人間リスペクト映画『だれもが愛しいチャンピオン』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

某24時間テレビでやったりする障害者が頑張った系企画、ネットだとやれ感動ポルノだなんだとめちゃくちゃ評判悪いですがぼく実はあぁいうの嫌いじゃないんです。だってポルノでしょ。ポルノ毎日見るもの。ポルノ好きですよ。残酷描写を売り物にするホラー映画は残酷ポルノ、拷問描写を売りにするホラー映画はトーチャー(拷問)ポルノとか言う。それも全部好きですよだってポルノだもの。従って感動ポルノもぼくは好きなのである。そりゃ無理矢理やらせてたらポルノだろうがなかろうがダメだけれども同意の取り付けに問題があるかないかは留意すべきだとしても、本人が進んでやってるポルノだったらこちらが楽しんだらいけないという道理はないだろう。

というわけで知的障害者の人たちがバスケチーム作ってそこに酒気帯び運転etcの軽犯罪でお縄をいただき社会奉仕活動を余儀なくされたダメ人間コーチがやってくる、もうそのあらすじだけで大好物確定。障害者がなんかやる映画は面白いというのは『フリークス』の昔から決まっているし、『フリークス』の場合は身体障害メインだから巧拙はともかく知的作業の最たるものである演技はまぁ問題ない、しかしこちら『誰もが愛しいチャンピオン』は知的障害者の役をちゃんと知的障害者の人が演じているのだから演技大丈夫なんだろうかと観る前から不健全なワクワクもある。

だがそのワクワクは裏切られた。なんでも公式サイトによればオーディションで選ばれた知的障害俳優陣それぞれに併せて脚本の方を変えたとのこと。その人ができないことは削ってその人にしかできないことを各々の障害とか障害の程度に合せて加えてったみたいなことだろう。できることをやってもらっているのだからいわゆる(?)障害者が演技をしていることの特殊性みたいなものは皆無に近い。要するにそこには普通の演技しかないわけで、我ら感動ポルノ消費団からすれば抜くに抜けないソフトコアポルノといったところである。

だがワクワクがない代わりにハラハラはあった。演技は普通でも展開はなんだかちょっと普通ではない。たぶん各々の特性に合せて脚本を書き換えたというのもあり、おそらく現場判断で結構臨機応変にシーン内容を変えたりしてるんじゃないかとも思うのだが、そのおかげで次々投入される様々なエピソードや個々のチームメンバーのドラマが綺麗にまとまらない。物語の大枠は単純なのでそこは変わらないとしても、後から振り返ればあのシーンのあの後どうなったんだろうみたいなところが多々出てくるわけである。

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でもそれが非常によかったんですよね、どこに向かうのかよくわからない巻き込まれ感が。最初の方にチームでいちばんバスケが巧いメンバーが出てくるのであぁこの人を中心に物語が進んでいくのかな、と思ったらその次のシーンくらいで何も言わずにチームを離脱してしまってその後ぜんぜんお話に絡んでこない。何らかの理由で撮影に来られなくなってそれでも撮影止められないから脚本書き換えて続行したのかと思ったぐらい唐突な展開で、そんなん見せられたらおいおい大丈夫かこの映画ってなる。でも大丈夫なんです。その穴は個性がオーバースペックな他のメンバーのエピソードとかこれまた唐突な新メンバーの登場とかで必要以上に埋まる。

これは気持ちがいいですよ、このなんとかならなそうだけど案外なんとかなってしまうところ。カーニバル文学的な趣があると思ったな。で、全体として見ればむしろその無軌道さが映画として正解なんです。主人公の協調性皆無な元プロバスケコーチのオッサンが社会奉仕活動を命ぜられることになったのはこの人が自分のコート戦略こそ唯一の正解と信じる人で、そのことで意見を異にする所属プロチームの監督と殴り合いの喧嘩をしてしまったからで、だからこの映画は正解は一つしかないとか、人間はこうあるべきだみたいな、そういう考えに拘泥しない方が色々可能性が開けるし、なによりそっちの方が楽しいしっていう、そういうことを見せてくれる映画なんです。

よくできてますよね。あえて設定から演技からガッチリ固めないことでむしろテーマとか物語に説得力を持たせるっていう。ガッチリ固めないことで展開に予期せぬ驚きが生まれたり、なんでもないシーンが突然の強感動シーンに化けたりしてね。たとえば、チームメンバー全員とコーチが移動でエレベーターに乗るシーンですよ。たかがエレベーターに乗るシーンですよ? ところがこれが、ちゃんとした映画だったらカットしてしまうようなこんな他愛のないシーンが、もうエレベーターに乗ってるメンバーが心から楽しそうなので涙腺の不意打ち、でもってその中に早くこっから出たいなぁみたいな顔をしてる人も一人混ざっててそこには言外のドラマを感じたりして…とにかく非常に良いシーンになってるんです、エレベーターで移動するだけのシーンが!

歯切れの良い編集も見事なもの、カッコいい女判事とか抱きつきマンとかナイスキャラだらけ、ビターな現実も織り交ぜつつ決してシリアスには落ち込まない陽気さ、ツッコミ役不在のまま乱れ飛ぶギャグ、人間へのリスペクト溢れる爽やかなラストも最高だ、それになによりクライマックスの異常な多幸感!
障害とか健常とかじゃないんだよ。人間得手不得手ってもんがあるんだよ。得意なことをお互いに見つけたらいいじゃない。できないことよりもできることをやったらいいじゃない。それで世の中けっこうなんとかなるんです。これはもう感動ポルノの名作ですね。あえて感動ポルノと呼ぶ必要はまったくないのだが!

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これもシナリオ構造的にはちょっと『だれもが愛しいチャンピオン』と近いところがあって、労働組合を追放されたアウトサイダーオッサンが精神科病院の閉鎖に伴って作られた形ばかりの精神病患者労組みたいなところにやってくる。で建築の仕事持ってきて患者の人たちにやってもらったら思いがけず素晴らしいものができちゃったみたいな、なんかそういう実話ベースのヒューマンコメディ。面白かったなぁ。

4 Comments
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よーく
2020年1月20日 2:17 午前

いい映画ですよね。ハチャメチャで面白おかしくって、でもちょっとした役者の表情や仕草にグッときたりして。知的障害者の言動をギャグ描写として見せながらも「僕だって自分の子供は健常者がいい」なんていうカミソリみたいなセリフを入れてきたりして。
でも記事の中にもあるけど基本的に陽気な映画なんですよね。もっと陰々滅々とした映画になるような要素はいくらでもあるのに。そういうところでも何か救われた気になるような映画でした。
もうちょい上映館数増えてほしいなぁ。

さるこ
2020年3月11日 6:31 午後

こんにちは。
以前、知的障がい者たちが、物凄いモザイクの床を作った映画があったような気がしたなぁ、と思ってたんですが、ここに紹介されてました!
本作は一見あっけらかんとしてますが、障がい者や彼らを取り巻く世間をおそれない作りに感服しました。
何しろ、愉快でしたね。観て良かった。