『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』に浸る感想

《推定睡眠時間:0分》

なんかドラッギーな映像が云々とか聞くのでアッパー系の映画かと思いきやドラッギーはドラッギーでもダウナー系、どろ~んと沈み込むような映像世界でオープニング曲がキング・クリムゾンの「スターレス」序曲(のみ)というのはなにか示唆的。

エモい。要するにエモい。俺はメタル者ではないのでこの映画のメタル感とかはあんまよくわかりませんが、メタルの精神性というかメタルの臭さは存分に吸い込んだ気がしますよ。
メタルは演歌、演歌はポエム、そしてポエムはメタルです。臭い! でもまぁこの臭さがたまらないという人はたくさんいるんだろう…。

ニコラス・ケイジは44Tシャツと恋人マンディをこよなく愛する素朴な木こり。マンディと一緒に絵を描き本を見、星を眺めて詩を詠む日々。それだけあればなにもいらない(平安貴族か)。
だがその平穏も長くは続かない。ドラッグとセックスで女たちと地元のバイカーを支配するマンソン的なヒッピー・カルトの教祖がたまたま目にしたマンディにギャン惚れ。惚れるというか屈服させたくなったので手下に命じて拉致ってくるのだった。

お薬でヘロヘロにしたマンディの前に全裸で仁王立ちの教祖。どうだ! みたいな感じで迫るがマンディ屈服するどころか馬鹿にしたような笑みを崩さない。
自分こそ教祖のナンバー1だと信じて疑わないカルトの女たちも教祖のド浮気にパニックだったが負けず劣らず教祖もパニック。
なぜだぁぁぁ! なぜ屈服しないんだぁぁぁ! 怒りのあまり顔射前提でオナニーを始めてしまう教祖であった。

ちょっとふざけている。ちょっとふざけていると思うがムードは真剣そのもので笑える感じじゃないのでこれがメタルか…と恐ろしくなる。
いやでもロード・ウォリアーズを呼び出す時のカルト兄ちゃんのウィンドウ上げ下げとかオフビートな笑い結構狙ってるよな所々で…。

それはさておき。なんの瑕疵もないのにマンディ奪われてニコケイ、超落ち込んで超怒る。ぶっ殺す。
何者だか全然わからないトレーラーハウス暮らしの賢者的な人を訪れて一度は置いたはずのハンティング・ボウガンを再び手に取る怒ニコケイ。

足りん! それだけでは奴を殺るには足りない! 経緯はまったくわからないが(わからないことだらけだ)怒りのあまり賊討伐のスレイヤー・アックスをDIYし始めてしまう怒ニコケイ。
ボウガン。アックス。だがまだ足りない。何かが足りない。奴を殺るには…いや、あった。

教祖秘蔵の瓶詰めスーパー・サイケデリックスをうっかりちょい舐め(なんでそんなものを舐めるんだ)してしまった怒ニコケイはついに覚醒、インナーユニバースに潜行し虎を解放して教祖との対決に向かうんであった…なにを書いているんだかよくわからないが。

いや面白かったんですけど俺すげぇ納得いかないのがこれでニコケイ復活とかなんとか一部で言われたり言われなかったりしていることで、復活もなにも毎年3本も4本も出演作が公開されてんだから復活復活騒いでるお前らの横にずっとニコケイ居たっつーの。

あとニコケイの演技的特質を評して顔芸顔芸と悪ノリする人ね。いや顔芸もあるかもしれないけど、『マンディ』のニコケイわりとそういう感じですけど、それだけじゃねぇだろニコケイの良さ…っていうのはいつも思ってることで。

もうなんか段々腹立ってきたな。別に『マンディ』悪くないんですよ。『マンディ』悪くないけど『マンディ』と同じくらいニコケイが良い芝居してる映画とか最近でも全然あるだろって思うし、ニコケイの演技幅を顔芸の一言に狭めるなよって思いますよ。

っていうか俺が好きなニコケイそういうキレの部分とか動の部分じゃなくて哀愁を帯びたフォルムとか切なげな眼差しの部分なんですよ…最近ので言ったら『パシフィック・ウォー』のマクベイ艦長とか『ヒューマン・ハンター』の低所得者狩りの小役人とかすげぇ良かったですよ、そういうところ。

代表作的な扱いの『リービング・ラスベガス』だってぶるぶる震えてる末期のアル中ケイジよりも序盤でラスベガスをふらふら揺らいでるケイジの方が全然魅力的ってなもんです。そこにエリザベス・シューも惚れたんでしょうがっ!

『マンディ』エモ吐き出し系ムービーだったから俺も吐き出したぞ色々。吐き出したら…わりと何も残らなくなってしまった。
空気に浸る映画だから、空気に。どこがどうすごいとかおもしろいとかそういう話じゃないんですよ『マンディ』、映画館であの抒情アシッドな空気に浸らないと意味ないんですよ。映画館出たらむしろ普通の映画だよ。LSDと同じだよ! ぼくはドラッグの類いは一切やったことがありませんが…。

でも見ている間は確かに気持ちいいのだ。メタル的にデザインされた章題とアシッド的な映像処理、変則ペースで時間の感覚もなんだか溶けていく。オールナイトとかで見たら脳にクるだろうな。
そういう映画、そういう『マンディ』。そういうニコラス・ケイジであった。

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インスピレーションの源は『マンディ』と全然別なのでしょうが不思議と似たようなところに着地した感のある80s俗悪映画オマージュもの。
監督のジェイソン・アイズナーは家族もろとも伐採されたクリスマスツリーが人間に復讐する短編ホラー『Treevenge』で知られるが、そういえば『Treevenge』の冒頭は木こりが木々にチェーンソーを振るう場面だった。

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