異常ファン映画『ファナティック ハリウッドの狂愛者』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , ,

《推定睡眠時間:ラスト10分》

これはまたえらい映画が来てしまったな。かのクエンティン・タランティーノがすっかり落ち目のジョン・トラボルタを救うために『パルプ・フィクション』の主演に起用したという業界イイ話はよく知られているがこんな映画を観た後ではこれはタランティーノ、トラボルタに再びハリウッド・ドリームを見せた者としてもう一度自作に呼ぶ責任があるんじゃないかとか思ってしまう。

プロット的にはホラー寄せの『キング・オブ・コメディ』のようなもの。ムース(ジョン・トラボルタ)はウォーク・オブ・フェイムで観光客向けに芸でもなんでもないコスプレ芸をして生計を立てているホラー映画マニア。最近のお気に入りはB級スタアのハンター・ダンパー(デヴォン・サワ)で、そいつが馴染みの映画グッズ屋で新刊のサイン会をやるってんでムース大喜び、グッズ屋のオヤジから300ドル(年末返済)でハンターの出た吸血鬼映画の流出衣装を買うとハンターにアピールするためにわざわざ後ろ前で着用していざサイン会へ。

だが、しかし! いよいよ俺の番だと思ったその時、ハンターは家庭の事情で席を外してしまう。いやいやいや新刊も買ったし! サインくれるっていうから買ったし!! 衣装まで買ったし!!! 思い込んだら止らないムースはグッズ屋の裏口で妻となんか話してるハンターに突撃、空気をノーリーディングでサインを求めるが家庭問題で機嫌を悪くしていたハンターにムッとされサインを断られてしまう。どうしてもサインが欲しいムースはスターマップでハンター邸を見つけ出し直接訪問を試みるのだが、そこから事態は思いも寄らぬ方向に転がっていくのだった。

『キング・オブ・コメディ』はロバート・デ・ニーロがTVスタア(ジェリー・ルイス)のストーカー的ファンを演じたデ・ニーロお得意の偏執狂芝居の代表作で、最近ホアキン・フェニックスがジョーカーを襲名した『ジョーカー』がメインのネタ元としたことで思いがけず脚光を浴びたが、主人公の職業が微妙に被ってもいるので同じく『キング・オブ・コメディ』を参照したと思しき『ファナティック』がもう一つの『ジョーカー』になる可能性も少なくともプロットの上ではあった。

最近はすっかりV級仕事しか来なくなってしまったとはいえトラボルタとしてもデ・ニーロの偏執狂芝居に挑戦したい…というハリウッド俳優としての野心がやはりあったんじゃないだろうか。トラボルタ熱演であった。知的能力があまり高くない高機能自閉症のホラー映画ファンをキュートでユーモラスかつ実にこう、身につまされる感じに演じていた…のだが!

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いや笑うよこんなもん! なにこれ! これではまるでトラボルタがアホのようではないですか! トラボルタ真面目にやってるんですよ! 演出もシリアスそのもの! シナリオは報われない者の哀しさと共感に溢れてる! なのに! いやむしろ、だから! 紙一重で傑作の反対側に行っちゃった感がすごい映画だったよ!

逆にその各要素の微妙な噛み合ってなさが奇跡的だったよな。だってあ~この人可哀想だな~とか切ないな~とか、これは怖いな~っていうシーンが全部笑いどころになってしまうんだもの。本当に絶妙なんだよ。ムースが流出衣装をグッズ屋のオヤジから買う場面とかさ、嬉しくなっちゃったムースが衣装を後ろ前で着たところでオヤジが「後ろ前だよ」って言うんですけど、そこまでをほぼカットを割らずに撮るからムースとオヤジのやりとりがボケとツッコミに見えてしまうんです。

でもそれをこの監督は笑える場面としては撮らないわけですよ。あくまでムースの純粋さの表現として撮ってるんです。このズレが可笑しくて…ムース、ウォーク・オブ・フェイムでイギリス警官のコスプレして貧乏暮らししてるわけですけど、それを切実なトーンで撮られてもいやイギリス警官ってなんだよみたいになるよな。

このコスプレでロンドン橋はァ~アチラ~とか口上を述べるんですけどそんなんで稼げるわけねぇだろって思うし、でそれでも暇な観光客がたまに来て写真撮ったりするんですけど、観光客と話しながらボク実はイギリス人じゃないんですって言っちゃって、観光客はそうだろうなって言って憮然とした表情で去って行くっていう…松本人志のコントみたいって思いましたよ。でも狙ってないんだよね。あくまでハリウッド底辺の過酷生活とか、ムースの惨めな日々っていう風に撮る。

それでそういう企まぬユーモア映像の数々にムースの友人の女カメラマンの独白が入ってきて仰々しく「ハリウッドでは誰もが壊れてしまう…でも彼だけは壊れない…」とか「私はあそこで止めるべきだった…なぜ止められなかったのか…」とか言うんですよ。いやそんな深刻な話じゃないだろってなるじゃんそんなの。

それに仰々しく語るわりにこの女カメラマンめちゃくちゃ迂闊なんですよ。サイン貰えなくて落ち込むムースにスターマップ・アプリをダウンロードさせておいてスターマップを参考にムースがハンター宅に突撃したら「ダメ! あれは見て楽しむだけのアプリなんだってば!」ってじゃあそんなタイミングでダウンロードさせるなよ!

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あとスタア・パーティに潜入するためにムースに(裏口のチェーンを切る用の)ボルト・カッターを持ってくるよう言ったらボルト・カッターを知らなかったムースが普通のカッター持って来ちゃったから「じゃあ塀を乗り越えるしかないね」って最初からそれでよかったよ! それで普通に侵入できてたし! なんなんだその無意味なやりとりは!

粗忽なんだよなぁ。出てくる人間が全員粗忽。ムースのターゲットになるB級スタアのハンターも粗忽っぷりがすごかった。サイン欲しさに家にまで押しかけてきたムースにブチ切れるのはまぁそういうこともあるよなと思うが、ムースを刺激するばかりで全然警察を呼んだりしないし、家に監視カメラも警報も付けていなかったので二回も三回も簡単に侵入されてしまう。そんなハリウッドスアタがいるかよ!

杜撰セキュリティに笑っているとまた粗忽な輩が現われる。ハンターと不倫疑惑のあるメイドなのだがこのメイド、家に侵入してきたムースを見つけるとハンターがどっかの映画賞で頂いたと思しきトロフィーを武器にムースを追い払おうとするのだ! 雇い主の大事なトロフィーをそんなところで使うなよ! あと庭の茂みに半身ぐらい出して隠れたムースの横を通りかかって「あら? この手紙は…」じゃないよ! それ絶対見えただろ! っていうかお前も警察に連絡をしろ!

そんな粗忽人間模様を糞真面目に撮ってしまうこの監督フレッド・ダーストは
リンプ・ビズキットのフロントマンだそうでハンターに「やっぱリンプ・ビズキットは最高だぜ」とか言わせたりしてました。バカかお前は。いやバカとか言ったらいかんな。何がしたいんだフレッド・ダースト。真面目にヘボな演出のせいでもうなんかトラボルタいたたまれない感じになってたぞ。

でもね、ぼくこの映画大好き。だって最高じゃないですか? 憧れのB級スタア役が『ファイナル・デスティネーション』のデヴォン・サワですよ。またその劇中劇として流れる出演作の映像が本当にミリ単位も面白くなくて…映画としてどうなのかと思いますが、なんか、グッとこないすか? こないと思うならいいんだそういう真人間は相手にしてないんだ。デヴォン・サワの悲鳴を聞いて「ジェイミー・リー・カーティスを超えた!」と喜ぶトラボルタを見てなんてバカな映画なんだろうと笑いながらでも場合によっては俺も言うねと思える人間のための映画だ。

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だいたい原題からして『THE FANATIC』ですよ。これと同じ原題を持つのが邦題『新マニアック』、ホラー映画マニアのタクシー運転手ジョー・スピネルが憧れの女優キャロライン・マンロー主演で自主映画を撮るべくカンヌ映画祭に潜り込み血と脂の雨が…という、同じくジョー・スピネルとキャロライン・マンローが出演した『マニアック』の姉妹編のような映画ですが、『ファナティック』の劇中にはムースが『マニアック』は傑作だがリメイクは駄作だと切り捨てる台詞があり(ムースの子供時代の回想シーンは『マニアック』オマージュだろう)、へっぽこホラーとして知られる『新マニアック』も当然フレッド・ダーストの視界に入っていたに違いない。

俺は『新マニアック』大好きですからね。あんなにヘボいのに泣けるホラーはなかなかないですよ。感動巨編。だから『マニアック』と『新マニアック』の遺伝子を受け継いだ『ファナティック』もたとえどんなに照明や撮影がヘボくても、キモヘアースタイルのトラボルタの熱演がズルこけしていても、無駄に多い空撮がショボイ物語とまったく噛み合っていなくても、伏線もなにもあったもんじゃない場当たり的シナリオでも、明らかに人目に付くところでムースが死なせてしまいその場に放置した女が偶然にも数日ものあいだ誰にも見つからないというご都合主義的かつ意味のないことこの上ない謎シーンがあったとしても、いやむしろそんなシーンばかりだからこそ、完全にマニア限定でとても面白い映画なのだッ!

※雰囲気的には21世紀の底抜けカルト映画『ザ・ルーム』に近いところがあったのでフレッド・ダースト、間違った方向に才能があるのかもしれない。トラボルタも途中から『ザ・ルーム』のトミー・ウィソーに見えてきてしまいました。

※※パーティに来ていた若手女優に一方的にホラー映画知識を開陳し困惑する女優に「あなたはもっとホラー映画を観ないといけない…」と無邪気にカマしたりハンター宅に置いてあった次回作候補のシナリオを勝手に読んで「なんて酷いシノプシスだ…こんな映画には出るべきじゃない…」だとか批評に入るムースの糞ホラー映画マニアムーブには大いに笑わされますが完璧に他人事ではないので襟を正したい。あと後者は今のトラボルタが言うとなんか味わい深いっすね…なんか。

【ママー!これ買ってー!】


ファナティック(新マニアック) [DVD]

こんなものある意味ホラー版の『ニュー・シネマ・パラダイス』じゃないですか! あくまでもある意味でですが!

2 Comments
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通りすがり
2020年9月16日 3:57 PM

トラボルタ熱演でしたね・・・ヨダレまでたらして・・・!
ブログ主様が「キング・オブ・コメディ」を元ネタとして言及していらっしゃったのでふと思い出したのが、「トロピック・サンダー」でベン・スティラーが出演した劇中劇「シンプル・ジャック」をけなされているシーン。
フォレスト・ガンプは知的障害だけどバカじゃない。でもシンプル・ジャックはただのバカじゃん。などと言われていてかわいそうでしたが、トラボルタも・・・!
にしてもあの女友達、一体何者なんでしょうね。思わせぶりなナレーションもデタラメだし。でも、最後なにげにムースは報われたかのような雰囲気で終わったのでよかったです。