超絶惜しい映画『屍人荘の殺人』感想文(途中からネタバレあり注意)

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《推定睡眠時間:0分》

映画館を出るときにカップルで観に来ていたヤング客の女の方がすげぇキレてて何度も糞映画と吐き出すに留まらず監督クレジットだけわざわざ手書きになってることさえ面白くねぇんだよと容赦なく腐していた。
確かに監督クレジットがわざわざ手書き、しかもつのだ☆ひろ的によくわからんサインみたいのが入ってているのは面白くねぇんだよ糞がと俺も思う。関係ないが『ウィーアーリトルゾンビーズ』とかも映画の内容は良かったがそういう監督の自意識がめちゃくちゃムカついた。

カップルの女にブチ切れられていたクレジットを書いた監督の木村ひさしという人はネットで検索する限りでは堤幸彦組の助監督としてキャリアをスタートさせて堤のTVドラマ代表作『トリック』のスピンオフなんかで演出に昇格、変な設定のコメディ系TVドラマを中心に活躍して直近では映画『任侠学園』を監督したりしてる人らしい。
なるほど確かに。『屍人荘の殺人』での浜辺美波と神木隆之介(+中村倫也)の探偵/助手コンビの掛け合いは『トリック』の仲間由紀恵と阿部寛、『ケイゾク』の中谷美紀と渡部篤郎、『スペック』の戸田恵梨香と加瀬亮を思わせるところがある。

堤幸彦おもしろいじゃん人間の俺としてはできればそのへんだんぜん支持したかったが、いかんせんこなれてないので面白くないというか、シリアスなシーンでもいちいち無理に面白くないオモシロ要素を噛ませているようで不快でさえあった。堤映画はそのへん、全体的に下らない中に突如シリアスが顔を出すのでメリハリが利いていて面白いんである。これはシリアスもオモシロもどっちも取ろうとして二兎とも逃がした感じだろう。それでもせめてキャラが立っていればごまかせるが、神木隆之介はともかく浜辺美波はキャラが定まらないので物語が進むにつれて映画の焦点が定まるどころかブレていくばかり。

カップルの女がめっちゃキレるのもわからないでもない。俺も観ながらなんでこんなシナリオでオッケー出たんだよって呆れていた。奇抜な設定に、ではないのです。奇抜な設定をまとめる気のなさにというか…もう、あの投げやりなオチとか信じられないね。あれがメジャー映画で通用する日本映画界捨てたもんじゃないなって思う反面、脚本上がってきた段階で誰かそれは全力で止めろよって思ったよ。脚本の問題か演出の問題かは微妙なところではあるけれど。

ただそれでも、それでも嫌いになれない。ものすごく呆れる。ものすごくバカなんじゃないかと思う。ものすごくどうしようもないと思うがしかし、しかし…ものすごく嫌いになれないし、ものすごく感心させられるところもある映画でもあった。
その理由はネタバレなしには書けないのでCM代わりの広告を挟んで以下ネタバレ編へと続く。

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うん、ゾンビと新本格ミステリーね。その発想はなかった。完全になかった。ヤリサーの連中と探偵コンビが野外フェスを観に長野のペンションに行ったらフェス会場で何者かの手によるゾンビパンデミック勃発。ペンションはゾンビに囲まれて中の連中は外に出られなくなってしまい、そんな極限状況の中で連続密室殺人事件が発生してしまう。

吹雪とか嵐とかの理由で外の世界から隔絶された空間で不可解な殺人事件が起こるシチュエーションをミステリーの世界ではクローズドサークルとか言うそうですが、まさかゾンビをクロサーの道具にするなんて。類例がまったくないかというと自信がないが、少なくとも今まで観たことがないし、あるとしても極めて少数なんじゃないだろうか。ゾンビのせいで外に出られなくなった人間たちがエゴをむき出しにして殺し合うというのはゾンビものの定番展開でも、そこでフーダニットを展開するなんて発想の勝利というほかない。

その『シャークネード』ばりの異種格闘技戦をうまく捌けているかというと全然そうではなく、結局はゾンビパンデミックが単なる新本格的フーダニットの背景にしかなっていないのはあまりにも残念なところで、そのうえラジオでテロの可能性が示唆されるゾンビパンデミックの真相や推移が一切説明されることもなく、序盤でゾンビの群れに持って行かれたが具体的な死は描写されていなかったのでもしかしたら生きているのかなと思った神木隆之介の相棒にして愛すべきポンコツ探偵・中村倫也を浜辺美波が真顔でぶっ殺して誰もが呆然としたまま唐突にエンドロールに入ってしまう幕引きには唖然呆然。

70~80年代のイタリアン・ホラーとか香港ホラーでもそんな投げっぱラスト持ってこられたらひっくり返るのに現代の日本映画でその落とし方はありなのか!? 俗悪イタリアン・ホラーを好む人間なので2019年末になってそんなデタラメな光景がシネコンの新作映画で観られたことにはある種の感慨を覚えないこともないが、どう好意的に受け止めるとしても素面ではちょっと考えられない酷いラストであることには変わりがない。本当によくこのラストで通ったなと思う。スタッフが全員ゾンビ化してたんだろうか。

じゃあものすごく感心させられたところはどこかというと、これは前年にサークル女を強姦して自殺に追い込んだヤリサーOBたちがサークル女の妹に殺されていく結構シリアスなお話なのですが、そのサークルOBの一人・古川雄輝の殺されたトリックが、なんと『ゾンビ』のデヴィッド・エムゲがエレベーターでゾンビに襲われるシーンの応用。震えるね。まさかでしょ。いやこれはすごいわ。こんなオマージュの仕方もあるんだって心底驚いた。

で、もう一人のOB・柄本時生の殺人トリックですが、これは目薬にゾンビの血を混ぜてゾンビ化させるというもので、『28日後…』のゾンビカラスの血を目に浴びちゃって感染するあの場面の(たぶん)応用です。『ゾンビ』トリックに比べると創意は少ないですけどこれも意外なゾンビ映画オマージュ。
ミステリー映画として観るとなんじゃこりゃああああああああってなるかもしれない。でもゾンビ映画にミステリーを足したものだと考えると、なんじゃこりゃあぐらいで済む。し、こういうゾンビ映画もあったのかと唸ってしまう。

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彫像をエレベーターまで押していく殺人トリックはもしかするとゲームの方の『バイオハザード』由来かもしれない。ペンションに避難してくる関西弁の男・塚地武雅は『かまいたちの夜』の香山のパロディかもしれない。ゾンビの頭部破壊をレントゲン写真で見せるところはレイティング回避を兼ねた『必殺仕事人』オマージュだ。監督が堤幸彦組の人だけあって小ネタが全編に散りばめられていて、それが面白いかどうかはともかく、面白くしようとしているのはわかる。

それが面白いかどうかはともかく、これは監督というより原作の功績だけれども、使い古された新本格ミステリーのトリック(紐で鍵開けとか、カードキーの入れ替えとか、ステレオの大音量とか)をあえてストレートに採用しておいてゾンビ映画オマージュ・トリックの目くらましにする構成は王道と斬新さを両立させた見事なものだった。

こうして見ると素材は決して悪くないし、むしろ何を映画の主軸にするかの取捨選択であるとか、その関係性を含めて登場人物のキャラをどう見せるかの練り込みであるとか、ゾンビ映画パートとミステリー映画パートの配分であるとか、あとユーモラスなムードの中にももうちょっとゾンビパンデミックの緊張感を持たせるとか、全体的にもう少し、かなりもう少し作り込めばゾンビ映画史の片隅に名を残す映画ぐらいにはなったんじゃないかとさえ思う。

ラスト直前とかね。ゾンビにバリケード破られて生き残りの面々が鐘楼に上ったところで遠くに自衛隊のヘリが見えて、でもそこで誰も鐘を撞かない。序盤の舞台紹介シークエンスで探偵役の浜辺美波が「鐘があるなぁ」とかわざわざ言っていたにも関わらず。
こういうのはダメですよ。あれは切羽詰まったシーンなんだから助けを求めて必死に鐘を撞くべきで、そしたら山の向こうから救援のヘリが現れた! っていう場面にしたらいいんです。地獄からの脱出が印象づけられるし、伏線回収っぽくもなって気持ちいいじゃないですか、そしたら。

そういうところをもっと詰めてやって欲しかったなぁ。ゾンビパンデミックの原因だって戦前に日本軍が開発したゾンビウィルスが由緒正しいこのペンションの倉庫に埋もれてて姉の死によって殺人を決意するぐらい自暴自棄になった犯人がそれを手に入れて撒いたとかさ、それで自分は抗体を打ってるからゾンビを怖がらずに悠々殺人に手を染めることができて、最後は体内に抗体を持つ自分が罪の償いを込めてゾンビの群れに身を投げて彼女を食ったゾンビは正気回復、自衛隊がそれを回収してパンデミック終息、無事ゾンビから人間復帰を遂げたポンコツ探偵・中村倫也が何食わぬ顔で戻ってきて「まぁ私はこうなることを推理していたがね」とか言ってるところをゾンビと間違えた浜辺美波がモーニングハンマーでぶっ叩いて神木隆之介の「明智さぁぁぁぁぁん!!!」の絶叫でエンド、とか。ゾンビ映画としてちゃんと決着はつけないと。

俺は面白かったですけど、でもゾンビ映画の怪作にして傑作になる可能性を存分に秘めていただけに、その粗雑さが本当に残念な映画でしたね。

【ママー!これ買ってー!】


クロックタワーゴーストヘッド

ゾンビとミステリーの禁断の融合といえばシリーズ随一の問題作『クロックタワー ゴーストヘッド』。こっちはゾンビとミステリーに加えて仮面の殺人鬼と超能力と二重人格と代々の因縁と一般家庭の至る所に隠された拳銃とかマシンガンが出る(盛り過ぎ)

↓原作


屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

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