ハードボイルド非正規労働映画『ウィリーズ・ワンダーランド』感想文

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , , , , , , , ,

《推定睡眠時間:0分》

俺も色んな店でコンビニ夜勤をやってた時には泥酔して野菜を盗んでいくリーマンモンスターとか立ち読みを防ぐためにレジの中に置いてあるジャンプをレジに侵入して引ったくり立ち読みをするヤンキーモンスターとか態度が気に食わないからと店の外での土下座を要求するオッサンモンスターとか様々なモンスターに遭遇したが自動車修理費の代わりにたまたま通りかかった町の屋内テーマパーク夜間清掃を任されたニコラス・ケイジが勤務中に遭遇するモンスターはそんなレベルではなく人間サイズの殺人電動人形8体であった。

だがニコラス・ケイジは一度請け負った仕事ならどんなガッカリ案件でも必ずきっちりとこなす男。いやその状況で清掃無理だろうと心の中で笑う俺であったがニコケイは仏頂面を崩さない。まさか…やる気なのか? この殺人条件で清掃を? 完全に想定外の展開であった。殺人人形8体とニコケイのB級ハイド&シーク的デスバトルを期待する俺の舐め腐り目線などまぁ画面の外のことだから当然だが意に介することなくニコケイは清掃用具を持って殺人人形の前で館内清掃を始めたのである。

志村うしろどころではない。ニコケイ前! 前っていうかいやあなた確実に見てますよねそいつ動いたところ!? 見たっていうかっき一体ぶっ殺してましたよね!? う~んそれは清掃やってる場合かな!? あ休憩入るの!? 60分に一回の10分休憩入るのね!? そういう勤務形態なのね!? あれだねコールセンターとかカジノのディーラーとか接客負担の大きい系のお仕事は結構そういうスタイルですよね! いやぁでも今ここでそれはやることかな!? さっきまた別のやつが殺そうとしてましたけどいいのかなそれは放っといて!? でも休憩入るんだ!? それは絶対守るのね?

そうねもう冷蔵庫に休憩時間に飲む用のビール何本か入れちゃったし非正規っていうか非合法労働っぽいけど労働基準法はちゃんと守らないと労働者は心身を壊すし雇用主も罰せられるし良いことないから法定休憩時間はちゃんと取らないとダメだよね。たとえ辺りを殺人人形が徘徊しているとしても定められた休憩を取るのは労働者の権利であり義務だ。いや逃げればいいんじゃねぇかな!? それはあのなんか正面玄関とかは施錠されてるっぽいですけど探せばあるよね割れそうな窓とか裏口とかダクトとか!? っていうかそれも見てますよねあなた!?

だが、ニコラス・ケイジは一度請け負った仕事ならどんなガッカリ案件でも必ずきっちりとこなす男なのだ。どうせ一人勤務で誰も見ていないからと横着をせずにユニフォームを着て作業をし服が血などで汚れる度に替えのユニフォームに着替え60分に一回は10分休憩を必ず取りそして時間が来ればまた清掃に戻るのである。どうやらこの男の目的を勘違いしていたようだ。殺人人形をぶっ殺すのがニコケイの目的ではない。おそらく8時間程度の夜間清掃を定時までに終わらせるのがニコケイの唯一の目的であった。決して殺人人形と戦っているのではない。渡り廊下で人形を死ぬまで殴るのは身に降る火の粉を払っているだけのことだ。ハードボイルドである。あとヒロトである。

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世の中にはしょうもないしそんなに面白くもないのにかなり最高な映画というものが存在するが『ウィリーズ・ワンダーランド』そういうやつ。パーティの残りカスの散乱するテーブルを片付け雑巾で拭き上げた後に椅子を等間隔でテーブルの上に並べていくニコケイ、汚物と黄ばみと落書きで原型を留めないトイレの便器一つ一つを丁寧にスポンジで磨き上げ壁の落書きを根気強くクリーナーで消していくニコケイ、60分に一回の休憩に入ればビールを片手にピンボールで一人めちゃくちゃ盛り上がって踊り出してしまうニコケイ、理由もなく強すぎるのでそのうち清掃の邪魔をする殺人人形と戦うのが面倒くさくなって通りしな雑にぶん殴って済ませるようになってしまうニコケイ…完璧に最高である。

こんなに正しいお仕事映画がかつてあったかと思ってしまうよな。もはや面白いとか面白くないの話ではないですよこれは。だってもっと映画面白くしようと思ったら清掃シーンとか最初に設定見せ的にちょっとだけ入れて後は殺人人形バトルとかホラー演出をずっと見せるもん普通。これは違うからな。ニコケイと殺人人形のバトルの背景に清掃があるんじゃなくて清掃の合間に殺人人形バトルだから。もういいよニコケイが清掃してるのだいぶ見たよ10分ぐらい見たよと思うがまぁだ清掃するしまぁだ何度も何度も休憩する。

大手資本のバイトに行くとガイダンスで教本ビデオを見せられたりするがこの映画は俺が今まで見てきたT○HOシネマズさんやダ○エーさんや清掃各社などなどの教本ビデオのどれよりも懇切丁寧に仕事内容および社のイメージを映像化して観てるこっちに伝えてくれていたし、教本ビデオは往々にしてクレーム対応や服装の注意など会社が損をしそうな事柄については細々と解説して時間を割くくせに労働者が働くに当たっての最重要ポイントといってよい休憩にはほとんど触れないが、『ウィリーズ・ワンダーランド』は休憩と休憩中のリフレッシュがいかに大切か執拗なまでに教えてくれるという点で教本ビデオを超えている。ホラー映画なのに教本ビデオと競うのがそもそもおかしいのだがこれはそういう異次元の映画なのである。

近年のニコケイは『マンディ』や『カラー・アウト・オブ・スペース』など観客を異次元に飛ばしてばかりいるがそっち方向の異次元があったかと目から鱗、しかしこれは確かにニコケイにしかできない異次元飛ばしだろう。どんなにクソみたいな現場でも与えられたアホみたいな衣装を文句一つ言わずに着て自らの役割を粛々とこなす。この名前さえない臨時派遣清掃員の鬼気迫るお仕事っぷりにはニコケイの俳優人生が重なってしまう。そしてニコケイもこの名前さえない臨時派遣清掃員もどんなに人からバカにされようが見下されようがどこ吹く風でその生き様をクールにエンジョイしているのである。こんなに労働教本ビデオの主役として説得力のあるハリウッド俳優は他にいないに違いない。

非正規労働者かくあるべしをたくさんの血糊(?)と殴りとフェイタリティと休憩を交えて楽しく教えてくれる『ウィリーズ・ワンダーランド』、すべての非正規労働者と雇用主必見の教育映画であった。ちょっと締め方がおかしいような気もしますがまぁおかしいのは映画の方なので…。

※ちなみにかなり笑いました。

【ママー!これ買ってー!】


大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A

一言も触れませんでしたが『ウィリーズ・ワンダーランド』の中でも大学生と見られる若者たちがニコケイの勤務先で殺人トラブルに遭っていたので事前にお仕事のトラブルQ&Aを調べておくことは大切です。知ろう労働法、守ろう労働法。それで殺人人形に対処できるかはともかくとして。

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