ドリアン映画『オーファンズ・ブルース』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『パラレルワールド・ラブストーリー』を観てから僅かなインターバルしか置かずに映画館に入ってしまったのでぶっちゃけ観る前から(『パララブ』の出来によって)テンションはかなり低かった。
映画が始まって35分ぐらい、とにかくずっと帰りたい帰りたいと思っていたがそれは『パララブ』のせいもかなりある。映画の名誉のために一応それは書いておきたい。他作貶しにより逆に名誉を傷つけている気がしないでもないが。

ともあれ帰りたかったのは事実であるし『パララブ』の後遺症もあるにしても俺は今観ている映画に対して帰りたいと思ったのだ。そのことは変わらない。もう本当に本当に帰りたかった。完璧に嫌だった。
断片的で暴力的な編集、シーンの主体になる人物や小道具をあえてフレームから外すカメラ、噛み合わず意味をなさない会話、同じ台詞の単調な反復、シーンとシーンを繋ぐブリッジの部分にあえて時間を割くオフビート感覚、具体性の欠如を詩情と履き違えた腐れアートフィルム趣味、プロットのためだけに用意された(かのような)キャラクター設定のデリカシーの無さ、自然体に見せようとする芝居にまとわりつく技巧のあざとさ、タバコを延々吸うシーンをカッコイイものとして提示する糞前時代センス、それらすべてを「無国籍感覚」とかいう都合の良いワードでごまかそうとする(かのような!)作家的不誠実…俺がどれだけ本気で途中退出したかったか、これだけ書けばたぶんわかってもらえると思う。

でも良かったですよ、そこで帰らないで。これもひとつの『カメラを止めるな!』だ。内容的にではなくて最後まで観ると大いに報われるという意味で。
俺が『カメ止め』の魅力をタネ明かしの部分よりも序盤のワンカットゾンビ映画の部分に感じるように、上に書き連ねた『オーファンズ・ブルース』の強烈な90年代和製作家主義映画風味に魅力を感じる人もきっといるのだろうが、そのすべてが辛かった俺にはこうした臭みの一つ一つが最終的には伏線としてシナリオに回収されたことは大いに救いだった。

なるほどね、そういうことか。こりゃうまいことハメられた。なんだか悔しいが辛さを乗り越えた分だけカタルシスも大きい。不快な演出も使いようだ。
ネタとしてはまぁ、かなり有名な先行作品が何本かあるのであれなのですが、途中まではお前ら全員死なないでもいいけどトイレなしの夜行バスでの移動中にお腹が痛くなって漏らすぐらいはしろと思っていた不快な登場人物たちが胸の内に秘めたものが明らかになって、そのなんでもない笑顔であったりつまらない戯れであったりふとどこか遠くを眺める眼差しの切実さに気付いたときに、不快のすべてはまったく別の感情に姿を変えてしまう。

観終わってから反芻すればタバコ演出の糞ダサささえエモーショナル。無国籍感という一種の映画的逃げは、それぐらいしかできない傷ついた登場人物たちの逃避願望としてどうしようもない哀感を帯びる。
おもしろかったですよ『オーファンズ・ブルース』。すげぇ臭いけど食べると美味しいドリアンみたいな映画でしたね。褒めているのか貶しているのかよくわかりませんが!

2019/5/4:少しだけ書き直しました。

【ママー!これ買ってー!】


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上で書いてる先行作品というのはこれのことじゃないので大丈夫。貼ったのはなんとなく空気感に共通のものがあったから。

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