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『恋わずらいのエリー』の原菜乃華と『顔だけじゃ好きになりません』の久間田琳加が共演ということで『恋わず』と『顔だけ』はどちらもイケメン枠が宮世琉弥という妙な共通点もあるがキラキラ映画っぽいなと思って観に行けば男子生徒もいるから共学っぽいが主人公・原菜乃華のクラスは女子生徒のみでどうもこの学校は女子クラスと男子クラスに分かれているらしくそんな学校あんの? まぁでも私学なら無いこともないのか…とそのへんはキラキラ映画風の強引設定だがいやコワッ! 怖い怖い幽霊の描写がいちいちコワイよ! キラキラ映画の範疇じゃないだろこれは!
というのも監督は『ほんとにあった呪いのビデオ』シリーズ初代監督にして『残穢』の監督でもある中村義洋、近年Jホラーの監督としてみちみちと存在感を増してきている人なわけであるから幽霊描写がしっかりと不気味なんである。Jホラーの監督といっても清水崇などは『ミンナのウタ』が典型だが幽霊をガッツリと見せてジャンプスケアでビビらせるパワープレイ、白石晃士は幽霊そのものよりも空気感で怖がらせたりと監督ごとにカラーが違うが、中村義洋は幽霊そのものの姿形で怖がらせるタイプ。よってこれも原菜乃華×久間田琳加とかいうキラキラコンビの映画とは思えないほど幽霊描写に力が入っているのだ。
幽霊がちゃんとコワイというのは大事なことである。主人公の原菜乃華はある日とつぜん幽霊が見えるようになってしまった見える子ちゃん。見えるだけで別にお祓いとかができるわけではないので幽霊と遭遇しても見なかったことにしてやり過ごすだけ(下手に構うと幽霊が憑いてくるのだ)という『クロックタワー』状態なので、パッと見コミカルなのだが見える子ちゃん本人にとってはいつどこでコワイ幽霊と出くわすかわからず毎日が恐怖と不安の連続。でも友人に憑いている幽霊を祓うために急に塩をぶっかけるとかとくに幽霊に詳しいわけでもないそこらへんの女子高生たる主人公のVS幽霊悪戦苦闘っぷりはやっぱり笑えてしまうわけで、『劇場版 ほんとにあった呪いのビデオ100』でも見せたコワさとユーモアの両立はここでも健在、加えて妙にアクの強いキャラたちはキラキラ映画風といろんなジャンルの面白いところをがっちゃんこなのだ。
ところで中村義洋のホラーといえば『ほん呪100』も『残穢』もストーリー的には幽霊の正体を探るミステリー、なのでこの『見える子ちゃん』も実はミステリー的な仕掛けがあり、とくに気弱な学校の先生・京本大我(京本政樹の息子だそうでたしかに雰囲気が似ている)に憑いている幽霊っぽいやつをどうにかしようとする後半はコメディ色が薄まり結構緊迫。ここらへんから映画としてエンジンがかかってくる感じで女子高生のコミカルやかまし日常生活にふっと幽霊が入り込んでくるサマをスケッチしていく前半は物語性が薄く多少つまらなさもあるのだが、実はそのつまらなさはある種の前振りないし伏線だった、とわかる終盤のどんでん返しにはなかなか唸らされましたな。ちょっとアンバランスの観もあるとはいえ。
主人公は幽霊を見ても見なかったことにするしかできないと書いたがそれが単なるオモシロ設定ではなくしっかりとテーマになってるのも巧いところだった。そこにいるコワイものを見なかったことにし続けるのはたしかに病的な反応かもしれないが、かといってコワイものを四六時中見続けていると人間は狂ってしまう。SNSなんかを見れば絶え間なくその人のタイムラインには流れてきてるらしい戦争の悲惨から目が離せなくなり怒りと恐怖と無力感の混成体に精神をやられてしまっているような人がたくさんいるものだ。だからコワイものに過剰に執着するのもコワイものを過剰に忌避するのもどっちも間違っていて、コワイものは適度に見て適度に見ないというメリハリやバランスが大切、そのようにしてコワイものと適切な距離を保つことが大人になるということだと思えば、これはやはりキラキラ風というだけではなくキラキラ的な女子高生の成長物語でもあったのかもしれない。
ポップなポスターとか予告編からは想像しにくいがそんなわけでホラー×コメディ×ミステリー×青春×ヒューマンドラマななかなかのジャンルミックス野心作。怖くて笑えて最後はちょっとホロリと、これもまた『ほん呪100』に続く中村義洋のJホラー快作だったんじゃないでしょーか。キャストみんなでダンシングのエンドロールもたのしくザ・娯楽である。
※女子しかいない主人公のクラスのガサツな雰囲気はなんか女子しかいないとこのリアリティがあってイイ。学園祭でダンスやりたい女子VS浴衣着たい女子のバトル口論には笑った。「オバケ屋敷でなにやんの」「貞子とか」「浴衣じゃねぇか」「貞子浴衣じゃねぇし!」。