奥河内に胸キュン映画『鬼ガール!!』感想文

《推定睡眠時間:45分》

鬼伝説の伝わる大坂・奥河内のご当地キラキラ映画ということでタイトルの『鬼ガール!!』からして『トリガール!』の今更便乗でいかにも安易な企画だなぁと思っていたら原作は『トリガール!』の中村航さんだそうです。あ、そうでしたか。オフィシャルな。なんかパクリ扱いしてすいませんでした。

しかし安易は安易で地方系キラキラ映画がもうほぼ例外なく、というより逆にこれが出てくれば地方系キラキラ映画で出てこなければたとえ主人公が女子高生で高校を舞台にした恋愛絡みのストーリーであっても非キラキラ映画と分類して差し支えないだろう、というぐらいに地方系キラキラ映画の作り手が撮りたがる「橋」「山」「桜並木」が、なんのタメもなく冒頭から出てくる。

とくに橋は主人公の鬼ガールが住んでる家が「鬼住橋」とかいう観光名所的な橋の先にあるので劇中何回も出てきて地方系キラキラ映画屈指の橋推しっぷり。そんなに橋を推してどうする、と言うと当地の人は怒るとは言わないまでもやっぱちょっとムカついたりするんだろうか。でも推してもしょうがないと思うんだよな…橋。山も川もわかりますし桜並木もまぁまぁわかりますが橋、そんなに観光需要とかある? 需要とかそういうことじゃねぇんだ橋は俺たちの誇りなんだよ! ってことかもしれませんが…基本的に通路だしね、橋。いかにも情がなくてノリの悪い模範的に嫌な東京人の回答をしてしまった。すいません。

まとにかくそういうわけで冒頭から「橋」「山」「桜並木」の地方系キラキラ三種の神器、女子高生のチャリ通学などの定番シーンもキッチリ押さえて護摩壇などの地域行事もガッツリ取り入れつつラストは祭り。キラキラ映画としか言いようのない映画なのだが不思議とぶっちゃけキラキラしない。その謎を解く鍵は奥河内出身の吉村大阪府知事が同じく奥河内出身の監督の要望に応じて友情出演を果たしたラストの祭りシーンにあった。

祭りというがこれは伝統的な祭りではなく奥河内映画祭である。護摩壇はまぁ映画に郷土の彩りを添えるものとして見られるが奥河内映画祭て。そんなもの宣伝でしかないじゃないか。つまりそこなのです。ちゃんと独立した原作があるしキラキラ映画の定石を押さえた作りにも関わらずキラキラを押しのけて宣伝臭がすごい、そして郷土愛、いやむしろ郷土ナショナリズムと呼ぶべき色が…濃すぎる! キラキラ映画とくればやはり恋愛は物語の主軸であるべきだがこの映画の場合は愛の対象が人ではなく郷土なのでときめくところがないのだった。じゃあ普段はキラキラ映画でときめいているのかと言われれば必ずしもそうではないが…。

とはいえ『トリガール!』もキラキラ映画とジャンル的にはかすりつつ実質的にはスポ根コメディだったので『鬼ガール!!』の方も見てくれがキラキラだからと言ってストーリーがキラキラしているわけでは意外にない。しかし『トリガール!』に『鬼ガール!!』か。じゃあ次はたぶんまたどっかの地方自治体が金出して『足ガール!!!』っていう雑な感じで歴女っぽい女子高生を主人公に据えた映画でもやるんだろな。そんなことはどうでもいいが。

『鬼ガール!!』のストーリーは筋が複雑ということはないにしても構成要素が多く複層的である。まず主人公の女子高生とその家族が鬼でこの鬼一族はずっと人間にいじめられて来たので鬼の証拠であるツノを隠して生きているがムカついたりエロい異性を見て興奮するとニュキニョキと生えてきてしまうという基本設定はそういうものとして特にツッコミなしで受け入れてもらうとして、どうやってツノを隠しながら学園生活を送るんだろうという点が物語の推進力になるのかと思いきや、その点はそれほど重視されず、奥河内映画祭の出品用に自主映画を作ろうとしているイケメンポジション男子、奥河内に伝わるらしい幻の映画脚本を捜し求めている地味ポジション男子、その父親で世界的映画監督と説明されるが画面に映るのは映画を監督する姿ではなく何故かテレビの企画でイタリアかどっかのワインセラーを訪れている映像(これも何かのタイアップなのだろうか)という映画監督、その映画監督となにやら浅からぬ因縁があるらしい山口智充演じる主人公のシングル鬼ファーザー、鬼ロックを提唱し主にブルーハーツなどをカバーしている奥河内ご当地アイドル的な主人公の鬼妹、などなどを巻き込みつつ最終的に奥河内映画祭で渾身の鬼映画を披露する展開になるがいや要素多いよ、多い。

その鬼映画の中身もちゃんと作るし見せるそれがまた連鎖劇と呼ばれる映画と演劇なんかをミックスした混成劇なので映画内に映画をはめ込む入れ子構造の劇中劇が更に入れ子構造になっている三重の入れ子構造、その上そこで描かれる内容が主人公やそのほかの登場人物たちの抱える傷や葛藤なんかを反映した形になっているのでクリストファー・ノーランの映画ぐらい入り組んだ映画である。

とは言っても混乱していてわけがわからないとかそういうことはない。キラキラ映画にしては長めの120分のランタイムを取っているとはいえこれだけ雑多に詰め込んだわりにはむしろよく整理されていて見やすい。問題は恋愛も青春も伝承も寓意も大坂的コメディも映画愛(?)も全部詰め込んでいるので全部とりあえず入れた感じになっちゃって結果、ラストに来るのが奥河内映画祭ということでなんか宣伝臭い映画だったな~の印象が映画の大体を覆ってしまうのであった。

まぁつまらないとは言いませんが…しかし曲がりなりにもキラキラ映画なら多少はときめきを意識してもらいたかったものだ。そもそも主人公がいわゆるベタな関西ノリの関西女子であり鬼の血筋に由来する過去のいじめ体験を回想する時も乙女チックに傷ついたりするのではなく鉛筆をヘシ折って鬼のツノを出しながら「許すまじ!」と一人でブチ切れる芯のぶっとい人なのでそのキャラ設定でキラキラ的な恋愛展開に持ってくのは無理あるだろ。

そこらへん、主人公がそういう性格の人というのはなかなか新鮮でいいですから相手役の男でも女でもいいですがそちらをキラキラ映画的にベタなキャラとは違った性格付けをすることで一風変わったキラキラ恋愛、キラキラときめきを演出できたのではないかと思うのですが…しかし、まぁ、奥河内の宣伝映画だろうからね。この映画を観て奥河内に行きたくなったりとかはしなかったのでどの程度宣伝効果があるのかは分らないが、作ってるひとたちが奥河内に惚れてることはよくわかりましたので、お幸せにという感じです。僕は東京から見守ってますんで…。

※桜田ひよりがこちらも怪作だった『妖怪人間ベラ』に続いて同じような嫌な女役で出演。俺の場合は観た映画館まで同じだったのでまたかよ感がすごかった。

【ママー!これ買ってー!】


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あるんかい。

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