スーサイド奇面組映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』感想文

《推定睡眠時間:0分》

俺は前の『スーサイド・スクワッド』は面白いんだ派なのでジェームズ・ガンがスースクを…と知った時にはうわそれもう絶対くそぅって感じになるじゃんそれもう絶対めっちゃ面白いからちくしょうって感じになるじゃんと思っていたのですが蓋を開けてみれば! 超面白くてかつ前のスースクを毀損しないので嫌な気分にならない! さすがジェームズ・ガンという人は映画作りがとてもかなり巧いですよね。

前のスースクの何が良いってあのヤンキーとか前科者のヨゴレ現場仕事感が本当よかった。わかる。まぁそれなりにはわかる。俺はアメコミ勢ではないので肌でわかることはできないがなんていうんですかね展開とか雰囲気とかキャラ造形とか全てひっくるめてあのドリームの無さっていうか現場感っていうか、うん、たぶんアメコミ映画観るつもりであれ出てきたらキレると思うわ。でも俺はアメコミ勢ではないのであの任侠映画とか集団時代劇然とした作りが好きだったんですよ。あの任務の途中で一回飲み屋に入るところとかね。あぁいうの超いいじゃないですか!

今回のスースクでも飲み屋っていうかナイトクラブ一応入りますし移動中の車内での脛の傷語りとかもありますけど経済性が違います。ジェームズ・ガンは映画を巧く作ってしまうから物語が停滞しないようにそういうのを入れる。でも前のスースクの飲み屋は物語がそこで明確に止まる。だめじゃん! いや、だからさ、でもそっちの方が肉体労働現場のリアルじゃないですか! 現場ってちょくちょく止まるんだよ! アメコミ映画に現場のリアルはねぇよと言われたらそうでしょうねと感嘆符を十個付けて泣きながらついでに小便も漏らしながら返すしかないわけだが、ともかくそういうところが愛おしい映画が前のスースクだったのです。俺にとってはね!

でそういうヤンキー感覚、肉体労働者感覚だった前スースクに対して今回のスースクはクラスとか職場の日陰者の感覚です。ヤンキー漫画も現場系漫画も基本読まないので前スースクに対しては適切なたとえが浮かばないが今回のスースクはあれですよ人が500人ぐらい死ぬ版の『ハイスクール奇面組』、のクラブ挑戦回。個性の強すぎる面々がどたばたしながら協力しているのかしていないのかよくわからないがとにかく一緒に強敵に立ち向かうという点でも、別行動組のハーレイ・クインがイドリス・エルバ演じるブラッドスポート以外のメンバーとほとんど絡まず合流するとなんとなく収まりが悪くなるという点でも『ハイスクール奇面組』です。

奇面組リーダー零くんのライバルといえば春曲鈍だが鈍ちゃんは単独もしくは零くんと一緒に出てくるときには面白いのに奇面組と絡むとなんか微妙な感じになるんだよな。つまりハーレイ・クインは鈍ちゃんでした。どうだろう! 同じジャンプ名作漫画では『幽遊白書』もNetflixで実写化されるそうですし『ハイスクール奇面組』もジェームズ・ガン監督で! ないだろう。

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傑作なのはワーナーブラザーズ・プレゼンツ的なクレジットの出し方である。文字通り血の海から浮かび上がるクレジット! まさかそんなところでそこから出すとは…これは三池崇史の実写版『殺し屋1』に出てきた精液クレジットに匹敵する悪趣味映画の歴史に刻まれてもよいクレジットですね! テロップ遊びが全編に渡って出てくる映画だが最初にこんなの出されてしまったら超えられない。大胆なアバンタイトルもぶっちゃけ本筋以上に面白かったので何か順番を間違えているような気もするぞ。

『ハイスクール奇面組』だから前スースクと違ってギャグ満載キュート満載、現場感がない分だけ肉片をまき散らしながらサクサク進んで楽しい。今回いいですよねキャラが立ってる上に和気藹々としてて。すぐ近くの人を食べちゃうアホの子キングシャーク! 男ならパンツは白ブリーフのピースメーカー! カラフルなノーマン・ベイツことポルカドットマン! ネズミさんがお友達ラットキャッチャー2! 強面なのにネズミがドラえもんぐらい苦手なブラッドスポート! 『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』で更生したかと思ったのにまたショボイ罪状で収監されてスースク送りにされてしまったハーレイ・クイン! あとチュパカブラみたいなやつほか色んな個性をお持ちのみなさん!

前スースクのちょっとした冗談も一切通じない素人が話しかけてはいけなそうな人たちに比べて今回はこのように愉快な面々ですから虚勢を張るような感じもなく、張り合う時でもどっちがより面白い方法で人を殺せるかみたいなキャッキャとした感じになります。そんなことで殺される側はたまったものではないが。

しかし愉快なだけでは終わらせないのがジェームズ・ガン印でバカっぽく見せつつも凶悪兵器を保有する独裁国家の泥沼権力闘争を背景にしたアメリカの軍事介入の功罪を描くあたりはトロマ出身の意地を感じる風刺精神、その政治風刺は駐留米軍の完全撤退を間近に控える中でアフガニスタン情勢がなにやら緊迫している現在にあって想定外のアクチュアリティを獲得してしまった。ガンのジャーナリスティックな眼差しがアメリカのリアルを正確に捉えていたということでしょう。

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血がドバドバ出で人がザクザク死ぬだけじゃなくてそういうところも面白いのでキングシャークはかわいいしキングシャークはかわいいしキングシャークはかわいいしスタローンが声優をやって滑舌の悪さを自虐ネタにしているキングシャークはかわいいしなんか完璧な映画のようですがでもあれだよなハーレイ・クイン、殺人アクションを沢山やってくれるのは良いんですけどやっぱかなり浮いてたからスースクじゃなくてそういうの単独主演の方の新作でやってもらいたかった。

なんかハーレイ・クイン入れた方が客入るだろみたいな大人の事情があったのかそれとも原作(?)準拠とかガンの要望だったりするのか知らないんですけどほぼほぼ別行動だし新スースク部隊の作戦行動に話を絞った方がまとまりも良くて勢いも出たよな。それにハーレイ・クイン悪党じゃなくて普通に良い人なんですよ。これは本当に作りが巧い映画で不謹慎ギャグとかわりとガンガン入れてくるんですけどモラル的にアウト寄りの行動を取ったキャラはそれとなく退場させられるっていう、そこでバランスをちゃんと取っていて、だから不謹慎まみれの映画に見えてハーレイ・クインとかは(映画的に)退場しないように巧妙にそこをすり抜けるんですよね。スースク本隊とは別行動っていうのはそのためもおそらくあって(本隊の連中はアウト寄りの行動を取るので)

だからなんか、大人だなぁって思いましたよ。大人が作ってるんだからそりゃそうなんだろうけど、あんなに人を殺して不謹慎ギャグもやったのに最後は結局泣けるイイ話みたいになるんかいとか思ったりもして、俺はそういう点では前スースクの方がブレなさっていうか、器用にできないけど精一杯できる限りのことをやろうとしてる感があって好きなんですよね。新スースクはなまじガンが映画を巧く作れてしまうものだから逆に特攻部隊送りにされた人(と獣)の匂いがないっていうか、むしろ特攻部隊を管理する側の目線で撮られているように思えた。

そこも含めて前スースクの単純な上位互換って感じじゃなくて結構差別化されてるんで、新スースクを観れば前スースクを観たくなるし、前スースクを観れば新スースクを観たくなるしで…いや、後者のパターンはともかく前者のパターンはあんまりないかもしれないですけど! まぁでもね! 作り直しのようで作り直しじゃない、前スースクとはあくまで相補的な関係にある新スースクって感じで、とてもよかったと思います!

【ママー!これ買ってー!】


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監督したのにスタジオの意向で色々改変されて劇場公開版は自分の作品ではないとまで言っているデヴィッド・エアーのディレクターズ・カット版が観られる日は来るのだろうか。

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banksy7
banksy7
2021年8月17日 12:56 PM

1956年大映作「宇宙人東京に現わる」に登場するヒトデ形の宇宙人「パイラ星人」にスターロがあまりに似てるんでエンドロールのクレジットにも何も記載無かったですね。岡本太郎怒るぞ。  
https://youtu.be/HqDP9AE-9oo

通りすガリバー旅行記
通りすガリバー旅行記
2021年8月25日 4:12 PM

なんで若いのにそんなに奇面組に詳しいんですか? あまつさえ春曲鈍まで・・・! 奇面組知ってる人って、今はジジイですよ! 私もしかり。それでも奇面組を見たのは小学、中学の時分でしたからねえ。パチンコだって20年近く前ですしねえ・・・。でも、あまりうれしくなかったんですよ。北斗、ドラゴボ、シティハンターがいまだにもてはやされるの見ると、ワシなどケンシロウとラオウの戦いをリアタイで見たのじゃ! 当時はアニメ見たとしか思わなんだが、実際は歴史を見たんじゃのう・・・などと感無量ですし。で、愚考した結果、奇面組はレジェンド作品と肩を並べながらも、80年代で終わったコンテンツだからと推測。実際、奇面組の勢いはものすごく、アニメ化の際には主題歌をおニャン子クラブが歌唱するという、当時の流行最先端に乗っかっていた「ナウい」作品でありながら、作者の持病悪化などで終了後の展開がほとんどなかったんですよね。ゆえに、ジジイ同士の雑談で、奇面組知ってる~? というのが同年代の確認にもなっていたのです。だから仲間内の合言葉を知られたかのような気持ちになっちゃったかな。まだ新スースク見てないので感想は後で書きま

通りすガリバー旅行記
通りすガリバー旅行記
Reply to  さわだ
2021年8月26日 10:00 AM

乱筆乱文、誠に失礼いたしました。年甲斐もなくハシャいだ内容のコメントを誤送信してしまい、汗顔の至りです。文章の恥ずかしさに気づき、投稿やめよーと思ってたんですがうっかり・・・で、映画見てきました(笑)
ついでに『フリー・ガイ』も観たのですが、展開似てるな~と感心。脚本にマニュアル的なものがあって、監督が職人的だとこうなるんだな、と。あと、ブログ主様の見解には大賛成で、前作よりはるかに不謹慎エンタメしており、正直、めちゃくちゃ面白かったです。前はウィル・スミスがヒューマニズム過ぎて、人情もの見たくてスースクとか見るわけねーだろ! と不満タラタラだったので・・・。ラストの展開は、おっしゃるとおりアフガン情勢そのものでしたね。これが冷戦下なら核攻撃で全て抹消とかになったんでしょうが、時代の流れを感じました。
奇面組って続編あったんですね。新沢基栄は作品コンセプトが明確かつ最後まで守り通した異例のジャンプ作家なんですよね。あだち充っぽい漫画書いたら傑作を連発したのではと惜しまれます。これからは、同年代の確認には『かぼちゃワイン』を使おうかと思ってます(笑)