映画『マルリナの明日/殺人者マルリナ』感想文

《推定睡眠時間:3分》

上映終わった後にロビーでチラシを見ていたら「ほぉ…ちょっと、拝見させていただいても?」「どうぞ」「ははぁ…確かに本物ですねぇ…いやぁ素晴らしい」みたいなオッサン二人のやりとりが聞こえてきてそんな鑑定団会話リアルにあるのかよって思った。映画の方もなんでも鑑定団に出したい感じの珍品でしたね。ひどい文の繋ぎだがどうしても鑑定団エピソードを書き記しておきたかったので…。

それにしても驚かされるのはほぼ未開拓の荒涼風景。主人公のマルリナは夫と二人でそこ以外に人工物が見えない丘陵地に居を構えていて(いた)、で色々あって街へ行く展開になるんですがその道中にもまた何もない。幌馬車みたいな乗り合いバスが唯一の動くものとして未舗装路を走っているがバスっていうかトラック。街に出たらさすがに何かあるのだろうかと思ったら街にも無人の雑貨屋兼食堂(客が来ると外で遊んでる子供が応対)と警官が四人ぐらいしかいない小さな警察署しかなかった。
畜産は数少ない生活の手段であり家畜は僻地コミュニティで実質的に貨幣の扱い。世界の広さを極限まで狭い世界を通して思い知らされる。

世界が狭ければ物語も狭いので超ミニマムな全四章。第二章のタイトルとか「旅」ですがマルリナが家でぶっ殺したギャングの首持ってバスに乗って例の警察署に行くだけ。マカロニ・ウエスタンの意匠を借りていることから絶対に定着しなさそうな「ナシゴレン・ウエスタン」の惹句が付いているが、そのマカロニ・ウエスタンだったらワイプで全カットするような過程を20分ぐらいかけて描き尽くすんだからすごい。それも『ガルシアの首』みたいなサスペンスとかドラマ込みでのものではなくて日常の光景として。

こういう生活を送ってる人っているんですよ的な。インフラも整ってないし仕事もないし生活の余裕が完全にマイナスだから職業選択の自由とか結婚の自由とかそういうのないっすよ的な。金になることといったらギャングの仲間になって悪さをすることぐらい。立ち向かうために出来ることといったらナタで首撥ねてぶっ殺すことぐらい。行政から半ば見捨てられた無法地帯を現代の西部に見立てて、ウエスタンなミニマム受難とミニマム復讐劇をフェミニズムの観点から再構築しているわけだ。なんか批評的な映画っすね。

テーマは硬いがどことなく間の抜けたオフビート仕様。野菜を切る感覚の首チョンパ、撥ねられたギャングの首なし幽霊の怪、等々クスっとくる。
そんなにおもしろい映画だとは思いませんでしたけど味のある映画だったとおもいます。マカロニ調のサントラも良。

【ママー!これ買ってー!】


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これぐらい静かな映画。

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