を悪用したサイバーテロの主犯として警察に追われることになった大沢たかおは東京の東端、江戸川区一之江で発見される。そこから警察とたかおの追跡劇(徒歩)が始まり次にたかおが警察の監視システムに捕捉されたのは同区小松川、荒川・中川に面した地域であるが、ここもたかおは走って逃げ切り次に捕捉されるのは川向こうの江東区大島なのだが――それはちょっと無理があるだろ。

通常の監視カメラ網に加えて超法規的に個人所有のスマホカメラにもアクセス可能な監視システムの存在にたかおは早くから気付いており、徒手空拳状態でなんとか知恵を絞ってカメラ・アイを回避する行動に出てはいたが、なぜ何度も捕捉されてそのたびに現場に警官が直行してハエ型ドローンまで飛ばされたりしているのに逃げ切れるのか。

逃走ルートも大いに問題だろう。一之江→東小松川間は古い家屋も多い閑静な住宅街であり、路地が入り組んでいるというわけではないが確かに人通りは少ないし監視カメラも多くはない、ちょうど一之江と小松川の中間ぐらいに位置する松江には中核派の拠点である前進社があるが、そんなことはどうでもいいとして撒こうと思えば追っ手を撒くことも不可能ではないかもしれない。

しかし問題は小松川である。なぜなら一之江から東進して小松川に入ったたかおは東小松川を通過したであろうが、東小松川には小松川警察署が置かれているのである。飛んで火に入る夏の虫とはこのことだが、そこから小松川に向かうに当たっては更なる困難が待ち構えている。荒川・中川の両河川を渡る必要があるのだ。

考えられる第一のルートは東小松川と小松川を繋ぐ小松川橋をそのまま渡るルートである。これは一之江から東小松川まで走って逃げてきたたかおの残存体力を考慮すればもっともありえそうなルートではあるが、小松川橋は、単純に長い。あと目立ちすぎる。もちろん長くて目立つという意味では第二ルートとして考えられる船堀橋も同じなのだが、小松川警察署は小松川橋にほぼ隣接しており、それまでの逃走経路からたかおの東進を予測していた監視AIは当然、小松川橋の検問を指示するはずであり、位置状況を考えればたかおがこの小松川橋検問の設置よりも早く小松川橋を突破できる可能性は無きに等しい。

そもそもたかおの逃走以前に医療AIの暴走で都内の交通が麻痺していることは描写されており、その場合小松川橋ではすでに交通整理要員が小松川警察署から出ていることは想像に難くない。平時でも通るたびにチャリのねずみ取り番の人が張っている小松川橋にこの非常事態、人員が割かれていないとは考えられないことである。最悪、人は回せなくてもドローンを先回りさせて監視することはできるのではないか?

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第二のルートとして考えられるのは船堀橋経由で大島へと抜けるルートである。たかおのその時点での逃走目的地は大島ではなかったが、船堀から船堀橋に入って直進すれば大島であるから、ひとまず大島に入ろうとするならばこちらの方が経路としてはシンプルである。東小松川をあえて南下し中川沿いの入り組んだ住宅街に身を隠しつつ追っ手を攪乱して船堀→小松川→大島、余計な体力は消費するであろうが難関小松川橋を直で渡るよりは逃げ切れる可能性が多少はありそうである。

また、両者のハイブリットルートとして小松川橋で中川を渡り、荒川は渡らずに中州で下りてそのまま連結している船堀橋へと向かうルートも理論上は考えられるだろう。
だがいずれにしても言えるのは、さてはあんまり深く考えてないだろ。だって今Googleマップ見ただけでもこれ無理だわってなったもん。荒川はでかいよ荒川はー。そんな簡単に東小松川から荒川渡って小松川行けないですよー。小松川警察署だって京葉道路沿いに堂々建っとるわけですからねー。それは無理だわー。江戸川区のポテンシャルを舐めてるわー。

いや、どうでもいいのは知ってるよ。ぼくそれ知ってるんです。でもさぁ、SF映画ってやっぱディティールに凝ってナンボみたいなところないすかねぇ。ディティールに凝るっていうか、無理にでも理屈を考えてこじつけるっていうか。実現できるかどうかはともかくとして、たとえばの話、たかおが東小松川に向かっているちょうどそのとき前進社(的な)からAI医療に反対する武装中核派が現れ一帯パニックに! とかさ。

あるいはどっかでもらい受けた試作品のステルス迷彩着て小松川橋突破するとか。試作品だから時々迷彩パターンがプレデターみたいに崩れたりして、それを目撃した警邏中の警官が不審がるとか…そしたら不可能な逃走経路も腑に落ちるし、それ自体がちょっとしたサスペンスな見せ場になりますよね。ガジェットの面白さってSF映画を観る楽しみの一つじゃないですか。

そういうところの配慮のなさがすごくSF映画としてダメだと思った。だっておかしいでしょ、時代設定が2030年なのに螢雪次朗の漁師が懐メロ的に井上陽水の『夢の中へ』歌ってるんですもん。ウィェキペィディェアによれば螢雪次朗68歳ですよこれ書いてる時点で。これをそのまま劇中年齢とすると『夢の中へ』の原曲は1973年発表なわけですから螢雪次朗めちゃくちゃ懐古趣味の人っていうことになるよ。別にそういうキャラでもいいけどでもそういうキャラとして演出されてはいないからね一切。

2030年の懐メロってなんだろうって考えたらたとえば浜崎あゆみとか倖田來未とか出てきたっていいじゃないですか。っていうかそっちの方が自然だし、現在の先にある未来の演出としてそれ単体で意味を持つわけじゃないですか。ちょっとした異化作用とかおかしみもあって。そういうのちゃんと考えるのがSF映画なんじゃないんですかって思うんだよ俺は…。

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またどっかの口だけバカが重箱の隅をつついて鬼の首を取ったように喜んでらぁって思われる人もいるかもしれませんが…しかしねぇ…だってさぁ…そりゃ上でネチネチ書いたことは確かに重箱の隅っちゃ重箱の隅ですけれども、なんかAIの先生が監修に付いて監督もAI学会みたいなの入って色々論文読んで脚本書いたみたいなことがどっかの記事に書いてあったのにさぁ? そのAIの部分もなんていうかですね…学会入らなくても月刊ニュートンのAI特集号読めばだいたい書いてあるやつだろみたいな…というのもあるし…なんか、すげぇ、杜撰。

この映画の基本的な設定としては医療AI「のぞみ」っていうのがあって、これがすごい、すごい便利。すごい便利で個人のバイタルデータとか遺伝子データとか既往歴とか生活歴とか入れるとドラえもんの「お医者さんカバン」みたいな感じでここ悪いからこう治してくださいとか教えてくれる。すごいAIだからビッグデータを扱って機械学習でどんどん精度も上がってく。あんまり具体的に描写されないので細部は不明だが(いやそれだめだろ)とにかくすごい。すごすぎて沖縄以外の日本全国津々浦々でみんな「のぞみ」導入して頼ってるらしいです。

さてこの「のぞみ」がある日とつぜん暴走します。「のぞみ」と連動したペースメーカーを入れた人はザクザク死亡。まぁこれはわかる。わかることにする。それからこのようなことが起きます。「のぞみ」と連動した自動運転カーが制御不能になってあちこちで事故になります。「のぞみ」と連動したエレベーターが制御不能になってあちこちで事故になります。「のぞみ」と連動したIoTマシンが社会に不要な人間と見なした人を殺しに行きます。「のぞみ」と連動した「のぞみ」メインサーバールームのドアが非常事態宣言を出して閉じてしまいどんな権限でも開けられなくなってしまいます。ちょっと待てよおぉぉぉい!

違うくない!? なんかそれちょっともう医療AIからだいぶ違う感じになってない!? あと人間の選別って何!? どういう仕組みで…っていうかどういう社会なんだそれは! 「のぞみ」各分野に浸透しすぎだろう! 暴走以前に独占企業の問題とかないですかこれ最後まで一言も触れられてなかったけど! だってメーカーが分散してたら一社のAIがハッキングかなんかで暴走してもこんな壊滅状態にならないもん! それAIの問題とは別の問題じゃない!? それもAIのせいにしちゃって大丈夫な感じ!? まぁ、大丈夫だと踏んでいるから作っているわけだが…。

社会の問題なんじゃないかという気がしてきた。社会の問題をAIの問題にすり替えているか、もしくは分けて考えられていないのがダメなんじゃないだろうか。あるいは紋切り型でしか日本社会を捉えられていないのがダメなんじゃないだろうか。

俺の記憶が正しければ「のぞみ」開発者の大沢たかおは娘と共に(日本のようにAIに犯されてない)シンガポールに移住したと言っていたような気がするのだが、猛烈な認可遅れと政治的無関心によりアフターピルすらそこらへんで入手できないドラッグ・ラグ先進国にして何事も規制はよいことだと信じて疑わない人が政治的影響力を持つ規制緩和後進国の日本が今からたった10年でシンガポールよりAI漬けになる確率は高く見積もって0%だろう。0を100にするのがSFといえばそうだが、だとしたら世界的にAI漬けの設定にしないとまったく筋が通らない。

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その夢想的AI大国ジャポンではAIに仕事を奪われたと訴える人々がデモをやってたりする。まず、仕事を奪われたというが、これだけ社会構造が変化すれば必然的に別種の雇用も生まれようと思うのだが、この人たちを何を奪われて何を新たに得ることができないというのか。地方の過疎化と少子高齢化は進む一方…と紋切り型の未来予想図が語られるが、今でも各業界人手不足は深刻なのだし、医療(系)AIが発達すればむしろ人手不足の深刻な部分(介護とか保育とかさ)が解消されて少なくとも雇用機会の不平等感は逆に減るんじゃないかと思うのだが…。

しかしともかく、そういう世界として受け入れるしかない。受け入れるしかないのだが、このデモ隊というのがゲバ棒こそ持っていないが新左翼のイメージから一歩も抜け出すことのない化石デモ隊で、それはさすがにないんじゃないかと俺は思う。
AI反対っていうんならスピリチュアルとか宗教方面のデモの方がよっぽどリアリティがあるしディストピア的未来感もあるんですよ。だいたい普通に考えてこれだけAI医療が浸透した世の中ならまず異を唱えるのはそこの人たちじゃないですか、無理矢理居場所を奪われたわけだから。仕事は変えられても信仰はそうそう変えられないですしね。

スピリチュアル・宗教と、それから反体制を標榜する新左翼、N国みたいなネット・ポピュリズムの混成運動みたいなものを考えるとか。それは設定の問題なんだから別に予算かけなくても面白さを追求できるところだろう。プラカードの文言とか衣装変えりゃいいんだから。本当にちゃんと未来を想像して作ってるのかって話なんだよ。これSFですよ? 未来SFよ? そりゃ人の数だけ未来はありますけれどもさ…。

全編観て思ったのは、もうちょっと整理してよってことですよ。2030年の近未来日本、大変だよね。設定からなにから一通り作ろうとしたらたいへんです。無理でしょハリウッド大作じゃないんだし。でもだったらさぁ、撮れないところはすっぱり諦めて、撮れるところだけSFビジュアルとかSF設定をちゃんと作り込んだら良かったんじゃないですか。
ほらたとえば『リベリオン』とか。あれだってお金のある映画じゃないですけどお金がないから何を見せるかっていうことを本当に絞って、そこだけをしっかり作り込むことで一つの未来世界としてちゃんと見られる出来になってたわけじゃないですか。そういうことなんですよ。

だいたいこういうAI暴走ネタで一本作りたかったらジャパニメーションの偉大なる先駆がいくつもあるんだからさぁ。神山健治とかがやってるじゃんさぁ、もっとちゃんとしたSF作品として。俺は神山健治の作風は嫌いですけどこれだったら神山健治のアニメで見たかったなぁってずっと思ってたよ見ながら。なんなんだよHAL9000風の喋る「メインサーバー」って。SF映画をなんだと思っているんだ。

ただね、 今回はスーツでビシッと決めた冷酷なサイバー犯罪対策課の岩田剛典くん、剛典くんは良かったですね。これはもう妄想してしまいますよ。冷酷な剛典くんが跪けと言うわけです。だから跪きます。そのズボンの股間の前に私の顔があります。剛典くん言います。臭ってるぞ…雌の臭いが…欲しいのか? 私は拒む、しかし剛典くんは頭を掴んで無理矢理股間に押し当てる! ほぉら見ろ、欲しいんじゃないか…くわえろ、くわえるんだ。ジ・ィィィ…。いつしか私は抗うことをやめていた。恥辱は甘美な快楽に堕ちていた。そして私は…いやそんな映画では全然ないけどね!

【ママー!これ買ってー!】


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アニメと実写ではシナリオの設計思想からして違うというのもわかりますが、日本のSF映画これぐらいのレベルに到達していたのになんでそれから30年近く経ってこんなに後退してるんだよって思うよ。俺は別にロボット出してくれって言ってるんじゃないからね。未来社会をどれだけ精緻に構想できるかっていうことだから…。

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