映画二本立て感想『サンセット』『天国でまた会おう』

1913年のブダペストと1918年のパリが塹壕でワームホール接続される映画2本。『サウルの息子』の監督によるなんじゃこりゃ的難解作の『サンセット』と国家に使い捨てにされた兵士ふたりの痛快ギャフン劇な『天国でまた会おう』です。

『サンセット』

《推定睡眠時間:30分》

なんの話か完璧にわからなかったと書いてもまたまたご冗談でしょうと忖度解釈してしまう人もこの世にはいるので最初20分ぐらい寝てしまったら登場人物の関係はおろか名前もわからず途中で主人公の女の人が誰かを殺すのだがそいつが誰なのかもわからないしなんで殺したのかもわからないしそもそも死んだのかもわからない、つまり完璧にわからないとはそういうことだと念を押しておく。完璧にわかりませんでした!

いや参ったね。それであまりにイミフだったので映画評論家・大寺眞輔の解説というのを読んでみたんですが、読んでみたところで結局映画の中で何が起っていたのかわからない。ちょっとわからなすぎるだろう!
いや怒ってそう書いてるのではなくてびっくりしてそう書いているんですが、まぁ、しかし、上の解説によると監督自身が合理的に理解できるように作ってないよと言っているので、わからないというのもこの映画に対しては褒め言葉だろう。
絶叫上映とかやったら面白いかもしれない。みんなで「えー!?」「今これなにやってんの?」「お前誰だよ!」「わからねー!」とか叫びまくるの。なんか劇中でも暴徒が叫びまくってたから映画のトーンには合っている。

ストーリーがわからないので映像と音を観ることに専念。映画を浴びながら俺の頭に浮かんだのはロシア睡眠派の映像詩人アレクサンドル・ソクーロフが手掛けたドストエフスキーの『罪と罰』の映像化とは完全に完全に名ばかりのSF的映像詩『静かなる一頁』と、こちらもロシアの汚物派映像詩人アレクセイ・ゲルマンがスターリン体制末期を描いた『フルスタリョフ、車を!』で、前者は独特の音響設計(距離感が著しく歪んでいて、会話は全てモノローグのように聞こえ、環境音的な雑踏の声は前へ前へとせりだして主人公の存在を脅かす)が『サンセット』っぽい、後者はどこがどうとか言いにくいが…猥雑で混沌とした雰囲気がなんとなく似ている、気がした。

冒頭の水彩画(なんか有名な絵なのだろうか)に陽が落ちていくところから何故か連想したのはフランシス・ベーコンのぐにゃぐにゃ人体絵を引用したベルナルド・ベルトルッチ『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のオープニングなのだったが、考えてみれば『静かなる一頁』も『フルスタリョフ、車を!』も『ラスト・タンゴ・イン・パリ』も、『サンセット』同様に(?)なにか時代の終わりとかそこに生きる人々の混乱した精神を描くような映画だったので、意識の方ではまったく映画についていけていなかったが無意識の方はわりあい映画を観ていたんだなぁとか変に感心したりする。

お話はよくわからんが、いやまったくわからんが、前述の音響設計であるとか被写界深度檄浅な朦朧映像なんかが醸し出すおそろしくも(暴徒の襲撃場面がこわいんだよ)うつくしい世紀末的ムードにずっぷり浸れる、そんな感じの映画体験だった。よかったとおもいます。

『天国でまた会おう』

《推定睡眠時間:0分》

『サンセット』は死相を浮かべた兵士で溢れる第一次世界大戦中のどこかの塹壕にカメラが入っていく(それがまた素晴らしい画)シーンで映画が終わるのですが、大戦末期・西部戦線のヘル塹壕から映画が始まるのが『天国でまた会おう』。
塹壕映画に外れなしの俺法則によりこれもたいへんおもしろい映画だった。お話のメインは社会復帰が絶望的な復員兵二人組+貧困キッズの一大ギャフン計画なので戦争映画という感じではないのですがー、『西部戦線異状なし』ばりの白兵戦は迫力満点。開始5分でもう傑作の内定をあげてしまう。

そのヘル戦場で何が起ったかというと主人公の一兵卒アルベールが悪徳上官の味方殺しを目撃、これはと思ったところで砲撃を食らって生き埋めになってしまう。あぁ、あいつの悪行を抱えたまま墓に入るのか…とそこへヤング兵士エドゥアール登場、アルベールを見事救い出すのだがそのせいで彼は顔面に大打撃を受けてしまう。

なんとか生きたまま休戦を迎えることができた二人だったがエドゥアールは口から下が崩壊、国費でカッコイイ人口顎みたいの着けられますよと医者に提案されるも拒絶、彼のメンタルはすっかり死んでいた。
どうせメンタルが死んでるのなら死んだことにしてしまえ。恩人エドゥアールの頼みを断れないアルベールはエドゥアールの死を偽装、かくして二人は上辺だけの復興平和ムードに背を向けて、戦争で儲けた資本家どもと国家に復讐すべく一計を案じるのだった。だがそこに例の悪徳上官の影が。

突飛なギャフン計画が色んな癖キャラを巻き込んでゴロゴロ転がって行く痛快ストーリーも面白かったが、その首謀者が仮面の男っていう『オペラ座の怪人』感、グっときますね。
アーティスト気質のエドゥアールは顎の欠損を隠すために自分でエキセントリックな仮面を作って被る。どうせ国費なんだし素直に人口顎もらっとけば良かったのに、とか思ったが国のせいで死にそうになったんだから国なんか信用できるかよっていうのもあるだろうし、それにこの人はたぶん、そんな上っ面だけの処置で戦争の傷(と、後々わかってくるプライベートな傷)を忘れたくはなかったんだろう。あの仮面は陽気でかなしい。それはまた映画全体のトーンでもあった。

哀感を帯びたユーモアと空想的なアナーキズムはなんとなくジャン=ピエール・ジュネみたい。ジュネの『ロング・エンゲージメント』もそういえば塹壕映画だったなぁと思い出す。あまりおもしろくなかったので内容は思い出せない。

【ママー!これ買ってー!】


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『静かなる一頁』のリンクを貼ろうと思ったらDVD・Blu-rayになってない。BGVとして最高なのでむしろ家で観たいんですが…。

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