虚飾コメディ『ヴィクトリア女王 最期の秘密』感想文

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監督のスティーブン・フリアーズはヘレン・ミレンがエリザベス女王を演じた『クイーン』の人であるから再びの英国王室伝記ものということになるが、それにしても最近のこの人は伝記もの実録ものばかりやっていて、『ヴィクトリア女王 最期の秘密』は2017年の映画ですが2016年は音痴の女王フローレンス夫人をネタにした『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』、2015年はランス・アームストロングのドーピング問題にスポットを当てた『疑惑のチャンピオン』を撮っているので年一ペース。

連続ドラマになるが2018年には“ソープ事件”を描いた『英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件』を放っているから、なんかキャリア初期の頃はいかにも映画マニア受けしそうな渋い映画をよくやっていた気がするが、すっかり大衆作家になったものです。
スティーブン・フリアーズはさしずめ英国の三池崇史といえよう。それは違うか。

で『ヴィクトリア女王 最期の秘密』はヴィクトリア女王の晩年の従者を務めたアブドゥルというインド人の話。
この人はイギリス領インドで刑務所の書記係というか受付係みたいなことをやってたんですが、ひょんなことから同僚と一緒にヴィクトリア女王在位ウン十周年の記念式典で記念金貨を献上する大役を任ぜられる。

なんとか役目を果たしてさぁインドへ帰ろうというところへ王室ストップ。記念式典での振る舞いを見たヴィクトリア女王になぜか気に入られてしまったらしい。
というわけで人生の上昇気流に爆乗ったアブドゥルはあれよあれよという間に王室ヒエラルキーを駆け上がり女王に一番近い存在に。

豪華なお屋敷を建ててもらって家族をインドから呼び寄せちゃってウハウハなアブドゥルだったが、顔に泥を塗られる形となった側近連中や長男バーティ(のちのエドワード7世)からは快く思われず…まぁなんかそういうお話でした。

映画の最後に出るテロップによるとこのアブドゥルに関する記録はヴィクトリア女王の死後、エドワード7世が即位すると破棄されてしまったらしい。
歴史の陰に葬られた史実は最近になってようやく発掘、こうして立派な映画になったというわけですが、しかし苦笑いを浮かべてしまうのは邦題『ヴィクトリア女王 最期の秘密』。原題は『VICTORIA & ABDUL』だからここでもアブドゥルの存在が抹消されてしまった。

まぁ英国的な苦いユーモアの冴える映画だから、それに相応しい邦題ではあった。

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俺はスティーブン・フリアーズの映画が好きなのでもうなんでもオッケー感はあるが、今回のフリアーズも面白かった。
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』とか『疑惑のチャンピオン』なんかに比べるとだいぶ捻りがないストレートな作り。
コスチューム・プレイでもあるわけだから衣装とかセットが目に楽し。お話単純だから頭使わないで壮麗な王室美術を楽しんでくれみたいな気楽な映画だった。

とくに色が良いっすね。発色の良いグラデーション豊かな色彩設計はフリアーズ映画を特徴付けるものの一つですが、絢爛豪華な記念式典とかあとなんか各種の王室の集い(雑)がこうした色彩を得てビビットに映える。
それは作り物っぽさとも言えて、じじつ時代の持つ固有の色とか明るさというのはほぼ考慮されていないように見える。

フリアーズは嘘を愛する作家。個人的にはそのリアリティを欠いたちょっと浮遊感のある画作りも嘘を入れる器として良かったと思う。
女王の周りに寄ってくるのはどいつもこいつも虚飾に満ちた偽善者ばかり。記念式典の晩餐会の場面なんか痛快そのもの。次々と運ばれてくる王室料理を女王は苦虫を噛み潰したような顔つきで糞きったなく獣のごとく食い散らかしていくが、一方で晩餐会にお呼ばれした他の高貴な方々は太宰治の『斜陽』の書き出しみたいな感じで優雅にお食事をなさっているんである。

ヴィクトリア女王に見る英国パンク・スピリット。そういう気取り腐った連中に対する当てつけの意もあって女王はたまたまインドから来た一般ピープルのアブドゥルを重用するが、アブドゥルはアブドゥルで悪意なき詐欺師気質、ちょっと女王喜ばせようとか思って微妙な嘘を重ねているうちに女王の望む虚像になってしまうのだった。
このへんの嘘ツイストの面白さはフリアーズ映画の証。人間はしょせん嘘をつく生き物、との冷めた認識がクールです。フリアーズ映画は業の肯定。

あと面白かったのは直接的には言わないんですが、ちょっとブレグジットで揺れる英国の風刺とか皮肉も含まれてる感じがある。
植民地主義なんて褒められたものではないのだけれども、その根底には統一の意思と使命感みたいなものがあって、ヴィクトリア女王は私はインド皇帝だからっつってヒンディー語を学ぼうとしたりする。

英国は英国で勝手にやっていけばいいじゃん式の逃避願望と比べてヴィクトリア女王はなんと立派に大人の責任を果たそうとしていたことか、と愛国心に訴えながらも一方で現在の英国のありようを批判しているのだとすれば結構テクニカルなことをやっているなと思う。
ヴィクトリア女王のジュディ・デンチ、名演。ちなみにベストキャラはアブドゥルと一緒にインドから来た可哀想な同僚です。

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