性欲は嘘をつけない映画『ライアー×ライアー』感想文

《推定睡眠時間:0分》

平成30年を通じて観客の恋愛観とか人権意識もだいぶ昭和の世とは変わってきているので昭和恋愛映画では当然とまでは言わないが1つの恋愛の在り方としてとくに疑問が持たれることもなかった(と思うが実際は知らない)強姦から始まる恋愛とか情熱の表現としての強姦とか性的にだらしない女への懲罰としての強姦とかは今の映画ではエロ映画も含めてほぼほぼ見られなくなっているが、これが挿入こそ伴わない強制わいせつ的行為という形であってもまだ慣習的に現存しているジャンルこそティーン女子向け少女漫画原作映画、いわるゆキラキラ映画である。

びっくりするよね。キラキラ映画の強制わいせつ的行為にじゃなくて『ライアー×ライアー』の映画観に行った人の感想を開いてみたらいきなり性犯罪の話題から始まったことに。だってしょうがないじゃないですか現にキラキラ映画は強制わいせつの温床なんだもん! 最近のキラキラ映画でそんなシチュエーションを目にすることなんかほとんどないが壁ドンのキス迫りとかね! あとこれは最近のキラキラ映画でもよくありますが寝てる主人公女子にまだ付き合ってない段階でこっそりイケメンがキスしちゃうやつとか! 合意がないから! キラキラ映画基本的に合意っていう概念がないから!

中でもこの『ライアー×ライアー』は主人公女子の年齢設定が20歳の大学生ということでなかなか攻めた強制わいせつ描写があり、危うく強制わいせつを飛び越えて一段上の準強姦に達するところであった。その手口もウェーイ系の性犯罪者なら明日から使えそうな実用的かつ生々しいものでこのキラキラ映画は他のキラキラ映画とはひと味違うなと唸らされる。密室での脅迫からの自発的性行為誘導ね。これは後から合意がなかったと訴えても立証が難しそうですよ。なるほどな、ライアーってそういう意味の…いや絶対違うだろ!

とジョークを飛ばしたくなるぐらいに強制わいせつ行為が常態化しているキラキラ映画であるが観に行くと当然のことながら毎回ティーン女子の中にオッサン一人ということになるのでこういう俗悪なものを好んで観るのはナウな女子なのであった。考えてみればスプラッター映画を観に行く人は画面の中の他人の死は楽しむが自分が殺されたいとは基本的に思っていない、ということはキラキラ女子たちも画面の中の強姦を楽しみはするが自分が強姦されたいとは基本的に思っていないのだろう。「ただしイケメンを除く」的な可能性もあるがその場合でも相思相愛の強姦が原則なのではないだろうか。なんですか相思相愛の強姦て! それは俺じゃなくてキラキラ映画に言ってくれよ。もしくはキラキラ原作の少女漫画とかに…。

面白いのはキラキラ映画の上映が終わった後の客席の反応とスプラッター映画のそれってよく似てるんですよね。友達グループで来てる客が多いからガヤガヤしてるし笑い声が絶えない。スプラッター映画だと「怖かった~」がガヤ文句の基本でしょうがキラキラ映画だと主演の女優に対する「可愛かった~」がベター。イケメンが出ているからとティーン女子客がイケメンに目をキラキラさせているかというとまぁイケメン俳優(アイドル)ファンはそうかもしれないが案外そうではなく、むしろ主演女優にキラキラさせている人が多いように見える。イケメン枠俳優の衣装バリエーションが極端に少なく主張も控えめな反面、主人公女子はさながらファッションショーに出るモデルの如し…というのはキラキラ映画の特徴である。

まぁだからキラキラ映画の強姦ってスプラッター映画の血まみれ殺人とだいたい同じなんですよ。ちょっと面白くないですか。ティーン女子客はこういうのベタなネタとして観ててさ、で大人向けの恋愛映画とかだと強姦から始まる恋みたいなのは基本的に出て来なくて、大人観客は(映画の内容にもよるが)それを真面目に受け取るっていう。真面目に受け取っちゃうから逆に強姦から始まる恋とかちょっとやばいっしょみたいな自主規制っていうか理性が大人向けの映画では作り手に働くんですよ。その一方でガキ向けの俗悪キラキラ映画は観客のガキどもが内容を真面目に受け取らないので強姦も別に気にしないっていうですね…いいよもうその話は! 強姦やめようねはいそれでこの話終わり! ヤリたかったら合意を取ろう!

でも強姦強姦とつい言いたくなってしまうぐらい『ライアー×ライアー』の準強姦未遂シーンは出来がよかったんだよ。犯人は小関裕太なんですけどこれが実に陰湿でネチっこい良い芝居をしてるんだよな~。目が本気の人でコワ気持ち悪くてね~。ジワジワと精神的に女を追い詰めていくんですけどでもアダルティな魅力も漂わせてつい頼りたくなる…弱さも見せて同情してあげたくなる…っていうところが逆にヤバイんだよな~。アダルトな男は証拠を残さず女に罪悪感を背負わせてヤる! 準強姦未遂で褒められても嬉しくないかもしれないがある意味悪役開眼という感じで小関裕太くん、あくまで映画の中で今後どんなクズっぷりを見せてくれるか楽しみである。

目、といえばメインイケメン枠で出演している松村北斗のコピーロボットのような光のない目も不気味で良い。いつも自分の世界に沈み込んでいてたまにふっと現実世界に戻ってくる様子は器用な演技とは言い難いだけに逆にスイッチのオンオフが明確でぎこちなさの中にサイコ感がある。なんでそんな危ない男しかおらんねんと思わずツッコミたくなるがしかーし! 松村北斗の死んだ目には理由があったというわけでその理由は容易に察することができるものではあるが! なかなかそのへん、巧いところなのだ。

キラキラ映画はどうせ決まり切った大筋がどうこうというよりも映像面のディティールで見せる作劇が圧倒的に多い。よってシナリオも起承転結の承と転に力点が置かれて小さなエピソードの羅列になる場合も多々あるが、その点でこの『ライアー×ライアー』は異質であり、恋愛コメディを基調にしつつも松村北斗の目が死んだ理由にサスペンス風味をまぶして映画のクライマックスにどんでん返しとして持ってくる。つまり結の比重が大きい。『ライアー×ライアー』のタイトルが既に半分以上ネタばらしをしているのでそれがどの程度どんでん返しとして機能するかは不明だが、ともあれ珍しいことには変わりがないし、なにはともあれ珍しいものは面白いのだと断言してしまいたい。

さてグループで観に来ていたティーン女子のガキどもがカワイイカワイイと上映後にギャースカ言っていた主人公の森七菜であるが、これはもうセコいと思ったね。知人のカメラマンだかメイクさんだか知らないがその人の仕業でパツキンギャル女子高生に扮したら同居している同年齢の義理の弟(これが松村北斗)と偶然遭遇、色々あって別人を装ったら松村北斗に一目惚れされて別人を演じながら付き合うハメになってしまう。

そのような展開であるから森七菜は通常メイクの地味七菜とギャルメイクのギャル七菜の2パターンを交互に演じ、その中で様々な衣装を着こなしていくという女子眼福の大サービス。そんなもん絶対可愛くなるだろ。小関裕太との身長差がものすごいので並んで歩くシーンとかで「エグッ!」と思ってしまい素直にカワイイカワイイと愛でることができない俺ではあったが、まぁでもこれ基本はコメディですし森七菜コメディ芝居がよかったので良かったですよ。他の役者はノーマル芝居だからツッコミ役がいなくてせっかくのオモシロ芝居も空回り気味っていうのはなんか惜しい気もしましたが。

そうだ、オモシロ芝居といえば忘れてはならないのが森七菜の所属する日本史研究会の会長ね。これは最高。ここだけ世界観が完全に別。英勉の学園ギャグ映画か鈴木則文の実写版『ドカベン』から出てきたようなハイボルテージキャラでこの人が出てくるシーンだけまったく違う映画になってしまう。濃すぎるでしょーこれはー。板橋駿谷という人が演じているがウィキを見たら36歳って書いてあったのでそりゃそうだよそこだけ世界観違うくなるよそれは! 笑ったわー。

って具合にですね面白かったですよ『ライアー×ライアー』。要は『ママレード・ボーイ』でしょ? とか言うんじゃない! まぁ設定的にはまぁ…似たようなところもあるが…でもあっちほど爽やかじゃないからこっちは! 性欲が溢れてドロってるから! 結構ねキラキラ映画的っていうより性衝動を抑えきれない男の悲しさみたいなピンク映画寄りのストーリーで面白かったんですよ。褒めになってるのかこれは。

【ママー!これ買ってー!】


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ジム・キャリーの躁芝居、笑いが引きつってる感じでなんか怖いよね。

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