ズタズタ映画『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』感想文(ネタバレ途中からあり)

《推定睡眠時間:0分》

リアルに人が死ぬんなら怖いとか怖くないとかそんなレベルの話じゃないだろうと思うのだが開幕ショットが開店準備中のお化け屋敷で一生懸命釘を打ち付ける殺人鬼と思しき何者かということでツッコミどころ連発の映画であったが頑張ったしな、みたいな慰労の感情でツッコミどころ全部チャラ。作ってたねぇ、お化け屋敷。釘を打って、資材切って、小道具の斧とかもちゃんと自分たちで作ってですね…やはりね、殺人といえども手間を惜しんではいけないし演出を惜しんでもいけないんですよ。ただ人を殺したいだけの殺人鬼なんて二流三流もいいところだ。そんなやつは刑務所にぶち込んで米国法により禁錮800年とかになってしまえばいいんです。

一流の殺人鬼ともなれば違いますよ。殺しが目的ならそこらへんの若者を拉致してくればいいだけなのにこのお化け屋敷殺人鬼はあえて殺人を我慢してまず殺人お化け屋敷を作ることから始めますからね。お化け屋敷を作るというが何も廃墟の不法占拠とかではない。なにせこのお化け屋敷はちゃんと看板も出てるしちゃんとネットにも載ってるしちゃんとグーグルレビューで星二つとか獲得しているのだから殺人鬼の戯れではなくもはや立派な商売だ。いや誰なんだよその星二つレビュアー! お前生きて帰ってこれたのかよ何気に!? 犠牲者寄せのためのサクラレビューの可能性もあるが、わざわざ、わざわざ若者たちに来てもらうためにサクラレビューをグーグルに書き込む殺人鬼の姿を想像すると…一流の殺人鬼ともなると殺しなど副次的な目的なのだろう。主目的はアミューズメント施設の経営である。

それにしても、あらすじに「殺人鬼たちが作ったお化け屋敷」とか書いてあったから比喩的な表現かと思っていたら本当に作ってるんだもんな、ちょっと驚くよなそのそのまんま加減。まぁストーリーの方もそのまんまだったね。ハロウィンの夜に若者グループが町外れのお化け屋敷に行くんですよ。そしたらそこが殺人お化け屋敷で中は迷路みたいになっててデストラップとかたくさんある。仮面の殺人鬼もたくさんいる。で一人また一人とデストラップおよび殺人鬼に捕まって死んでいく。で生き残った若者連中は迷宮的な殺人お化け屋敷に仕掛けられたトラップを回避して追跡殺人鬼を振り切って脱出ゲーム的な謎を解いたりして脱出を目指す。ランタイム92分。

いいですねこの、なんというか、マクドナルドみたいな。大事なところでサッとカットが変わってしまうとはいえゴア上々、徐々にジョークが本気に変わっていくあたりはなかなかの怖さ、定番の主人公のトラウマも適当に噛ませて名作ホラーのオマージュいっぱい、頭の栄養には一切ならないと思われるがゲーム感覚で面白いシリアスバカホラーでした。

ここからは世界一怖いネタバレが絡んでくるので心臓の弱い方やネタバレを見ると死んでしまう方はご遠慮ください。

切ったんだろうなぁ。制作段階で実際になにがあったか知らないがここまで露骨に切ったんだろうなぁと思わせるホラーというのも最近では珍しいというか、切るにしても普通もうちょっとそつなく綺麗にまとめる感じで切ると思うんですが、なんか森林伐採みたいに荒っぽく切ってるので事故感が出る。俺の見立てでは最低20分は切ったね。後半の展開があまりに性急で意味不明だし、ゴア描写も…おそらくもっとじっくりはっきり人体損壊を撮っていると思うのだが、レイティング通らないからみたいな理由でこれもかなり切ってるんじゃないかなぁ。

たぶんそれで90分ぐらいにして、R指定外して、でキッズなんかにも観てもらおうみたいな、そういう興行上の判断があったんじゃないの。プロデューサーはイーライ・ロスだし随所に散りばめられた名作ホラーのオマージュを見てもディレクターズカット版(がもしあるなら)の方向性はそんなぬる映画じゃないと思うんですけど、結局配給に当たってこれだと厳しいってんで配給会社方針によりぬる方向に舵を切ったんじゃないすかね。観てみたいな、ディレクターズカット版。ソフトに入るかな。いやあるかどうかわからないんですけど。

まぁそんなわけでとくに後半が酷いね。面白いけど酷いよこれは。殺人お化け屋敷のスタッフをやってる仮面の殺人鬼が仮面を脱ぐとダースモールみたいな顔面ピアッシング怪人、いったいこの人は何者なんだろうと思ったら最後の方に急に出てきた殺人お化け屋敷の雇われスタッフが「あいつは彫り師なんだ! 仕事を手伝ったら俺にもタダで掘りを入れてくれるっていうから…」衝撃の告白の直後、この雇われスタッフは殺人鬼の一人に撃ち殺されてしまうのだが、彫り師ってなんだよ。いやマジでなんだよ彫り師って。お前さては説明のための追撮キャラだろ。後から書き換えられた設定を説明するための。

これも俺の想像でしかないのだがおそらくこの映画のひな形になっているのはお化け屋敷を舞台にしたトビー・フーパーのフリークス・ホラー『ファンハウス』なので、あの殺人鬼集団というのも彫り師とかではなく、元の脚本ではおびき寄せた若者を殺しては金品を奪って全米を放浪するロマ的なフリークス仲間だったんじゃないだろうか。後半がどう考えても超端折られているというのも元脚本では殺人鬼集団の正体が明かされる展開になっていたからでと思えば合点がいく。で、一応それで撮ったけど会社の人に試写で見せたらこれ差別的だって叩かれるんじゃないのみたいな自己検閲が働いちゃって…憶測ですよ憶測。

全部俺の憶測ですけど、でもそう考えると色々繋がるところもあるんすけどねー、どうなんすかねー。あぁ、ますます観たくなってしまうよ、ディレクターズカット版。あるかどうか知らないけど!

までも結果論でいえばそれはそれで良かったんじゃないかというところもあり諸々端折った結果後半はストーリーらしいストーリーもあまりなく誰だかわからない奴が急に現われては消えていったりやたら人を殺したり殺されたり唐突に物を壊したり壊されたりするだけの場面が続きわけがわからないなりに妙な面白さがある。一貫性を欠いた単なる出来事の連なりはゲームっぽさを醸し出して、『Dead by Daylight』とか『デメント』みたいなホラゲーを彷彿とさせたりしなくもない。ホラゲー好きなのでこれは嬉しい誤算。ぼくのフェイバリット・ホラゲーは『クロックタワー ゴーストヘッド』なので他の人には残念な誤算でしかない可能性もありますが。

『キャリー』かあるいは『エルム街の悪夢』オマージュと思しきをびっくりバッドエンドの後になんの説明もなく主人公の逆襲エンドが入ってくるあたりも含めて(これも元々はバッドエンドだけだったところに試写で反応が悪かったからみたいな理由で無理矢理付け足されたんじゃないかなぁ)後半の破綻っぷりは相当なものだが、開始45分ぐらいはどちらかと言えばネタはバカだが丁寧な筋運びで、キャラ立てもしっかりやってるし殺人お化け屋敷に入っても即首チョンパみたいなことにはならず、むしろ最近のホラー映画としては相当に人死にが遅い人命を尊重するタイプ。

お化け屋敷の映画だからというわけでお化け屋敷のドキドキ感をちゃんと大事に撮ってるわけで、その厭な感じ、しょせんアトラクションと思っていたはずの空間が、しょせんお化け役のスタッフと思っていた人々が、次第に悪意を帯びてきて気付いた時にはもう逃げられなくなっている…っていう状況が怖くていい。この監督コンビは音を立てたら死ぬホラー『クワイエット・プレイス』を撮った人たちだそうで、個人的には『クワイエット・プレイス』は全然感心しないホラー映画ではあったが、あちらも恐怖の具体的な対象や出来事よりもシチュエーションで見せる映画だったから恐怖の状況を撮るのが上手い監督コンビなんだろうと思う。

助けに来たかと思われた主人公のストーカー彼氏が殺人お化け屋敷に到着して秒でぶっ殺されるのは『シャイニング』オマージュか。終盤の寝室の場面ではやはり『シャイニング』ネタと思しき鏡文字も使われていた。舞台がイリノイ州のハロウィンの夜なのは『ハロウィン』(オリジナル版)から取ったのかもしれない。劇中テレビで流れる映画は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、殺され役の主人公一味の一人がやってるコスプレが『ムカデ人間』、殺人お化け屋敷は前述の『ファンハウス』もあるだろうが『マーダー・ライド・ショー』も含有。主人公の名前がハーパーというのは『サスペリア』のジェシカ・ハーパー由来か? 顔立ちはなんとなく『フェノミナ』のジェニファー・コネリー系統だが…と、ネタは尽きない。

いや、面白い映画なんですよ、いろんな恐怖ステージ、いろんな恐怖トラップ、いろんな恐怖シチュエーションがあって。根性試し部屋とかマネキン部屋、スピーカーで爆音に増幅されたチェーンソーのうなる部屋なんて絶対に入りたくない。殺人鬼集団の虚ろな存在感もイイ感じに気持ち悪い。総じて面白い怖い映画だったし、後半の破綻も見方を変えればオリジナリティというもの。
よかったですよ。よかったんですけどでもね! やっぱり! 存在するのならディレクターズカット版、観てみたいよなぁこれは…。

【ママー!これ買ってー!】


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まぁ確かにこういう題材を今そのまんまやったら倫理的にアウト扱いされるだろうなっていう気はするよね。昔の映画を観よう。

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