未体験映画2022感想文『マザーズ』ほか二本

未体験2022も気付けば後半戦です。今年は結構頑張ってる。がんばって土日で他の映画も含めて10本とか観てたらかなり体調を崩したので来週からはのんびりと面白そうなやつだけ観ようと思います死ぬ。

『人狼ゲーム 夜になったら、最後』

《推定睡眠時間:30分》

おもしろい感がまったく見えない邦題ですけどこれは快作、雪に閉ざされた小さな町で謎の殺人やら器物損壊が多発してどうやらこれは人狼の仕業、いったい誰が人間に化けとるんやというフーダニット展開になるので確かに人狼ゲームです。まぁとにかくこの町ときたら住民がクセモノだらけ。町の入り口には汚れた主観をできる限り抜いて客観的に見てもやはりティンコに見えてしまう怪しい形状のようこそオブジェが置いてあるぐらいなのでちゃんとした町ではないことがわかります。そのうえ企業誘致か自然保護かでなんか揉めたりしてますし事件の臭いしかしませんね。

主人公は新任レンジャーでクセモノ住民に翻弄されながらも唯一の常識人ぽい郵便配達人と一緒に謎事件に挑む。この郵便配達人が可愛いんだよな~。一緒に酒を飲んだら確実に楽しいタイプの人。で主人公も絶妙なダメさ加減でなかなか愛せる。あこれちなみにジャンル的にはコメディタッチのミステリーで少しだけアクションとホラーの隠し味って感じです。基本的には住民同士の諍いだしあんま人狼がバリバリ襲ってくる映画ではないのでその点はもう一声と思いはしたが、味のあるキャラクターたちと軽妙洒脱な会話と次から次へと事件が起こるハイテンポで、楽しい映画になってました。

※あとこれUBIソフトが出資しててあそこ映画とか作るんだってちょっと意外だった。ゲームの映画化とかなんだろうか。

『スターフィッシュ』

《推定睡眠時間:20分》

これキャパ160席ぐらいのシアターで満席回が出るほどの盛況っぷりで、未体験2022の中でも非常に注目度が高かった作品であることが窺えますが、うーんどうかな、俺はそこまでハマらなかったですねぇ。親友なのか恋人なのか片思い相手なのかを失ったヤングウーマンがビッグ喪失感を抱えて親友宅に無断侵入するといつの間にか外は『ミスト』みたいな怪物の徘徊する無人世界に。いったいなにが起こったのか…その答えは親友がヤングウーマンのために作ったミックステープにあった。「世界を救うために、町中に隠した7本のミックステープを探して。あなたならきっとわかるはず」で主人公は怪物の徘徊する無人街に繰り出すのでした。

テイスト的にはウィリアム・ユーバンクの『地球、最後の男』が近い。ゲームでいえば『サイレントヒル』と『サイレントヒル2』。感傷的な映像と叙情的なBGMが織りなす摩訶不思議な沈痛小冒険はまたA24の癒やし系おばけ映画『ア・ゴースト・ストーリー』も彷彿とさせる。心にぽっかり穴が空いた人の心象風景を眺める映画で、そのメランコリーに同調できる人にとっては号泣ものではないだろうか。こんな非現実的なストーリーだが冒頭には「実話に基づく」のテロップが出る。誰にとってのどんな実話なのかと考えれば、ラストシーンの含意もわかるだろうか。

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『マザーズ』

《推定睡眠時間:0分》

テレビもねぇ電気もねぇ水道もねぇオラこんな家大好き! という森の中に住む風変わりなニューエイジ自然派夫婦が住み込みのお手伝いさんを雇う。最初こそ(こいつら頭どうなっとんねん)的警戒心を抱くお手伝いさんであったが徐々に打ち解けてやがて流産した自然派夫婦の代理出産依頼を快諾するまでになってしまう。お手伝いさんには息子が一人いるので他人の卵子と精子とはいえまぁ二人目も大したことねぇだろとタカをくくっていたのだが、しかしこの胎児どうも様子がかなり異常。更には自然派夫婦の妻も異常。完璧に体調が狂って死にそうなのに家に帰してはもらえず家族とも連絡させてもらえず半ば軟禁状態になり、いよいよ追い詰められたお手伝いさんはある決断をするのだが…。

『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシがそれ以前に手掛けたオカルト風味の妊娠ホラーで、いやぁこれは力作って感じだな~。どう撮ったのっていうシーンがいくつもあって、一つはこれお手伝いさんがどう見てもメイクじゃなくてリアル妊娠してることがわかるヌードシーンがある。さすがに全てのシーンでそうとは考えにくいので(最初の方は腹膨れてないし)、撮影後か本撮影前の役者さんが妊娠したタイミングでそのシーンだけ撮ったんだと思うんですけど、それを撮ろうっていうのがまずすごいよね、監督も役者さんも。カメラワークとか編集である程度誤魔化してるとはいえ結構激しい動きしてましたし。

あともう一つ、これも唸ったのは残念ながら日本版ではモザイク処理なので直には見えないんですけど、おそらく妻の人が夫の人とフィストファックをしているシーンがあって、お国柄の違いっていうかさ、こんなの日本ならまずできないよね。でもこの映画それをやる。誤魔化そうと思えばいくらでも画面外処理とかで誤魔化せるのに、実際に撮っちゃうんですよね。しかもエロシーンとかじゃなくて悪夢のシーンとしてですよ。そのへんに作ってる人たちの並々ならぬ熱意が見えますよね。

で内容的には『ローズマリーの赤ちゃん』meets『シャイニング』みたいな。これが面白いのは赤ちゃんの正体を明かさずにあくまで淡々と進行することで誰が何を目的に赤ちゃんを産ませようとしているのか、あるいはさせられているのかがわからない、そういう変格フーダニットの趣があって、ドキュメンタリーと見まごうリアリズムのタッチとの相乗効果で不穏ムードが横溢してる。そこに先に挙げたよく撮ったな系のシーンが唐突に入ってきたりするからギョッとさせられるし、物語がどこに向かっているのかよくわからない中でいつの間にか登場人物の正邪が反転していたりしてもう何を信じていいやらで、怖いですねーこれはー。それを怖いぞ怖いぞ的には撮らないところが逆におそろしい映画でしたねー。

【ママー!これ買ってー!】


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アリ・アッバシという監督は人間の生理とか生殖行為をテーマに作品を撮る変わり種のようで、『ボーダー』も生殖から人間とは何かを問いかけるユニークな大人のファンタジーだった。

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