大乱闘スカイブラザーズ映画『シャドウ・イン・クラウド』感想文

《推定睡眠時間:0分》

グレムリンの映画である。グレムリンといえばギズモが可愛い『グレムリン』だが映画の独自設定てんこ盛りだったあちらと違ってこの『シャドウ・イン・クラウド』は時代背景が第二次世界大戦中ということでオリジナルのグレムリンに近い設定、オリジナルのグレムリンがどういうものかというのはアヴァンタイトルの短編アニメを見ればわかる。イタズラ好きなグレムリンは飛行機の機械を壊してパイロットを困らせる。極限の孤独と緊張を強いられる飛行機乗りの生み出した逃避的な空想、都市伝説のたぐいだろう。

それにしてもアヴァンタイトルがアニメとは洒落ている。このアニメはカートゥーンで飛行機乗りがグレムリンを叩きのめす内容の要するにプロパガンダ。第二次大戦中といえばディズニーを筆頭に戦意高揚目的の敵をやっつけろ的なアニメがバリバリ制作されたが(日本でも作られた)そういうやつは単品で上映されるのではなく映画本編が始まる前の添え物としてニュース映画なんかと一緒に流されたので、これはそのパロディというわけ。わあ! なんだか『スターシップ・トゥルーパーズ』みたい!

さて物語の幕が上がるとニュージーランドの空軍基地にトップシークレットらしい謎の箱を抱えてなにやら急いでいる女兵士がおる。この人はクロエ・グレース・モレッツなのだが「あの! ちょっとすいません!」と兵隊と思しき人物に声をかけるとなにか違和感が。ちょっと声高くない? もうちょっと迫力ある声じゃなかったっけクロエ・グレース・モレッツって。ニュージーランドが舞台ってことは吹き替え?

気になるところだがそんな疑問は完全無視して物語は進む。離陸直前のB-17爆撃機になんとか乗り込んだクロエちゃんであったが予定にない突然の搭乗に乗組員の態度は劇的に冷たくほとんど敵兵扱い。「女なんて乗せやがってよぉ!」「おい! 誰がヤる?」「あいにくお前の席はねぇんだ球形銃座に入ってろ!」…セクハラ・パワハラの集中十字砲火についにクロエちゃんがキレるとおお、その声色は! それこそクロエちゃんの声! どうやらトップシークレットの箱をつつがなく運ぶためにあえて下手に出ていたクロエちゃんなのだった。

クロエちゃんが本気を出したのでこれで懲りたか男どもと思いきやしかし! こいつらクロエちゃんが球形銃座に入って出られないのをいいことに「お~こわ!」「怒らせちまったなぁ~へっへっへ」と悪びれる様子がまったくない。舐めとるのかお前らクロエちゃんは空軍将校やぞせいぜい二等兵のお前らカスと違って。そんな舐めスタンスなのでクロエちゃんが接近する零戦を発見しても「おいおい、幻覚でも見てるんじゃねぇのか~」と聞く耳を持たず案の定被弾を許してしまう。

なんだこの映画は! ちくしょう許せねぇクロエちゃんそいつら全員殺して生首を串に刺して実家の玄関前に置いてドアを開けた父親をショック死させろ! と思っていたらグレムリン出現! グレムリン、零戦、そして機内ボーイズクラブ! クロエちゃんはたった一人でその全てと対峙することになるのであった…まぁでもクロエちゃんなら余裕だよな!

上映時間90分にも満たない短い映画だがその半分は球形銃座に閉じ込められたクロエちゃんの一人芝居。無線から聞こえてくる機内ボーイズクラブのハイパー女見下し会話に血管をぶちぶちいわせているところで翼にぶら下がるグレムリンらしき何かの影を目撃する…というあたり『トワイライトゾーン』(『ミステリーゾーン』)の名作エピソードで元祖グレムリンものの『二万フィートの戦慄』を彷彿とさせる密室心理サスペンスで、声だけ聞こえる機内ボーイズクラブの方も予想外の零戦の襲撃に動揺しクロエちゃんとクロエちゃんの持っていた箱を巡って疑心暗鬼に陥っていくってなもんでこれはなかなかハラハラしますね誰の何を信じたらいいのかわからなくて。

ところが! そういうトーンで進む映画なんだな面白いなと思ったらそうだなぁ上映時間の半分を過ぎたあたりかなぁクロエちゃんが覚醒すると共にガラリとトーンが変わってびっくりした! それまでは男社会の中で働く女の人が経験しがちなイヤガラセと悪条件のツラさが執拗に描かれるものだから基本シリアスで笑うところなどなかったがクロエちゃん覚醒後は苦笑失笑憤笑そしてイェイッ☆の連続! ブチキレたクロエちゃんは『ホームアローン』みたいな攻撃手段で宙を舞うグレムリンを撃墜しようとするし命がけのSASUKEに爆撃機上でチャレンジするし落っこちたと思ったらそんな『大乱闘スマッシュブラザーズ』じゃあるまいしみたいなミラクルで機内復帰を遂げてしまう!

前半の一人芝居パートで溜まったフラストレーションを一気に吹き飛ばしてくれる後半のパワフルなバカバカしさはまったく痛快、グレムリンとステゴロでタイマンを張り破れた軍服を口で引きちぎって引き締まった二の腕を「えぇ…」ムードの観衆(ボーイズクラブ)に誇示するクロエちゃんを見ては別に悪いことはしていないはずなのに先輩すいませんでしたと謝りたくなってしまうほどだ。

このバカとシリアスと社会風刺とイェイッ☆のなんとも凸凹した食い合わせ。音楽も80年代調のシンセサウンドで妙に場違いで可笑しい。『二万フィートの戦慄』が元ネタの映画だけあってなかなか奇妙な味わいのある現代版『トワイライトゾーン』のような、あるいは後半パートのわちゃわちゃ乱戦っぷりからいって実写版『大乱闘スマッシュブラザーズ』のような映画でしたなぁ。

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飛翔作家アレックス・プロヤスの原題『SPIRITS OF THE AIR, GREMLINS OF THE CLOUDS』というオーストラリア映画。オーストラリアとかニュージーランドとかあのへんにはグレムリンになにか特別な思いがあるんだろうか。

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