ハズフォールン外伝映画『ライブ・リポート』感想文

《推定睡眠時間:0分》

某トランプ大富豪が現実に合衆国大統領になってしまった手前いくら合衆国といえどもそんなヤツが大統領になるわけねぇだろとは言いにくいが政治手腕よりも手腕そのものの方が明らかに強そうなアーロン・エッカートが合衆国大統領を演じた邦題『エンド・オブ・ホワイトハウス』こと○○ハズフォールンのシリーズ最新作『エンド・オブ・ステイツ』ではアーロン・エッカートが降板してしまっていたので確かに『エンド・オブ・ステイツ』、面白くはあったがやはり筋肉大統領アーロン・エッカートあってのハズフォールンというわけで…『ライブ・リポート』、これこそがとまでは言わないが、『エンド・オブ・ステイツ』に欠けていたハズフォールン感に満ち満ちていたので外伝の称号ぐらいは与えていいだろう。『ハズフォールン外伝:エンド・オブ・リポート』。今日からこれがお前の邦題だ!

やっぱりね、合衆国はこうでなければいけないだろと思わせるのがこのハズフォールン外伝でのアーロン・エッカートは何かしらの…まぁみんなが一秒で想像するあれだが! とにかく何かしらの重い過去を持っていて銃で人を撃ちたくない平和な警官なのだが、この警官エッカートはデジタル式の目覚まし時計で朝起きるとまずは筋トレ、筋トレ、筋トレ&シャワーのセットそしてブラウン管テレビでニュースをチェック! これが映画の導入部だが、うなずきしかないね! 赤べこのようにうなずいてしまう!

うむ! これぞまさに俺たちの合衆国! どう考えてもこの日この警官はとんでもなくハズフォールンなテロとかに巻き込まれて撃ちたくない銃を撃たざるを得なくなるが最終的に合衆国を救って報われるに決まってるよな! テロリスト追っかけながら小粋なジョークとかかましたりしてな! 何度も「人生最悪の日だ」とか言いながらな! USA! USA!

さてパトロールに出た警官エッカートは少しばかり仕事をサボってそこらへんをうろついている生意気なチャリンコ黒人チルドレンにマイケル・ジョーダンがいかにレジェンドな選手だったか教えてやる。地域住民とのコミュニケーションも立派な警官のお仕事。ミネアポリス事件を発端に燎原の火の如く全米を覆った暴動が未だ続く2020年6月14日現在なんだか非常に社会派っぽく見えてしまう場面だがそんなわけは当然なく単にテロリスト系アメリカ映画のド定番をやっているだけだ。

シーンが変わると思い詰めた表情の彫像型シリアス黒人が洗面台で顔を洗っている。すわこいつが今回のテロリストの首魁かっ! と思いきやこの男は警察の偉い人。重要人物の誘拐事件を担当しており今まさに指定された公園で身代金の受け渡しをという重大局面。公園で! 身代金の! 受け渡し! アメリカのポリスアクション映画で身代金の受け渡しが成功した例は過去一度もないので(要出典)失敗するに決まっているしなんやかんやあって逃げた犯人を黒人チルドレンと遊んでた警官エッカートが単身追う展開になるに決まっている! さすがハズフォールン外伝は予想の斜め上なんかには絶対に行かない!

というわけでここから警官エッカートによる扉があったら突き破る、窓があったら突き破る、壁があっても突き破るし車は当然使い捨て、衝突上等横転上等爆発上等のカーチェイスをたまたま通りかかった鼻持ちならないビジネス白人から奪った車とかで繰り広げているその上空であまり意味もなく飛び交っている報道ヘリ、狭路地を駆ければ荷台とか使えばいいのに絶対にわざとダンボールを何段も重ねて手で運んでる男に激突、教会を通り抜ければ色々破壊し聖職者絶句、停車中の車のフロントガラスは犯人をぶつけてヒビを入れるためにある、そして始まるダウンタウンでの一大市街銃撃戦…というあまりにも、あまりにもUSAにダイハードな怒濤の犯人追跡劇が始まるのであった。

さてそこに絡んでくるのが謎の地下アジトに暇があれば潜伏しながら真実の報道を求めて日々生配信を行う市民ジャーナリスト気取りのイマドキ女子高生っぽい二人組! アクションカム片手に現場に出る方は穏健派だが『スパイダーマン ホームカミング』においてピーター・パーカーの相棒が言うところの「デスクの人」の方はラデイカルである。テレビのニュースは全部ウソ! 政府は私たちを洗脳してる! ワクチンなんかなくても自然の力でなんとかなる! 目指せ体制転覆! 話題の(?)アンティファの中でも過激派と呼ばれるような人はたぶんこういう人であろうとなんとなく思ってしまうからまたしても偶然の社会派である。

いや~、面白かったですね。これはもうポリスアクションとかサスペンスアクションとかそんな狭いジャンルに収めるべき映画ではないね。この映画のジャンルは合衆国です。合衆国というジャンルです。どのへんが合衆国ってこのテンプレ的な展開もですが各々には各々の職責もあれば大義だってあるんだよっていうのが本当に合衆国。

現場の警官、指揮する警官、反体制と真実を標榜する青臭い市民ジャーナリスト、その動画を利用して視聴率を稼ごうとする狡猾なテレビプロデューサー、一つの事件を巡ってみんな対立するのであるがそれは各々の信念であるとかやるべき仕事を決して譲らず貫こうとするから対立するのであって、一人一人がそうしたプロの合衆国市民であろうとすればこそ対立するのだ。誘拐犯でさえある意味ではその一人なわけです。

だから逆にその利害が一致したときにはわーっとみんなで団結して同じ作業に身を投じることもできて…別に暴動の映画ではないんですけどガッツリ膝を打ちましたよ。そうかこれが合衆国でデモとか暴動が起こる社会的メカニズムか! こういう心理でアメリカ人は路上に集うのか! ネタバレは回避しますけれどもなんかそういう感じになるんです映画の最後。

そこがもう絵面的にはアホらしいことこの上なかったが感動したね。こんなに脳筋なのに図らずもあれやこれやの社会派合衆国映画に負けず劣らず合衆国の現在を捉えているっていうのもグッときちゃう。三大映画祭で賞取りましたみたいな立派なアメリカ映画よりもこういう使い捨てのアメリカ映画の方に合衆国の凄さを感じますよ俺は。

足で走って車で走ってヘリでも走って東奔西走。警官エッカートがひたすら走る! とにかく走る! 走るだけで映画ってこんなに面白くなるものなんですなぁ。走りの合間に犯人(ら)との殴り合いと銃撃戦(これがまたなかなかの迫力!)を置いただけの脳筋作劇は超おもしろいと言うほかないし、走っているうちにお前誰だよ的な味キャラをどんどん巻き込んでいくシナリオは合衆国的祝祭感でいっぱいである。

パワー系トランスジェンダーとのほとんどシナリオ的な意味のないバトルなんか最高だったし(意味がないバトルこそ合衆国映画の合衆国映画たる所以なのだ!)さしたる理由もなく忙しいところに急に現われては即座に(脚本家に)存在を忘れられる黒人チルドレンには大笑い。やっぱ大統領とか検事とかとかよりもこういう現場系のお仕事の方がアーロン・エッカートは合うので警官役はハマってたし、キャラは薄いのにやたら重量感のある偉い黒人警官も素晴らしい。ザ・ニュートン・ブラザーズのフロア対応型ドンドコサウンド&ネオン系アンビエントもクールだぞ! 全部いいな。全部いい。これが合衆国の日常なんだぜみたいな「そんなわけねぇだろ」と言わずにはいられないラストも含めて全部よかった。

むむ! 見える! 見えるぞ! マウンティングゴリラが「警察バカすぎw」みたいなレビューをしているのが! うるせぇそんなの知ってるよ! こっちはそんなの分かって観てるんだよ! 確かにこの警察はめちゃくちゃ無能だが警察が有能だったら警官エッカートが単身活躍できないでしょうが! そういうことじゃねぇんだ! 映画の面白さはそんなことで決まったりしないだろ! ましてやこれは合衆国映画なんだから! 合衆国映画の警察なんか全部無能に決まってるだろうが!

見てもいない批判についつい仮想エア反論してしまうぐらいお気に入った。このテンプレ合衆国アクションと無自覚的な愛国的合衆国批判の融合がつまらないというのならいったいどんな映画が面白い映画といえるのかというぐらいにはお気に入った。ハズフォールン外伝の名に恥じない合衆国映画の粋を集めた見事な歌舞伎的合衆国映画でしたなこれは。恥じないも何もこっちが勝手に言っているだけなのだが!

【ママー!これ買ってー!】


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散々ハズフォールンと言いつつなんとなく思い出したのは『ファールプレイ』。

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