全然カオスじゃない映画『カオス・ウォーキング』感想文

《推定睡眠時間:20分》

設定は面白そうなのに内容は出涸らしみたいなもので、匂いと色はついてるから見た目は良いけど食べてみるとほとんど味がしないっていうこの感じ、前もどこかで観たようなと思い出したのが人気ヤングアダルトSF小説の映画化『メイズ・ランナー』シリーズで、この『カオス・ウォーキング』もヤングアダルトSFが原作らしいのでヤングアダルトの映画化はこれぐらいな感じでっていう不文律でもアメリカ映画界にあるのかもしれない(これはアメリカ/カナダ映画)

監督が『ボーン・アイデンティティー』ダグ・リーマンでしょ、脚本が原作者パトリック・ネスと『スパイダーマン:ホームカミング』とかのクリストファー・フォードでしょ、やろうと思えば絶対もっと面白くできるよな。でもこれはヤングアダルト映画ということで刺激はほどほどストーリーはわかりやすく適度な教訓と教育的配慮などを織り交ぜましてということで退屈はしないけど俺みたいなアダルトが見てもそんなに面白いものではない。

ヤングアダルト層はどうなんでしょうね。そこもそんなに面白くねぇんじゃねぇかと思うんですがでもあれか、現スパイダーマンのトム・ホランド、『スターウォーズ』シークエルのデイジー・リドリー、それからジョナス・ブラザーズの末弟ニック・ジョナスの若手スタアが顔を揃えて悪役がマッツ・ミケルセンの布陣なので、ヤングアダルト向けのスタア映画として楽しめないこともないか。少なくとも親は安心して見せられるよな。マッツ出せば一緒に観に行くかもしれない親も喜ぶし。ダグ・リーマンはスタア俳優の使い方が巧い人だからそういうところが買われて起用されたのかもしれない。『ジャンパー』とか面白かったよな。

まぁとにかくそういうところを楽しむ映画で、異星に入植した人たちが星の作用で男のみ心の声が外に漏れ出るようになってしまい、しかもそのせいなんだか別の理由によるのかは知らないが女は全員死んでいて、地球との交信・交通手段も失ったことから生活水準と文化が西部開拓時代に退歩してしまった男村で希望のない日々を送っていたヤング男子(トム・ホランド)が、ある日のこと何の前触れもなく地球からやってきた女子(デイジー・リドリー)と出会い…という導入部からは実に色々なオモシロ展開とエグ描写が想像できるわけですが、そういうの、ナシ!

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「僕は女の子を見たことがない…」とかわざわざ心の声でこぼす思春期男子トム・ホランドがデイジー・リドリーを目にしたら多少のエロ妄想ぐらいは漏れるだろ多少はと思うが、ナシ! 「この子は可愛い…」の思考が漏れて赤面(そしてちょっとデイジー・リドリーに警戒される)するぐらいでした! う~んまぁヤングアダルトっすからね~! でも大人男はどうせ倒すべき敵なんだしエロ妄想漏れて良いんじゃない!? ヤング少女にエロ妄想する大人男どもをホランドさんリドリーさんがやっつけてこんな大人男どもには負けないぞってやればわりと教育的な意味でも良い感じにならないか!? でもエグいか! ヤングアダルト映画でそれはエグいかそうか…まぁそうだよな。エグいわそれは。

というわけで出涸らし感。まぁバディもののSF冒険映画としてそう悪いわけでもないが、エロ妄想を抜きにしても、たとえばこの思考漏れは意識を集中させて漏らすと相手に幻影を見せることができるっていう使い方もあって、これだってもっともっと映画的に活用できると思うのですが、かなり控えめ。面白いと思うんだけどなぁ幻影バトルとかやったら。ずっと本で読んだ遙か彼方の地球の映像を心に思い描いている自閉症スペクトラムの子供のキャラクターとかを出してさ、みんなからお前使えねーなってイジメられてるこの人がいざという時に持ち前の集中力を発揮して辺り一面を地球化、で悪役に殺されそうになっていた主人公を救うみたいな…巨大な廃墟宇宙船とかも出てくるからそこのシーンで崩落した床を思考集中による幻影床で覆い隠して落とし穴にするとかさ…あると思うんだよなそういう設定の活かし方、それはもう色々と。

じゃあ、それはいいとして、若手スタア共演映画としてのみ見るとしても、デイジー・リドリーとトム・ホランドはそれぞれ全然別の文化の中で育ってる設定なわけですからそのことで生まれるギャップとか葛藤とか普通あると思うんですけど、そういうのもあんまりないしそもそもキャラクター描写が薄いから二人の逃避行もそんなに面白いドラマが生まれなくて、ニック・ジョナスに至ってはこいついかにも主人公のライバルでござい的に登場するくせにえらい地味な活躍しかしなくてですね…薄かったなーここも。

まぁでもそんなに上映時間の長い映画じゃないし(109分)異星の巨大な構築物とかはそれなりに迫力ある感じになってますし西部劇テイストの異星SFっていう若干の珍しさ(あくまでも若干の)に安定の役者陣が載るわけですからつまらないことはありません。その面白いわけではないけどつまらないわけでもないっていう中間ゾーンがいちばんつまらないんじゃないか説も学会では有力ではあるが。

【ママー!これ買ってー!】


アルファ系衛星の氏族たち (創元SF文庫)

思考漏出SFといえばフィリップ・K・ディック。このディックの書き飛ばし小説ぐらい壊れてもいいからもっと面白くしてほしかったな、せっかく思考漏出のSFアイディアを使うんなら。

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